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二十五話 国王、打ち明ける

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かなりの時間、両親の過保護とも言えるような構われ方をしてちょっと疲れた。

夜にミランと部屋に帰ってきたらまた全員集合してた。みんな気になって心配してくれてたから両親の話し合いの結果を話した。

「私も王都に連れて行って下さるのですか?」

瞳を輝かせアルフが俺を見つめる。

「当然よ。わたくしの専属護衛じゃない?」

「元平民の私が…」

アルフが目をウルウルさせる。

「元平民とか貴族とかわたくしには関係ないわ。
実力があって優秀な者たちがわたくしには必要なの。王宮に保護なんてされたくないからみんなには頑張ってもらわないといけないけど、大丈夫かしら?」

部屋にいる全員の顔を見ていく。
みんな真剣な顔で頷く。

「前から変わらねえ~な!なぁロラン」

「はい」

ラルフとロランがニヤリとする。

「あの~以前からラルフ様とロラン様が前からとか以前はと言われてますが、いったいどういうことなのですか?」

ミランが聞いてくる。
前から不思議そうにしてたな。
そりゃ引っかかるよな!
ラルフとロランはお構いなしに前のこと喋ってしまうから。
それで俺は今まで話してなかったミランとアルフにも前の世の話をした。

「えっ?お嬢様が王女様だったのに王子で国王だった!?」

ミランとアルフが目を丸くしている。

「まあ、国王になんてなりたくなかったけど、早く戦を終わらせたかったんだ」

「ラルフが宰相子息でロランは専属従者だった?」

ラルフとロランのことはケングレットにもまだ言ってなかったから目を見開いて驚いている。

「そうですよ。
私は前の世で平民の孤児でした。
その孤児の私を拾って従者にして下さったのは当時第二王子殿下だったサラ様でした」

ロランの言葉にラルフ以外のみんながこれでもかと目を丸くさせている。

「俺は前の前の世の記憶もあってな。その時は平民で農家を営む家に嫁入りして子供も2人いた。
でもそこでも戦になって俺も家族もみんな巻き込まれて死んだんだ。そのことがあって戦が大嫌いだったし、戦をする大人が嫌いだったんだ。
ロランことメテオたち孤児たちが大人を手玉に取って騙しているのを当時の臣下から聞いてね、やってることは犯罪だったけど、その日を必死に生きてる彼らには失礼だが、面白いと思ったし大人たちにやり返してくれてる気がして爽快感も感じた。
市井にいる子供たち全員を呼び寄せられたら良かったけど、俺は表に出れない何も出来ない無力な第二王子だったからな。
せめて気に入った子たちを側に置いてみたかったんだ」

「俺…」

俺は口調が戻って俺呼びになっていた。
ミランが呆気に取られながら俺を見ている。

「俺は前の世では俺とずっと言っていたから油断したら俺呼びになるんだ。
俺は王女として生まれたけど、両親は俺を守る為に病弱で馬鹿な王子として表に一切出さないようにした。
でもちゃんと王子教育の他に王女としての教育も受けていたんだよ。
私と言うのが正しいんだろうけど、ほとんど表に出ることはなかったけど、表ではちゃんとした教育も受けていない粗暴で馬鹿な王子でいなくてはならなかったからわざと俺呼びにしていたから油断すると今でもつい俺と出てしまう」
 
俺はフッ苦笑いした。

ミラン、ケングレット、アルフは俺たちの前の人生を聞いて言葉を失くしている。
ケングレットは俺のことは話したが、ラルフとロランのことは知らなかったことだからな。

「私はサラ様に拾って頂いたから生きてこられた。そうじゃなかったらいつ野垂れ死んでもおかしくなかったんですよ」

ロランは懐かしむようにそして少し翳りのある表情をした。
それがメテオの仲間たちのことだと俺はすぐにわかった。

「ハントたちは俺たちと同じように生まれ変わって生きてくれているんだろうか…」

俺は俺の為に命を失くした臣下たちを思い出していた。
忘れることなんて絶対に出来ないし忘れてはいけない、俺や国の為に犠牲になった者たち。
俺にとっては辛いがずっと忘れず懺悔の気持ちを持って生きていかなくてはならない。

「きっとこの世界にいると私は思ってます。
私はピート様、ラルフ様に出会ってもしかしたらサラ様や仲間のみんながこの世界にいるんじゃないかとずっと探してました。
そしてサラ様を見つけることが出来ました。
他の仲間たちも絶対いると思って、これからも探し続けます!」

