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三十二話 旦那様に了解を取り付けるのよ ①
しおりを挟む叔父はラファエルをう~んと可愛い可愛いしてから、これからも連絡を密に取り合うことと、またの再会を約束して馬車に乗って帰って行った。
さあ、これからまた一段と忙しくなるわよ!
まずは旦那であるフィンレルにいろいろと了解を取り付けないといけないわね。
この家の主であるフィンレルを無視して事を進めていくことは不可能だもの。
私はラファエルを抱っこしてあやしながら、頭の中でフィンレルに了解を得る事柄を考えながら、ケイトにフィンレルに相談したいことがあるから時間を取って欲しいと先触れを頼んだ。
しばらくして戻ってきたケイトからフィンレルが、私と夕食を共にしてから場を設けたいと言っていると聞かされた。
フィンレルと夕食?そんなものしたくないんだけど?とっとと用件を話して了解を取り付けて、ラファエルのところに戻りたいんだけど。
「奥様?」
思っていることが顔に出ていたのか、ケイトが無表情の中目を少し細めて声をかけてきた。
仕方ないわね…夕食ご一緒致しますわ。
「そうね、わかったわ。
承知しましたって伝えてきてくれるかしら?」
「承知しました」
と言ってケイトはまた部屋を出て行った。
私は何で今更フィンレルと夕食を食べなきゃならないのよ!と憤慨しそうになったけれど、今私の腕の中には愛しい息子ラファエルがいると思い直した。
あ~ラファエルを抱っこしてその可愛い顔を見ていたら一気に癒されるわ。
「ラファ~今日は叔父様と会えて良かったですわね~。
わたくし叔父様のことが大好きですのよ。
だからラファも叔父様のことを大好きになってくれたらいいなぁ~」
と腕の中にいるラファエルの顔を見ながら声をかけると、ラファエルが手足を元気にバタバタとさせながらまだ「ふにゃ」みたいなものだけど、声を出しながらニパッと笑った。
ええ、ええ、天使の笑顔とはこの顔のことを言うのよ!という愛くるしい尊い笑顔よ!
「まあラファも叔父様のことが大好きなのですのぉ?」
と言うと、さらに手足をバタバタして嬉しそうな顔をしたわ。
本当にうちの子ちゃんとわかってて、何て賢いんでしょ!
側で見守ってくれてるジェシカ、カーラ、テレーゼも温かく微笑んでくれている。
さて、フィンレルとの約束の時間になり通いのジェシカには帰ってもらって、カーラとテレーゼにラファエルのことをお願いしてから、私はケイトに案内されて食堂へ向かった。
食堂に入ると、もうフィンレルが席についていて、その側にはアラン、専属従者二人が控えていた。
フィンレルが席を立って私を迎えてくれる。
「旦那様お待たせして申し訳ありませんわ」
「いや、私も今きたところだし、時間ピッタリだ。さあどうぞ」
とフィンレルが移動してきて私の席の前の椅子を引いてくれた。
「…ありがとうございます」
さすがは貴族ね、こういうことすんなりと出来てしまうのね。
席についてからコース料理ってやつよ、一品ずつが徐々に運ばれてくる。
私たちの専属でなく給仕してくれる従者と侍女がちゃんといるのよね。
本当に貴族って凄いと思うわ、そうやってお金を使って経済を回していくのだろうけど。
ここでは寄子の貴族子女はもちろんのこと、平民である領民も積極的に雇って教育しているから良いことよね?
二人で食事するには広過ぎる部屋で無駄に豪華で長過ぎる大きなテーブルに、ちょこんと上品な料理が並ぶ。
私はこの食堂に来たのは初めてなのよね。
前世の記憶が戻ってからもずっと変わらず部屋で朝昼晩食べていたから。
こんなに広いと内装がいくら豪華でも何だか寂しく感じるものね。
いや豪華だからこそ寂しく感じるのかな。
料理はね、文句なく美味しいのよ。
今日はフィンレルと一緒に食べると聞いたからなのか、特に料理長のランディスが気合いを入れたのね、いつもより豪華だわ。
だけど、私の前で食事しているフィンレルが何だかソワソワしながらチラチラと私を見てくるのよ。
でも私と目が合うとすぐに目を逸らして料理に視線が戻る。
さっきからその繰り返しで、いったい何をしたいんだろう?
この世界の貴族は食事中にペラペラ喋ることははしたないとされているから、話しかけてこないのかもしれないけれどね。
でも何をそんなにソワソワしてるのかしら?私がいるのが気になるの?そちらが一緒に食事をしようと誘ったくせにね。
私は気付かない振りして美味しい食事を味わうことにした。
気にしていたらじっくり料理を味わえないもの。
そうそう、あの使用人との個別面談で料理長のランディスから話を聞いた時に、彼が「俺が切腹します!」って言った時に、もしや彼も転生者?って思ったから、彼に話を聞いてみたくて、前に叔父と会った庭にまた面談すると理由を付けて、ランディスを呼び出してケイトにも外してもらって話を聞いたのよ。
部屋だと私は一応既婚者だからこの世界では男女が二人きりになる訳にはいかないじゃない?だから庭で二人でお茶会をして、ズバリ貴方は転生者?って聞いたら本当に転生者だった。
切腹なんて言うからもっと前の時代の人かと思ったら、昭和初期の生まれで私のちょっとだけ先輩だったわ。
ランディスは前世日本で昭和の初めに生まれて平成初期まで生きた関西生まれの町の電器屋さんをしてたんだって。
前世の記憶が甦ったのは10歳の時だったらしい。
今世は元子爵令息だったらしく何とランディスは貴族だった。
嫡男じゃないから騎士を目指して、見事王国騎士団に入団したらしいんだけど、一年目で怪我をして断念せざるを得なくなったらしいの。
それから前世の記憶が甦る前の幼い頃からずっと貴族に馴染めず、無駄にプライドが高く外面ばかりを気にして、さして子供に愛情を持たず自分の道具としか思っていないような両親のことがどうしても好きになれず苦手だったんだって。
それで思い切って出奔して平民になり料理人になったらしく、王都の食堂で住み込みで修行している時に、偶然前サウスカールトン侯爵様、フィンレルのお父様に会って、ランディスは騎士時代にお義父様に会ったことがあるそうで、ランディスが怪我をして騎士を辞めたこともお義父様はご存知だったそうだ。
それで偶然会ったランディスが料理人の修行をしていると知ったお義父様が、ちょうど領地で料理人を探してるからって誘ってきたらしく、ランディスはその時まあやってみるか!って軽い気持ちで返事してそのまま領地の料理人を続けているってことだった。
叔父が調べてくれた使用人の報告でもあったけど、お義父様ってよく気楽に人を拾って帰るなと思った。
お義父様は凄く優しい人だったみたいだけど、やり手でもあったみたいだからちゃんと調べはしたんだろうけどね。
でもランディスは前世料理をしたのは高齢になって奥様が亡くなってから、簡単なものしか作ったことがないからほとんど未経験だったんだって。
じゃあ何故騎士が出来なくなって料理人を目指したのかって言うと、幼い頃からこの世界の食事情に不満を持っていたかららしい。
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