上 下
14 / 74

こーこはどこーかな ?

しおりを挟む
「ここは ?」

 きれいな街並み。
 ゴミ一つなく整った道。
 建物の脇には雑草一本生えていない。
 ここは城下町か。
 にしてはきれいすぎる。

「だと思うでしょ ? 残念でした。大外れ」

 少女たちがウフフと笑う。
 こっちに来てと言われて、大きな荷物を持ってついていく。
 何故か街行く人たちがこちらを見てコソコソ言っている。

「気にしちゃだめよ。悪気はないんだもん。ほら、着いたわよ」

 エリカが小さな家の扉を叩く。
 すぐに中から返事があり住人が顔を出した。

「エリカじゃないか。久しぶりだな。どうしたんだ、急に」

 年の頃は四十後半。
 人の上に立つ顔をしているとライは思った。
 
「こんにちは、おじさん。ちょっと困ったことになってるの。えっと、箝口令、頼んでいい ?」
「ごきげよう、おじ様。わたくしたちとこの人たちの事、外に漏れないようにしていただけるかしら」

 男は四人を中に招き入れると、外に向かって大きな声で叫んだ。

「すまんがこの四人のことは内緒で頼む。外に漏らすな」

 街の人たちが了解の印に手を挙げているのが見えた。

「さて、そっちの坊やたちは誰だ」

 扉を閉めて四人を奥のテーブルに誘う。
 エリカたちは勝手知ったる他人の家と、さっさとお茶の支度をする。

「俺たちは冒険者だ。俺はファーでこっちはライ。彼女たちとはちょっとした知り合いだ」
「俺はこの街を纏める顔役だ。エリカの親父さんと知り合いで、こいつが小さい頃からの付き合いだ」

 三人は握手してテーブルにつく。
 そこに少女たちがお茶を配ってまわる。

「ところで今日はどうしたんだ。王宮で大人しくお妃教育受けていると思ったら度々こっちまで出てくるし、門を通った様子もない。どうせ王宮の隠し通路かなんか見つけたんだろうっていうのがみんなの一致した考えだがな」
「すてき、おじ様。大正解」
「なんでみんなわかるのかな」
「冗談だ、ばか」

 顔役は入れたてのお茶を行儀悪くフーフーと冷ましながら口にする。
 どうせめんどくさい話を持って来たんだろう、さっさと話せと促される。

「うーんとね、話せば長いんだけど、簡単に言うわね」
「殺されそうになってるから、ここでしばらく匿っていただきたいの」
「まて、なにスラっと簡単に言ってんだよっ !」



「つまりこういうことだな ? 皇太子妃候補なのにイチャモンつけられて拘束されそうになったと。それがどうやら責任者のお偉いさんが関わっているらしい。捕まったら何をされるかわからない。で、隠し通路を使って逃げてきた。間違いないな ?」

 少女たちがウンウンと頷く。
 
「なんで実家に帰らなかったんだ ? そっちのほうが安全だろう」
「お妃教育がイヤで逃げ出しましたって連れ戻されるに決まってるもん。ここのがよっぽど安全だわ」
「親に引導渡されるのは遠慮したいわね」

 あたしたちバカじゃないもんとエリカが胸を張る。
 
「そもそもどのあたりでおかしいと気付いたんだ ? 昨日今日の話じゃないだろう」
「初日からよ」

 アンナが答えた。

わたくしは上位貴族の娘よ。お話があった時点で皇太子妃選定について聞いていたわ。小さな屋敷に閉じ込められたってだけで怪しいと思った。実家と連絡を取ってはいけないとか」

 アンナは続ける。

「それに先生たちが恋人関係になろうとしているのが見え見えで、これはわたくしたちを候補から落としたいんだって気づいたの」
「貴族令嬢のアンナを妃殿下にしたいなら、あたしだけに粉掛ければいいでしょう ? なのに二人ともよ。これは本命はどこかにいて、あたしたちを表に出さずに消し去りたいってことじゃないかと思ったわ」

 第一、妃候補になったら初日に皇太子殿下に拝謁するってことだったし、それがないってことは殿下はわたくしたちの存在すらご存知ないんじゃないかしら。
 アンナは冒険者たちにどう思う ? と尋ねる。

