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十四話 謝罪されても今更なのですけれど…でもどういうこと? ②
しおりを挟む「そんな馬鹿な…確かに私は君に伝えたことはないが、ちゃんとオルフェルに伝えるように言ったはずでそれを君は使っているのではないのか?」
フィンレルは顔色を悪くしながらも尚も訝しむ顔で私を見てくる。
オルフェルとは執事長のことでフィンレルは彼を信じ切っていて私のことを疑っていることに私は腹が立ってくる。
「わたくしが毎日のようにあちこちで散財していると、言っておりましたわね。
わたくしこの一年間ほとんど夫人用の執務室と自分の部屋の往復だけで、邸内の他のところにもほとんど行っておりませんし、外出など一度もしておりませんわ。
でも買い物など商人を家に呼び付ければいくらでも出来ますわね。
わかりました!旦那様こちらにいらっしゃって」
私は立ち上がって部屋のクローゼットに向かう。
「…っ」
フィンレルが私を今から何をするんだ?という戸惑いの表情で見上げてくる。
「早くして下さいませ」
私が表情を変えず冷たい視線を向けて言い放つと、フィンレルが慌てて立ち上がってこちらに歩いてきた。
私はクローゼットの扉を大きく開けて中を見えるようにする。
フィンレルは女性のクローゼットの中を見ることに羞恥を感じているのか、顔を赤くしながら恐る恐る中を覗き込む。
中坊か!女性のクローゼットの中を覗くだけで、顔を赤くして。
中には4着のドレスしかない。
大した飾りもない地味なドレスが広いクローゼットにポツンとハンガーにかかっている。
私は今までこの4着だけを着回ししていたのよ、年中。
侯爵夫人としては考えられないわよね?それどころか下位の貴族令嬢や裕福な平民でもなかなかないことだと思うわ。
貧しい人たちなら同じかこれよりも少ないかもしれないけれど。
「これらのドレスはわたくしが買ったものではありませんわ。
侍女長が持ってきた物を与えられただけですの。
毎日のように散財しているならクローゼットいっぱいにドレスなどが入っているのではありませんこと?
あと宝石などでしょうか。
ここには宝石箱などもありませんでしょう?
これでも信じられないのでしたらわたくしの部屋中でもどこでも家探しでも何でもして下さいませ」
「…そんなっ…」
フィンレルが顔色を青から白くして呆然と呟く。
「旦那様これがどういうことかわかりますわよね?」
私が目を細めてフィンレルを見据える。
「…あっ、ああ…」
フィンレルはもう呆然自失という感じだ。
でも同情しないわ、自業自得よ。
「ではお座りになって」
私は座る前に鍵付きのチェストの鍵を開けて、その中にある書類を出してきてそれをフィンレルに差し出す。
まだ途中だけど叔父からの報告の書類だ。
「どうぞそれを読んで下さいませ」
フィンレルは震える手で書類を読み始め、読み進めていく度に眉間に皺が深くなり、顔色は青から白そして土気色になっていく。
この書類には叔父様に今まで調べてもらった執事長と侍女長の外での現在の生活の様子だ。
いち使用人がおいそれと入れないであろう高級レスランから執事長と侍女長がそれぞれ家族で食事をしていたこと、貴族御用達の服飾店や高級宝石店に頻繁に出入りしていること、執事長はギャンブルもしていて賭場に出入りしていて、それらすべてどこでいつ何にどれたけ使ったのか、日時や金額を細かに記してある。
侯爵家の執事長、侍女長となれば平民や他の使用人よりもかなりの高給取りであるのは間違いない。
叔父様に聞いたけど、王宮の文官の中でも役職付きくらいの給金であるらしい。
だけども彼らの生活っぷりは自分の給金だけではとても賄えないもののはずだ。
ならそのお金はどこから出ているのか?おのずとわかることよね。
それとなんと執事長と侍女長は双方既婚者ながら不倫をしている。
ダブル不倫ってやつよ。
彼らが二人で連れ込み宿に入って出てくるところも調べ済みだ。
そのことも書類に明記されている。
フィンレルは書類に記載されいるすべてを読んで頭を抱えて項垂れる。
「この家の責任者は確かに旦那様ですわ、使用人に対しても責任がおありになりますわね。
ですが、侯爵夫人のわたくしにも使用人については責任がございます。
使用人をまとめて管理するのも侯爵夫人の仕事でしょうから。
わたくしも世間知らずで侯爵夫人に予算が組まれていることさえ知らなかったこと、今まで何も言わなかったことも良くないことでしたわ。
わたくしも責任を感じております。
ですが、旦那様が何もわたくしに教えて下さらなかったこと、わたくしとまったく関わろうとせずに没交渉だったことがこれだけのことになったのだとわたくしは思いますが、旦那様はどう思われますか?」
私が少し睨み付けながら問うとフィンレルが目を伏せて泣きそうな顔になった。
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