上 下
26 / 32
2章、取り戻すために

26話、絆の盾

しおりを挟む
 数日前に俺を瀕死の重傷へと追い込んだ、あの2体の黒いオーガと向かい合っている。あの日、俺の不意を突いたアイツ両腕がやや前に陣取って、フレイムバード蒼い炎鳥で左腕を失った隻腕オーガは数歩後方にいた。

 俺達パーティーの作戦は、俺とミゲルさんが1体ずつを受け持ち、マリーさんがそれぞれをフォローする形なんだけど、マリーさんは弓使いな事もあってか防具は軽装を好むそうなんだ。軽装であの大戦斧の一撃を喰らったらひとたまりも無い。
 アンリエッタさんがここにいても同じだと思う。彼女もきっと軽装だ、魔法使いという特性上マリーさんよりも更に軽装かもしれない。
 だから俺達前衛は常に後衛を守り、危険に晒さない動作が求められる。
 立ち回りや動きについては、ミゲルさんと何度も話し合いはしてきたし、今後も向上を目指して努力を続けていくと決めている。

 異世界と2人の女性に感謝したい。
 偽らざる俺の本音なんだ。
 その彼女達を危険に晒すなら、冒険者なんて続ける意味が無いだろう?
 だから努力する。誰よりも強く在りたいと切に願うんだ。

 さてと、まずは眼前のコイツ両腕の敵意を俺に向けさせる必要があるな。
 あのバカでかい斧は攻撃範囲も相当に広い、奴等だって互いに距離を開けなければ戦い辛いはずだ。そうだろう?
 そう考えた俺は、両手が健在な黒いオーガを煽る様に睨みながら、奴を中心に半時計周りに移動を開始する。
 ズウン、ズウンと足音を大地へと響かせて、アイツ両腕が俺へ追従する。
 いいぞ、ついてこい。
 
「風よ、彼の者を地の束縛から解放せよ ーエアリエル風の加速ー 」
「風よ、厚き壁となりて守り給え ーウインドシールド風の盾ー 」
 もう間もなく戦いの幕が切って落とされようという頃、後方からマリーさんの声と共にシュルルッと柔らかな風が俺を包み込む。マリーさんの風の補助魔法速度アップだった。
 ミゲルさんには風の防御魔法が掛けられたみたいだね。
 
 呼吸を沈め精神を統一していく。
 深く深く落ちた時、体は静かに一歩を踏み出した。
 その一歩は間合いという名の、奴の絶対防衛圏を超えて侵入する。
 ガアアアアアア
 その許されざる一歩侵犯を皮切りに、奴が大戦斧を横なぎに払う。
 くっ。あまりにも歪で巨大な大戦斧を横なぎに払われると、間合いを詰める事ができない。ならば……。
 ゴウッ
 再び、風を切る轟音と共に奴の大戦斧が横薙ぎに空を切り裂く。
 ガキィィン
 豪速で目の前を水平に走る奴の斧に、垂直に刃を当てた。
 森に木霊する甲高い金属音と、迸る火花。
 奴が放つ薙ぎの二の撃、三の撃全てに刃を突き立ててやる。

 コイツ両腕は前回の戦いで、懐へ侵入を許したせいで俺に斬られまくった片割れの隻腕戦いを見て学んだのだろうか? 間合いを詰められるのを警戒するあまり、薙ぎの攻撃ばかりが続いていた。
 続けられる薙ぎの攻撃に、懲りずに再び垂直に刃を当ててやる。
 するとほんの一瞬攻撃が止まり、奴の醜悪なるツラがニタァと醜く歪んだ笑った
 『斧を攻撃して何になる。貴様、もう手詰まりなのか?』とでも言いたげに醜く歪んだよ。そして奴の片割れ隻腕何時いつか見せた様に、コイツ両腕も肩回りや腕周りの筋肉をボコボコっと異様に隆起させ、眼を真っ赤に染め上げ奥歯を軋ませながら大戦斧を振るった。
 まさに巨石をも断つ剛速の一撃が薙ぐ。
 剛速で眼前を横切ろうとする、奴の死の刃に恐れず立ち向かう。
 瞬きすら追いつかない、刹那すらを超えたその先の、神速の真向斬りを奴の大戦斧の一点に叩き込んだ。

 キィィィィィン
 まるで嘘のような、金属の澄んだ音が森へ響くと。
 パキッ、ミシッ……ズウン
 歪で巨大な、あの大戦斧が真っ二つに割れて、地へと落ちた。
 剛速に振るわれる奴の大戦斧を、寸分違わず同じところを穿つ俺の一撃は、最後に奴の斧を両断してみせたのだ。