ロランが俺に向かって真っ直ぐな強い瞳で言う。

「サラはこの世界の神、ウルヴァランに選ばれてここにリリアナとして来たけど、ウルヴァランは予めわかってて俺たちをこの世界に生まれ変わらせたんじゃないか?」

ラルフはそう言うけど、あの時に会ったウルヴァランはそこまで考えていたとは思えないけどな。

「そうかな~ウルヴァランの奴そこまで考えてなかったように思うけど」

俺のウルヴァランに対する言葉にミランとアルフはヒッと悲鳴を上げそうなくらい身体を飛び跳ねさせて、何度も目を瞬かせた。
神に対する暴言だもんな。
ウルヴァランはこの世界では絶対的な存在で信仰心の厚いこの国の人間からしたら考えられないことだろうな。

「私は今まで依頼を受けながらずっとサラ様や仲間たちを探してきました。
サラ様も見つかったんです!
これからも仲間を探し続けます」

ロランの言うことにラルフが頷いている。

「でももしこの世界にハントたちが居るとしても平和に生きていたらソッとしてあげて欲しい」
 
俺が言うと、ロランは首を横に振り

「何故ですか?そんなことアイツら絶対望みません!」

「もう十分お前たちみんなを巻き込んでいるんだ。
ハントたちが平和に幸せに暮らしていたら今度は俺のことで巻き込みたくない」

「それもそうだが、アイツらが俺たちと同じ前の記憶を持っていたらアイツらはサラ、お前のことを忘れるはずがないし一番にお前に会いたいと思ってるはずだ」

ラルフに言われて俺はグッと言葉に詰まる。

「サラ様、サラ様は自分が巻き込んでアイツらを死なせてしまったと思っておられるのでしょうが、そのサラ様に国王になって下さいとお願いしたのは私たちです。
私たちはサラ様に出会って生まれてきて良かったと初めて思いました。
サラ様の為に生きることが自分たちの使命だと思って生きてきたんです!
誰も後悔はしていないと思いますし、今もしここにいるならアイツらもサラ様がいるかもと探し求めていると思います」

ロランにキッパリ言われて俺の胸はグッと押されて苦しくなった。

「しかしハントたちが家庭を築き、幸せに暮らしていたら邪魔をすべきではない」

俺はなんとか声を絞り出して告げた。

「そうだったらな…でも果たしてそうなってるかだ。
俺もロランもピートもそうだが、前の記憶を持っているが故、サラを思わなかった時がなかった。俺たちはお前のことを思い、お前を探し求めた。
それでロランと俺は今お前の側にいる。
アイツらがもしここにいたら俺たちと同じだと俺は思うよ」

ラルフの言葉に俺は顔をクシャッと歪めて涙が出そうになるのを堪えた。

「お嬢様、ラルフ様もロラン様もそうなように今や私たちも同じですよ。
私たちもお嬢様の為に生きていきます!」

「ミラン…」

ミランを見つめながら俺は情けない顔をしているだろう。

「そうですよ、リリアナ様。
リリアナ様はまた大きなものを抱えることになってしまった。
王太子殿下とフローラ嬢のこともそうですが、リリアナ様は聖魔法だけでなく全属性魔法を使えます。
聖魔法だけでも知られてしまえば、国内だけでなく他国からも狙われる存在になります。
知られるにしてもそれをなるべく国内だけ、それもごく一部に留めなければなりません。
ハーベント公爵様はリリアナ様を自分たちで守ることを決められたんですよね?リリアナ様自身もそれを望まれている。
なら私たちは全力でリリアナ様をお守りします」

ケングレットも言ってくれた。
俺は前も今もなんて人に恵まれているのだろう。

「ありがとう」

「人数は多い方がいいです。
ラルフ様だけでも一国を吹っ飛ばせますがね。
あぁ、リリアナ様だけでもそうかもしれませんが、他国と戦になっては元も子もありません。
まずは国王陛下との謁見をどうくぐり抜けるかです」

