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エピローグ クレハとルシアとソフィアと

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 その後、俺はソフィアとルシア、そしてマクダフたちを回復させた。三人とも後遺症が残るような怪我ではなくて良かった。クレハが泣きながらソフィアたちに謝っていたけれど、ソフィアもルシアも微笑んでクレハを許していた。

 すでに王太子は戦意を喪失しており、おとなしく捕縛された。彼の真の願い、姉に会うという願いはついに実現しなかった。

 アリアはといえば、なぜか積極的に俺に協力するようになっている。「もともとゲームでもクリスさんが一番好きだったんですよね」としれっと言い、ソフィアに睨まれていた。

 皇女シャルロット・カレンデュラも救出している。彼女も無事で良かった。俺たちは、旧カレンデュラ帝国領域に、帝国人による自治を行ってもらうつもりだった。その際に、彼女は旧帝国結集のシンボルとなるだろう。

 俺たちは宮廷魔導師団と近衛騎士団をまとめ、王宮へと進軍した。王太子も聖女も降伏した今、宮廷魔導師団と近衛騎士団は、本来の指揮官である俺やルシア、マクダフの復帰を歓迎していた。大きな抵抗もなく、王宮へと入場する。

 そして、王宮の謁見の間に突入する。

 謁見の間は広々としていて、豪華なシャンデリアが光り輝いている。そのなかの赤い布で覆われた椅子に国王は座っていた。

 国王は白髪と白ひげの目立つ初老の男性だ。ダイヤモンドの輝く王冠をかぶって、真紅の衣に身を包んでいる。

 久々に見ると、やつれが目立つ。かつて名君と呼ばれた国王の姿に、俺は心を痛めた。

「クリス・マーロウか。久しぶりだな」

「陛下……」

「何も言わずともよい。わしと王太子は負けたのだろう?」

「ご推察のとおりです」

「わしは退位し、ルシアに譲位しよう。それで良いかね?」

「結構でございます」

「だがな、諸君に待っているのは苦難の道だ。アルストロメリア共和国の大軍は、すでに我が国に進軍している。力がなければ、この国を治めることはできん」

「だから、陛下は力をお求めになったのですか?」

「そのとおり。多くの国を滅ぼしたのもわしなりの考えもあってのこと。……フィリアが生きていれば、わしはこんな苦労をせずとも済んだ」

「もはや陛下は苦労をする必要のない身となられるのです。その苦しみは、ルシア殿下が、そして我々が引き受けることになるでしょう」

 国王はうなずくと立ち上がり、そして、ルシアを手招きした。国王はルシアの頭に王冠を授けた。
 ルシアは緊張した様子で、王冠を受け、その赤い髪に、重い王冠がかぶせられた。

 そして、みなに見守られるなか、ルシアは玉座についた。
 ルシアは微笑むと、みなに向かって宣言する。

「私が王となるのは、皆さんの協力あってこそのことです。そして、これからも皆さんの、いえ、すべての人々の協力がなければ、私は王位にあることはできないでしょう。神よ、我らに祝福を、マグノリア王国に祝福を与え給え」

 ルシアの言葉に続き、その場の宮廷魔導師・近衛騎士・廷臣たちが唱和する。

「神よ、我らに祝福を、マグノリア王国に祝福を与え給え! 国王ルシア陛下万歳、国王ルシア陛下万歳!」

 もちろん、その斉唱には俺も加わった。
 やがて唱和の声がやむと、ルシアは俺に目を向けた。

「大戦の折も、このたびのことも、クリス・マーロウの尽力がなければ乗り越えることができませんでした。皆さんの忠誠と貢献は疑いようもないものですが、中でもクリスの功績は群を抜いています」

 一同から「ルシア陛下のおっしゃるとおり」と同意の声が上がる。ルシアはうなずくと、俺を呼び寄せた。
 俺はうやうやしく、ルシアの座る玉座の前にひざまずく。

「顔を上げてください、クリス」

「マグノリア国王ルシア陛下。こうお呼びしなければなりませんね」

「『ルシア様』と呼んでくれるのではなかったのですか?」

 からかうようにルシアが言い、くすっと笑う。俺が困っていると、ルシアは「冗談です」と付け加えた。

「マグノリア王国は、そして、私は一度あなたを追放しました。勝手なお願いとなりますが、また宮廷魔導師団に戻ってきて、団長として私を支えていただけますか? アルストロメリア共和国との戦いに勝つには、クリスの力が必要です」

