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五十一話 旦那様が飛び込んできましたわ
しおりを挟む「旦那様!?」
ノックもせずに夜着のまま血相を変えて飛び込んできたフィンレルに私は驚く。
「ベレッタが倒れたとリリアンナに聞いたんだ!
ベレッタ大丈夫なのか?!」
フィンレルの慌てっぷりに私は苦笑いが漏れる。
そういえばフィンレルがリリアンナを呼び捨てにするようになったのね…なんて呑気なことを私は頭の中で呟く。
「旦那様心配して下さったのですね、申し訳ありません。
わたくし目眩を起こしただけで倒れてはおりませんのよ。
リリアンナが支えて部屋に連れて帰ってくれましたの。
少し休めば大丈夫ですわ、心配には及びませんわ」
私はフィンレルに謝罪して頭を下げた。
「君が謝ることではないよ。
元は私が倒れて君に無理をさせたのだから…もう私は大丈夫だから執務に戻るよ!だから君は休んでくれ」
フィンレルが私の目をしっかりと見つめて言う。
「それは駄目ですわ。
旦那様は主治医の先生からもう少し休養するように言われましたでしょ?
ですからまだゆっくりとなさって下さいませ。
今日中に決済が必要な書類はありませんから、わたくしはこの後休んで、今日ゆっくりとさせて頂ければもう大丈夫ですので」
私がニッコリとフィンレルに笑いかけると、フィンレルがハッと目を見開いた。
「…し、しかし…これ以上君に無理をして欲しくないんだ…ああ、主治医の手配をしたからもうすぐ来るはずだから必ず診てもらおう」
フィンレルが目を伏せ悲し気に言う。
「ええ、わたくし旦那様に偉そうに言っておりましたのに…自分が同じようなことをしておりましたわ。
みなさまに申し訳ないと思っております。
それに旦那様にもね…。
リリアンナにも叱られましたのよ。
ですからもう無理はしません。
ですから旦那様もちゃんと回復するまではゆっくりとなさって下さいませね。
それから執務長と侍女長をわたくしの一存でなかなか決めなかったことも反省しておりますわ。
旦那様ごめんなさい…それからありがうごさいます。
ちゃんと主治医の先生には診てもらいますね」
「ベレッタもう謝らないでくれ。
執事長と侍女長を君が認めた者にしたいという気持ち私はよくわかっているつもりだ…。
だからそのことは気にしなくていい。
アランもフレオもケイトも優秀だ。
それにリリアンナも手伝ってくれると言っているから大丈夫だよ」
フィンレルが私を見て微笑みかけてくる。
「そうですわね…彼らはとても優秀で助かっておりますわ。
リリアンナも手伝ってくれるなんてとても心強いですね」
「…ああ、だから君は何も心配せずにゆっくり休んでくれ」
旦那様がそう言って私の頭を撫でてきた。
「えっ?…」
私は驚いて目を見開く。
「あっ!…断りもなくすまない!
…その、…私が倒れた時に君は私の頭を撫でてくれたよな?
私はその時に目を開けることが出来なかったけれど…夢うつつになりながら、誰かが私の頭を撫でてくれていることはわかったんだ…。
幼い頃に熱を出して魘されている時に母上が看病してくれていて、私の頭を撫でてくれていたことを思い出したんだ…。
その時にとても気持ち良くて心が安らいだのを覚えていて…つい!…」
フィンレルが柔らかに微笑みながらお義母様の思い出話を聞かせてくれた。
「フフッそうだったのですか…旦那様ありがとうございます。
私の心も安らぎましたよ」
フィンレルが微笑む私の顔を見てパッと顔を赤らめた。
それが少し可愛く思えた。
「そ、そうか?…」
「えっ、ええ…」
顔を赤くして照れるフィンレルを見てると、私まで恥ずかしくなってしまったじゃない!
「さあ、わたくしは大丈夫ですので、旦那様もお戻りになって休んで下さいませ」
「…あ、ああ…わかった…それじゃあ戻るよ。
君もくれぐれも無理はしないでな」
「はい、そう致しますわ」
私がニッコリと返事すると、旦那様は私を振り返りながら部屋を出て行った。
私はそれからやってきた主治医の先生にも叱られてしまったわ。
私も過労ということで少し休めば問題ないと言われたの。
ケイトに消化の良い食事を手配してもらって、それを食べてからベッドに横になり少し休んだ。
それから起きた時には夕方になっていた。
ベッドから身体を起こそうとすると側にケイトがいて聞くと、何度が私の様子を見にきてくれていたみたいだわ。
ケイトが私の背中を支えて身体を起こすのを手伝ってくれた。
ケイトにお礼を言うと。
「大丈夫ですよ。
アラン様、フレオ様、リリアンナ様がいらっしゃいますのでね。
奥様はもう大丈夫でございますか?」
「ええ、スッキリとしているわ、もう大丈夫よ。
ケイトにも心配かけて負担かけてごめんね」
私が謝るとケイトが首を横に振る。
「何をおっしゃいますか…わたくしこそ奥様に無理をさせてしまい申し訳ございません」
「ケイトが謝ることではないわ。
だってわたくしがケイトに言われても聞かなかったのだもの。
結局わたくし旦那様と同じことをしていたのよね…反省したわ。
これからは無理をしないようにするからケイトもくれぐれも無理はしないでね。
それからみなで謝ってばかりよね…謝るよりお礼を言うべきだわね。
ケイト本当にいつもありがとう。
貴方が居てくれて本当に助かっているわ」
私が微笑んで言うとケイトが少し口角を上げた。
「ありがとうございます。
ですが、わたくしは奥様の専属ですから当たり前のことをしているだけですよ」
「そんなことないわ、貴方があらゆることで動いてくれるから本当に助かっているの。
ケイトに出会えて本当に良かった…」
「奥様…」
ケイトが私を見つめてくる。
「そうそう、リリアンナはどうかしら?」
私はリリアンナのことが気になって聞いてみる。
「はい、リリアンナ様が進んで手伝って下さいますからどんどんと処理が進んで助かっております。
ああ、そうでした。
奥様が目覚められて大丈夫そうならリリアンナ様が奥様に話があるとおっしゃってました」
ケイトからリリアンナのことを聞いて、何だろうと思った。
「そう、リリアンナが大丈夫なら今から会いたいわ」
「承知しました。
ではリリアンナ様にお伝えして参ります」
そう言ってケイトがいったん部屋を出て行った。
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