 まさかの事態に狼狽え、後ずさる黒オーガ両腕
 目には怯えが宿り、じりじりと後ずさる。
「お前を、逃がす訳がないだろう?」
 その山の様な巨体を翻し、俺から逃げようとした瞬間。
 黒オーガ両腕の脚にストトンと複数の矢が突き刺さる。
 奴が見せた、ほんの僅かな隙を見逃さずに刺さる矢が、『私だって貴方を見守ってるのよ』と主張しているようで嬉しかった。
 脚を射られ、逃げ切れないと悟った黒オーガは、怒りと覚悟の大咆哮を上げて俺へ向けて突進する。奴の最後の武器である双爪を最小の動きで躱し、合わす太刀で奴を斬った。
 奴の右腕を斬り、左腕を斬り落とし、最後に残った首を落としてやると、大きな大きな音を立てて黒オーガ両腕は地へと伏せた。

 父さんやったよ……と亡き父へ報告するかの様に、剣を握る右手にほんの少し力が入る。だが状況はまだ予断を許さず、俺に感慨に浸る暇を与えはしない。
 急ぎミゲルさんの援護へ向かわねばならないのだ。
 踵を返し、ミゲルさんの方へと急ぐ。
「お待たせしました」
「なんの」
 ミゲルさんは隻腕の攻撃をその盾で凌いでは、片手剣で堅実に反撃を積み重ねていて、隻腕の残された最後の腕には数本の矢が刺さっている。
 と言うよりも、体中の至る所にマリーさんの矢が刺さっていた。
 矢に苛立った隻腕がマリーさんを襲おうと進路を変えると、ミゲルさんが奴の前に立ちはだかり守るんだ。

「2人とも、凄いなぁ」
「こう見えて必死さ」
 ミゲルさんが謙遜する。
 俺が居なくても勝てそうじゃないか……。
 騎士団を半壊に追い込んだ、あの黒いオーガだよ?
 頼もしい2人を見て、自然と笑みが零れる。

 ミゲルさんと向かい合い、熾烈な攻防を繰り広げる隻腕の背後へスッと近づき、目にも止まらぬ速さで刃を疾らせると、隻腕の巨体もまた大地を震わせ横たわり、ゴロンと奴の首が転がった。

 ほんの数舜、森へ静寂が訪れ3人の視線が交錯する。
「や、やったのか?」
「ええ、やりましたよミゲルさん」
「────ッ!!」
 男達は天を仰ぎ、声に鳴らない叫びを上げる。
 一人は、幼少から愚直なまでに努力を続けるも、騎士まであと一歩の所で夢破れ、その体は大きく傷ついて社会から捨てられた。もう一人は大事な父を失い、守るべき家も、その名も、愛する女性すらも奪われた。そんな2人の声にならない叫びが森に響いていた。
 いつしか抱き合い健闘し合う2人を、横から包むようにマリアンヌが抱擁する。
「みんな、凄いんだから」
「マリーさん」「マリアンヌさん」
 3人の頭がぶつかる。
 心地よい痛みだった。

 最愛の人が居なくなったあの日。
 俺が心の底から喜べる日が、もし、来るとすれば。
 それは、アンリエッタさんを取り戻した日だと思ってたよ。
 でもそうじゃなかった、アンリエッタさん。
 世界はそんなに単純じゃなかったよ。

「ところでマリーさん?」
「なあに? フェリ君」
「討伐証明って、黒オーガの場合どうするんですか?」
「う……」
 マリーさんが一歩たじろいだ。
 彼女がこのような姿勢を見せるのは珍しい……。
「ま、まぁ、一般的にはやっぱり……、く、首じゃない? あとは魔石ね」
「「え、首?」」
 ミゲルさんと俺は思わず見合う。

 首ですって、ミゲルさん。
 ああ、首だよフェリクスくん。
 男の仕事よ、これは、うん。
 声には出ていないけれど、色々飛び交ってたと思う。

「黒オーガの首って結構ゴツイですけど……、これ持って帰るんですか?」
「え、えぇ……、フェリ君えらいわね。お、お姉さん褒めちゃう」
「ふぅ、仕方がないか……」
「あぁ、仕方がない。僕がもう一体の方を持つよ」
「ミゲルさんすいません」
「わ、私は魔石取ってくるわね~」
 マリーさんがぴゅうっといなくなった。
 幸い奴らを倒す際に首は飛ばしていたから、後はそれを持つだけなんだけどね。
 ただ、まぁまぁ絵面がエグいんだ。
 マリーさんが嫌がるのも、分かる気がするほどにグロかったよ。
 
「ちょっと2人とも、これ見て!」
「はい?」
「どうしました? マリーさん」
「これ、どう思う?」
「え、黒い魔石?」
「そうよ、真っ黒な魔石だなんて初めてよ……」
「ミゲルさんは見た事あります?」
「いや、僕もないな……」
 冒険者ギルドで働いていたマリーさんですら、見た事も聞いた事もないのだから、俺とミゲルさんが知る由もない。