「確かにそうかもしれないが、その前にちょっと教えてくれ。自宅より王宮より安全なここは、城下町のどこなんだ ? 俺たちには皆目見当がつかない。少なくともこういう街並みは今まで通ったことがない」
「あら、言ってなかったかしら」
「言ってねーよ」

 アンナとエリカはそれは失礼と頭を下げた。

「ここはね」
「「スラム街よ ! 」」


 
 その頃、王宮では大捜索が密かに進んでいた。
 しかしどれだけ探しても少女たちの行方がわからない。
 探していないのは後・・・。

「皇帝ご一家がお住まいの御所だが、まさかそれはあるまい。しかし・・・」

 彼女らがご一家に保護されているとは考えにくい。
 では、どこへ ?
 
「見る目がなかった・・・」

 たかだか未成年の小娘二人、簡単に操れると思った自分の甘さを悔やんだ宗秩省そうちつしょう総裁だった。



「スラム ? まさか、どう見たって城下町だろう。それも貴族街並みに手入れの行き届いた」
「うん、貴族街並みに手入れの行き届いたスラムよ」

 ファーとライは信じられないと首をふる。

「あなた方が考えているスラム街がどういうものかはわかるわ。ここは入り口に門があって、普通の人は入れないから、本当はどんな街なのか外には伝わらないわ」
「思い込みだけが先行して、中身を見る人はほとんどいないわ。だから門を通ってここに来ようとする人はいない。訳アリの人以外はね」

 スラム。
 人心は荒れはて、街は荒廃。
 犯罪渦巻く街。
 決して近寄らないようにと、王都に住む人々は子供の頃から教わる。
 だが、それを逆手に入り込む者たちもいる。
 お貴族様と平民の駆け落ちカップル。
 他国からの亡命。
 意見が合わず追放された学者。

「前から住んでいた人って女性よりも一人身の男性が多かったし、夫婦者が増えればいいところの教育を受けた子孫が増えるわけで」
「ペットセラピーじゃないけど、小さい子って癒しなのよね。やくざ者もいいおじいちゃんになっちゃうし」
「当然だけど結果的に自然と真っ当な街が出来上がったわけ」
「ま、何十年か前に大々的な改革計画があったっていうのもあるがな。今ではごらんのように静かで清潔でいい街さ」

 でも外から入り込む者がいればすぐわかるから安心。

「そういう訳ですか」
「・・・確かに、他所よりは安心だな」

 冒険者たちは言われてみればそうかもと納得した。

「ところで、これからどうするんだ ? ここに籠っていたって何の解決にもならないぞ。それに今持っている身分証だと、あっという間に足が付く」
「そうなのよ。逃げるのに必死でその先考えてなかったのよ」

 困ったわね。
 とりあえずここに逃げ込めば命だけは助かるって思ってた。
 仕方ないなあと冒険者たちが助け舟を出す。

「じゃあ、荷物はここに預けて冒険者ギルドに行こう。冒険者登録をすれば身分証は発行される。それで王都内の移動は自由だ」
「まだ君たちが王城内にいると思っているだろうから、今がチャンスだと思う。明日になったら外まで探しに来るはずだから」

 ホラ、そのメイド服だと目立つからと言われ、アンナとエリカは急いで着換えにいった。

「あいかわらず台風みたいな娘たちだな」
「昔からああなんですか ?」
 
 ライがお茶道具を片付けながら聞く。

「ここはスラムだが、改革時に使っていない廃屋らを整理して、細々と養鶏と農業をやっている。エリカの親父さんが卵の質がいいからって専属契約してくれてな。それからの付き合いだ。昔っから元気いっぱいで明るい子だったが、ここ数か月で磨きがかかったな。アンナの方は知らん」

 スラムと契約とは、中々に柔らかい頭の持ち主らしい、エリカの親父さんは。

「あの人は売り物に手を抜かないからなあ。組織がでかくなって隅々まで目がいかなくなっても、食材だけは自分で選ぶ。店の勝手にはさせない。良いと思ったら使う」

 スラム産 ? それがどうした。知ったら急に味が変わるのか ?