ロランに冷静に言われてそうだなと思った。

「そうだな、まず国王陛下がどういう人間かだ」

俺が言うと、みんな頷く。

「王太子と同じように愚王なのか、まともなのか」

ラルフが一瞬静かになった場に低い声で呟く。

「私はそんなに詳しくありませんが、民の国王陛下の評価は国を思う堅王だとよく聞いております」

アルフが俺を見ながら言う。

「そうか、確かこの国の王子は王太子だけだったな。
あとは王女がいるのか。
堅王と言われていても実はどうか、後継者が一人で息子である王太子に対してどう思っているのか、子供には甘い親馬鹿なのか違うのか、聖魔法を使える者をどういう扱いをしようとしてるか自分の為に利用しようとする人間なのか確かめる必要があるな」

「だな、お前が言ったげーむと言っていたのはどうにも出来ない強制力というものがあったんだろう?
でも今回はウルヴァランによるとなくなったとみるのが妥当だとしたら、国王がどんな人間かでこれからリリアナや俺たちがどう動くか決めていかなきゃならんな」

俺の言葉にラルフが切り込んできた。

「まずは国王と謁見してみないとな」

「明後日には王都へ向かうのですよね?」

アルフが聞いてきた。

「お母様の体調を配慮してたが、予定ではそうなる。そのつもりで準備してくれ」

「「「わかりました」」」


みんながそれぞれの部屋に戻り、俺はベッドに潜り込んだ。

そして眠っているはずなのに声が聞こえてきた。

『……ディアナ様!…サラディアナ様!』

声が聞こえた方を見ると、ウルヴァランに会った時と同じような白いモヤがかかっているところに一人の少女が立っていた。

黒髪に大きい黒い瞳のまだ小さい5歳にも満たない可愛らしい少女だ。

『誰だ?』

『リリアナです』

『えっ?リリアナか?本当に?』

『はい。わたくしリリアと同じ地球という世界の日本人として生まれ変わりました』

まだ3歳くらいにしか見えないのにしっかりと話している。

『そうなのか?リリアナは幸せか?いや、何かあったのか?』

『いえ、両親と兄が一人いますがとても可愛がられています』

ここと同じ家族構成なんだな。
リリアナの言葉に安心する。

『そうか!良かった、本当に良かった!』

『サラディアナ様にお礼を言いたくて…』

『お礼?』

『はい!わたくしに両親にちゃんと愛されていたぞって教えて下さったでしょう?』

『ああ、もしかして聞こえていたのか?』

俺は不思議に思い首を傾げる。

『ウルヴァラン様が教えて下さいました』

『ウルヴァランが?』

『夢枕というのでしょうか?そこにウルヴァランが立って下さって、サラディアナ様がお父様もお母様もわたくしを本当に愛して下さっていたと証明してくれたと教えて下さったのです』

『そうなのか?そんなことが出来るんだな。
やっぱりアイツは神なんだな』

『フフッ、わたくしは今別の世界にいますが、今回は特別らしいです。
わたくしが心置きなく今世で生きていけるように教えて下さったのではないかと思います』

微笑んだリリアナ、黒髪の少女は屈託なく笑った。

『そうか、アイツもやれば出来るんだな』

『まあ、サラディアナ様ったら…ウルヴァラン様に対して』

うふふとリリアナが楽しそうに笑う。

『俺はアイツを全部信じた訳ではないからな』

『わたくしサラディアナ様とお会い出来て本当に良かったです。ありがとうございます』

『いや、まだ何も始まってないぞ』

『そうですね。でもサラディアナ様ならきっと大丈夫です。でもすみませんでした、大変なことを押し付けてしまって』

すまなそうに謝るリリアナ。

『いいんだ!引き受けたのは俺だからな』

『これが最初で最後だそうで謝罪とそしてあらためてお礼を言いたくて、本当にありがとうございます』

『これ、最後なのか?』

『ええ、わたくしがサラディアナ様に謝罪とお礼を言いたいと言ったら、ウルヴァラン様が特別に取り計らって下さいました』

『そうか…リリアナ幸せになれよ!俺もリリアナとして頑張ってお前とリリアの敵取るからな』

『はい!絶対幸せになってみせます。
サラディアナ様もどうか今度こそ一人の女性として幸せになって下さいませ』

『…ありがとうございます。サラディアナ様のお幸せをお祈りします…』

その声を最後に俺は目が覚めた。
リリアナはリリアと同じ世界に生まれたのか、リリアに会えたりするのかな?
リリアナもリリアも幸せになってくれよな。
俺は心からそう思った。







    
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