「もう遅いですよ、陛下」

 俺が言うと、ルシアは「えっ」と絶句した。拒絶されたと思ったのか、ルシアは慌てた様子で、しかし次の言葉も出てこないようだった。

 そんなルシアを、俺は微笑ましく見つめる。彼女は、かつては俺を頼る十二歳の少女魔導師だった。それが今では国王陛下だ。

 そして、俺はルシアに告げる。

「この身はすでにマグノリア王国に、ルシア陛下に捧げられています。もうとっくの昔に、私はこの国のために戦うことを決めているんですよ。今更そのようにおっしゃられても、もう遅いですね」
 
 ルシアは目を大きく見開き、そして、くすくすと笑った。

「クリスは本当に意地悪ですね」

 ルシアは、クレハに目を向ける。ルシアは寂しそうな表情になり、小さな声でつぶやいた。

「本当は、クリスには、私の夫としても私を支えてほしかったのですけれど。でも、それは今の所、諦めなければなりませんね」

「ええと……」

「私にキスまでさせておいて、私よりクレハの方が大事だなんてよく言えたものですね?」

 ルシアは頬を膨らませて、俺を睨みつけた。すぐ近くにいるクレハを振り返ると、顔を赤くしている。

「まあ、今はいいです。でも、私は諦めないんですからね」

 そう言うと、ルシアは柔らかく微笑み、玉座から立ち上がった。
 そして、玉座の前の一同に、高らかに宣言する。

「さあ、私たちの敵、神々の敵であるアルストロメリア共和国と戦いましょう。そして、一刻も早くこの戦争を終らせるのです!」

 ふたたび「ルシア陛下万歳」という声が上がり、謁見の間は興奮に包まれた。俺はそっと玉座の前から下る。
 すると、ソフィアが俺に近づいてきて、ささやく。

「一つだけ心配なことがあるんだけれど」

「なにかある?」

「これって乙女ゲームでは、どのルートのどういう結末なのかしら。さっぱりわからなくて……」

 ソフィアが思い悩むように腕を組み、「うーん」とつぶやく。俺は微笑んだ。

「たぶん、どのルートでもないさ。この世界は物語からは解放されたんだよ」

「そうだといいのだけれど」
 
 そして、ソフィアは青い瞳で、俺を見つめる。

「わたし、あなたのことが好きって言ったわ」

「ええっと、その……」

「返事はいらないの。今はまだ、わたしは……クリスにとって、クレハちゃんやルシア陛下の次だって、わかっているから。でもね……もし、この世界が物語から解放されたのなら、悪役令嬢のわたしにも、クリスとくっつくことができるかなって、そう思うの。だから……」

 ソフィアはいたずらっぽく笑い、そして、俺の頬にそっとその小さな手を当てる

「覚悟しておいてね?」









<あとがき>
もしかしたら外伝を書くかもしれませんが、これにてひとまず完結ですっ! 

この作品が面白かった方は、下記のわたしの作品もテイストが近いので、読んでいただけると嬉しいですっ!

・美少女皇女様の弟子とイチャラブする『追放された万能魔法剣士は、皇女殿下の師匠となる』(漫画連載中)

・婚約者vs幼馴染が同棲しながら修羅場するラブコメ『北欧美少女のクラスメイトが、婚約者になったらデレデレの甘々になってしまった件について』
なろう→URL:https://ncode.syosetu.com/n2174hf/

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みんなの感想(2件)

メイウィル
2022.05.26 メイウィル

王太子は壊れてるな。
姉を生き返らせたとして、それを本人が望むと?
そしてアリアは馬鹿でしかないな。一番脆い鎖と言うけど、それは同時に特大の地雷でもある。
輪を壊そうとした結果、逆に自分が入り込む隙間がなくなって王太子の首を絞めることになるぞ。

解除
卓也
2022.05.23 卓也

転生者の視点で無く、現地(異世界)の人物視点で、進めていく?
中々斬新に作品で続きが気になる作品ができてますね?

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