「だから俺たちはそれに応えて良い品を納入するだけさ」
「なるほど。素晴らしい人物らしいな、エリカの親父さんは」

 二階から少女たちが目立たない服を選ぶのに四苦八苦している様子が伝わってくる。
 提供された服のほとんどがお妃教育用のドレスだったからだ。
 出かけるにはもう少し時間が掛かるようだ。

「それで、お二人さん。俺も訊いておきたいことがある」
「なんだ ?」

 顔役は二人の顔をめつすがめつ眺める。

「あんたたちのうち、どっちが皇太子さんなんだ ?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます

ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。 そして前世の私は… ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。 サロン勤めで拘束時間は長く、休みもなかなか取れずに働きに働いた結果。 貯金残高はビックリするほど貯まってたけど、使う時間もないまま転生してた。 そして通勤の電車の中で暇つぶしに、ちょろーっとだけ遊んでいた乙女ゲームの世界に転生したっぽい? あんまり内容覚えてないけど… 悪役令嬢がムチムチしてたのだけは許せなかった! さぁ、お嬢様。 私のゴットハンドを堪能してくださいませ? ******************** 初投稿です。 転生侍女シリーズ第一弾。 短編全4話で、投稿予約済みです。

当て馬の悪役令嬢に転生したけど、王子達の婚約破棄ルートから脱出できました。推しのモブに溺愛されて、自由気ままに暮らします。

可児 うさこ
恋愛
生前にやりこんだ乙女ゲームの悪役令嬢に転生した。しかも全ルートで王子達に婚約破棄されて処刑される、当て馬令嬢だった。王子達と遭遇しないためにイベントを回避して引きこもっていたが、ある日、王子達が結婚したと聞いた。「よっしゃ!さよなら、クソゲー!」私は家を出て、向かいに住む推しのモブに会いに行った。モブは私を溺愛してくれて、何でも願いを叶えてくれた。幸せな日々を過ごす中、姉が書いた攻略本を見つけてしまった。モブは最強の魔術師だったらしい。え、裏ルートなんてあったの?あと、なぜか王子達が押し寄せてくるんですけど!?

完 あの、なんのことでしょうか。

水鳥楓椛
恋愛
 私、シェリル・ラ・マルゴットはとっても胃が弱わく、前世共々ストレスに対する耐性が壊滅的。  よって、三大公爵家唯一の息女でありながら、王太子の婚約者から外されていた。  それなのに………、 「シェリル・ラ・マルゴット!卑しく僕に噛み付く悪女め!!今この瞬間を以て、貴様との婚約を破棄しゅるっ!!」  王立学園の卒業パーティー、赤の他人、否、仕えるべき未来の主君、王太子アルゴノート・フォン・メッテルリヒは壁際で従者と共にお花になっていた私を舞台の中央に無理矢理連れてた挙句、誤り満載の言葉遣いかつ最後の最後で舌を噛むというなんとも残念な婚約破棄を叩きつけてきた。 「あの………、なんのことでしょうか?」  あまりにも素っ頓狂なことを叫ぶ幼馴染に素直にびっくりしながら、私は斜め後ろに控える従者に声をかける。 「私、彼と婚約していたの?」  私の疑問に、従者は首を横に振った。 (うぅー、胃がいたい)  前世から胃が弱い私は、精神年齢3歳の幼馴染を必死に諭す。 (だって私、王妃にはゼッタイになりたくないもの)

されたのは、異世界召喚のはずなのに、なぜか猫になっちゃった!?

弥湖 夕來
ファンタジー
彼に別れを告げられた直後、異変を感じ気が付いた時には変わった衣服の人々に取り囲まれ、見知らぬ神殿に居たわたし。なぜか儀式を中断させた邪魔者として、神殿から放りだされてしまう。猫の姿になっていたことに気が付いたわたしは、元の世界に帰ろうと試みるが、どこに行っても追い立てられる。召喚された先は猫が毛嫌いされる世界だった。召喚物お決まりのギフトは小鳥の話を聞きとれることだけ。途方に暮れていたところを、とある王族のおねぇさんに拾われる。出だしに反し、裕福なお家でのイケメンさんに囲まれた猫ライフを満喫していると、

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...