怒れるおせっかい奥様

asamurasaki

文字の大きさ
上 下
52 / 143

五十一話 旦那様が飛び込んできましたわ

しおりを挟む


「旦那様!?」

 ノックもせずに夜着のまま血相を変えて飛び込んできたフィンレルに私は驚く。

「ベレッタが倒れたとリリアンナに聞いたんだ!

 ベレッタ大丈夫なのか?!」

 フィンレルの慌てっぷりに私は苦笑いが漏れる。

 そういえばフィンレルがリリアンナを呼び捨てにするようになったのね…なんて呑気なことを私は頭の中で呟く。

「旦那様心配して下さったのですね、申し訳ありません。

 わたくし目眩を起こしただけで倒れてはおりませんのよ。

 リリアンナが支えて部屋に連れて帰ってくれましたの。

 少し休めば大丈夫ですわ、心配には及びませんわ」

 私はフィンレルに謝罪して頭を下げた。

「君が謝ることではないよ。

 元は私が倒れて君に無理をさせたのだから…もう私は大丈夫だから執務に戻るよ!だから君は休んでくれ」

 フィンレルが私の目をしっかりと見つめて言う。

「それは駄目ですわ。

 旦那様は主治医の先生からもう少し休養するように言われましたでしょ?

 ですからまだゆっくりとなさって下さいませ。

 今日中に決済が必要な書類はありませんから、わたくしはこの後休んで、今日ゆっくりとさせて頂ければもう大丈夫ですので」

 私がニッコリとフィンレルに笑いかけると、フィンレルがハッと目を見開いた。

「…し、しかし…これ以上君に無理をして欲しくないんだ…ああ、主治医の手配をしたからもうすぐ来るはずだから必ず診てもらおう」

 フィンレルが目を伏せ悲し気に言う。

「ええ、わたくし旦那様に偉そうに言っておりましたのに…自分が同じようなことをしておりましたわ。

 みなさまに申し訳ないと思っております。

 それに旦那様にもね…。

 リリアンナにも叱られましたのよ。

 ですからもう無理はしません。

 ですから旦那様もちゃんと回復するまではゆっくりとなさって下さいませね。

 それから執務長と侍女長をわたくしの一存でなかなか決めなかったことも反省しておりますわ。

 旦那様ごめんなさい…それからありがうごさいます。

 ちゃんと主治医の先生には診てもらいますね」

「ベレッタもう謝らないでくれ。

 執事長と侍女長を君が認めた者にしたいという気持ち私はよくわかっているつもりだ…。

 だからそのことは気にしなくていい。

 アランもフレオもケイトも優秀だ。

 それにリリアンナも手伝ってくれると言っているから大丈夫だよ」

 フィンレルが私を見て微笑みかけてくる。

「そうですわね…彼らはとても優秀で助かっておりますわ。

 リリアンナも手伝ってくれるなんてとても心強いですね」

「…ああ、だから君は何も心配せずにゆっくり休んでくれ」

 旦那様がそう言って私の頭を撫でてきた。

「えっ?…」

 私は驚いて目を見開く。

「あっ!…断りもなくすまない!

 …その、…私が倒れた時に君は私の頭を撫でてくれたよな?

 私はその時に目を開けることが出来なかったけれど…夢うつつになりながら、誰かが私の頭を撫でてくれていることはわかったんだ…。
 
 幼い頃に熱を出して魘されている時に母上が看病してくれていて、私の頭を撫でてくれていたことを思い出したんだ…。

 その時にとても気持ち良くて心が安らいだのを覚えていて…つい!…」

 フィンレルが柔らかに微笑みながらお義母様の思い出話を聞かせてくれた。

「フフッそうだったのですか…旦那様ありがとうございます。

 私の心も安らぎましたよ」

 フィンレルが微笑む私の顔を見てパッと顔を赤らめた。

 それが少し可愛く思えた。

「そ、そうか?…」

「えっ、ええ…」

 顔を赤くして照れるフィンレルを見てると、私まで恥ずかしくなってしまったじゃない!

「さあ、わたくしは大丈夫ですので、旦那様もお戻りになって休んで下さいませ」

「…あ、ああ…わかった…それじゃあ戻るよ。

 君もくれぐれも無理はしないでな」

「はい、そう致しますわ」

 私がニッコリと返事すると、旦那様は私を振り返りながら部屋を出て行った。

 私はそれからやってきた主治医の先生にも叱られてしまったわ。

 私も過労ということで少し休めば問題ないと言われたの。


 ケイトに消化の良い食事を手配してもらって、それを食べてからベッドに横になり少し休んだ。


 それから起きた時には夕方になっていた。

 ベッドから身体を起こそうとすると側にケイトがいて聞くと、何度が私の様子を見にきてくれていたみたいだわ。  

 ケイトが私の背中を支えて身体を起こすのを手伝ってくれた。

 ケイトにお礼を言うと。

「大丈夫ですよ。

 アラン様、フレオ様、リリアンナ様がいらっしゃいますのでね。

 奥様はもう大丈夫でございますか?」

「ええ、スッキリとしているわ、もう大丈夫よ。

 ケイトにも心配かけて負担かけてごめんね」

 私が謝るとケイトが首を横に振る。

「何をおっしゃいますか…わたくしこそ奥様に無理をさせてしまい申し訳ございません」

「ケイトが謝ることではないわ。

 だってわたくしがケイトに言われても聞かなかったのだもの。

 結局わたくし旦那様と同じことをしていたのよね…反省したわ。

 これからは無理をしないようにするからケイトもくれぐれも無理はしないでね。

 それからみなで謝ってばかりよね…謝るよりお礼を言うべきだわね。

 ケイト本当にいつもありがとう。

 貴方が居てくれて本当に助かっているわ」

 私が微笑んで言うとケイトが少し口角を上げた。

「ありがとうございます。

 ですが、わたくしは奥様の専属ですから当たり前のことをしているだけですよ」

「そんなことないわ、貴方があらゆることで動いてくれるから本当に助かっているの。

 ケイトに出会えて本当に良かった…」

「奥様…」

 ケイトが私を見つめてくる。

「そうそう、リリアンナはどうかしら?」

 私はリリアンナのことが気になって聞いてみる。

「はい、リリアンナ様が進んで手伝って下さいますからどんどんと処理が進んで助かっております。

 ああ、そうでした。

 奥様が目覚められて大丈夫そうならリリアンナ様が奥様に話があるとおっしゃってました」

 ケイトからリリアンナのことを聞いて、何だろうと思った。

「そう、リリアンナが大丈夫なら今から会いたいわ」

「承知しました。

 ではリリアンナ様にお伝えして参ります」

 そう言ってケイトがいったん部屋を出て行った。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

<完結> 知らないことはお伝え出来ません

五十嵐
恋愛
主人公エミーリアの婚約破棄にまつわるあれこれ。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

お姉さまは最愛の人と結ばれない。

りつ
恋愛
 ――なぜならわたしが奪うから。  正妻を追い出して伯爵家の後妻になったのがクロエの母である。愛人の娘という立場で生まれてきた自分。伯爵家の他の兄弟たちに疎まれ、毎日泣いていたクロエに手を差し伸べたのが姉のエリーヌである。彼女だけは他の人間と違ってクロエに優しくしてくれる。だからクロエは姉のために必死にいい子になろうと努力した。姉に婚約者ができた時も、心から上手くいくよう願った。けれど彼はクロエのことが好きだと言い出して――

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨ 〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷

処理中です...