「一度ギルドマスターに見て貰ってはどうでしょうか? どっちみち僕らでは判断もつきませんし」
「そうね、そうしましょうか」
「それがいい」

 黒オーガとの激戦を制し勝利した俺達は、リヨンへ向けて帰路に着く。
 討伐対象は2体だから、勝てさえすれば事後は楽で速い。
 魔石を取り出すのも2体だしね。ただ討伐証明がアレだけどさ……。
「ところでフェリ君、パーティー名は決まったの?」
「一応考えては見ましたよ」
「何にしたの?」
「ちょっと照れくさいんですが、『絆の盾ネクサスシールド』とかどうでしょうか」
「「ネクサスシールド絆の盾?」」
「うっわぁ、男子好きそう~」
「はは、でもフェリクス君らしいのでは?」
「確かにそうかもね」
「うう、だから言うの嫌だったんです……」
「でも、いいんじゃない? 色々守りたいんでしょ?」
 半分遊んで、半分馬鹿にして、そして最後は満面の笑みで返してくれたよマリーさんが。


 冒険者ギルドは、まるで嵐の前の静けさのような異様な雰囲気だった。
 誰もが、信じられない光景に息を呑んでいたからだ。
  
 ギルドの入り口から受付のカウンターまでは結構な広場となっていて、そこは『信じられない』という表情で立ち尽くす冒険者たちで溢れていた。中には、口をあんぐりと開けて俺達3人をただ見つめるだけの者もいる。
「お、おい。領主クエスト、もうクリアしちまったのか?」
「昨日貼られたばかりだろ!」
「見ろよ、あのゴツイ首。間違いねえぜ」
「ああ、そうみたいだな」
「クソーッ、俺達も狙ってたのに!」
「なんで、アンさんまでいるんだ?」
「知るかよ、アンさんも所属したんじゃねーか? あの金髪の小僧のパーティーによ」
「なっ、嘘だろ!?」
「お前知らなかったのか? 最近じゃ有名な話だぞ?」
「ああ、あのアンさんが金髪の小僧に入れ揚げてるって、俺も聞いたことあるぜ」
「ホントかよ……」
「締めちまおうぜ」
「辞めとけ、お前じゃ勝てないよ。お前アイツ黒いオーガ倒せるか?」
「くそっ」

「はいはい、ちょっとどいて頂戴ね」
 広場に集まりガヤガヤと騒ぐ聴衆を、掻き分けるように進む(マリーさんが)
 そして受付へ向けて真っすぐに進むと、高らかに放ったんだ(マリーさんが)
「私達  絆の盾ネクサスシールド が領主クエストを達成してきたわよ! さあ、ギルドマスター呼んで頂戴」と。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

泥々の川

フロイライン
恋愛
昭和四十九年大阪 中学三年の友谷袮留は、劣悪な家庭環境の中にありながら前向きに生きていた。 しかし、ろくでなしの父親誠の犠牲となり、ささやかな幸せさえも奪われてしまう。

~前世の知識を持つ少女、サーラの料理譚~

あおいろ
ファンタジー
 その少女の名前はサーラ。前世の記憶を持っている。    今から百年近くも昔の事だ。家族の様に親しい使用人達や子供達との、楽しい日々と美味しい料理の思い出だった。  月日は遥か遠く流れて過ぎさり、ー  現代も果てない困難が待ち受けるものの、ー  彼らの思い出の続きは、人知れずに紡がれていく。

キャンピングカーで往く異世界徒然紀行

タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》 【書籍化!】 コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。 早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。 そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。 道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが… ※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜 ※カクヨム様でも投稿をしております

自衛官、異世界に墜落する

フレカレディカ
ファンタジー
ある日、航空自衛隊特殊任務部隊所属の元陸上自衛隊特殊作戦部隊所属の『暁神楽(あかつきかぐら)』が、乗っていた輸送機にどこからか飛んできたミサイルが当たり墜落してしまった。だが、墜落した先は異世界だった!暁はそこから新しくできた仲間と共に生活していくこととなった・・・ 現代軍隊×異世界ファンタジー!!! ※この作品は、長年デスクワークの私が現役の頃の記憶をひねり、思い出して趣味で制作しております。至らない点などがございましたら、教えて頂ければ嬉しいです。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

異世界でいきなり経験値2億ポイント手に入れました

雪華慧太
ファンタジー
会社が倒産し無職になった俺は再就職が決まりかけたその日、あっけなく昇天した。 女神の手違いで死亡した俺は、無理やり異世界に飛ばされる。 強引な女神の加護に包まれて凄まじい勢いで異世界に飛ばされた結果、俺はとある王国を滅ぼしかけていた凶悪な邪竜に激突しそれを倒した。 くっころ系姫騎士、少し天然な聖女、ツンデレ魔法使い! アニメ顔負けの世界の中で、無職のままカンストした俺は思わぬ最強スキルを手にすることになったのだが……。

処理中です...