怒れるおせっかい奥様

asamurasaki

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五話 叔父様にぶっちゃけますわ ①

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 叔父に手紙を書いて人の良さそうな信用出来そうな御者のおじさんに、こっそり頼んで届けてもらうように言ったら、すんなりと受け取ってくれすぐに叔父に届けてくれて、その場ですぐ返事の手紙を貰ってきてくれたのよ。

 それで叔父は2週間後に来てくれると返事があった。


 2週間後、私は邸の庭園で叔父が来るのを待った。

 本当は出産後の産褥期でまだ2週間と少しだから私の部屋に来てもらった方がいいのだろうけど、部屋だともしかしたら廊下などで侍女に聞き耳を立てられたりすることもあるかもしれないから、広くて前後左右がよく見える庭園で叔父と会うことにした。

 椅子が二脚ある前のテーブルにお茶のカップソーサとお菓子が置いてあるのだけど、お菓子がクッキーだけが10個くらいしかお皿に乗っていなくて、侯爵家としてお粗末としか言いようがない。

 実家の子爵家でのお茶会の方がクッキーやサンドイッチ、ケーキなどが並んでいてまだ豪華だったわ。

 私はまだ何も言わないで我慢しているけれど、これだけ見ても本当に蔑ろにされているわね。

 来客の叔父のことも私の身内で平民だからと見下してこんな対応で良いと思っているんだろうけど、叔父は平民でもこの国でも有数の大商会の会長で、国内でも幅広くいろんな事業を展開していて顧客には高位貴族もいるのよ。

 こんなことをしたら侯爵家の品位を落としてしまうし、叔父にどう思われるかと何故わからないのだろう。

 私の身内だし平民だから大丈夫だとでも思っているのかしら?

 私の専属侍女たちが独断でやっていることなのかもしれないけど、邸内を取り仕切っているあの執事長と侍女長ももちろん私に来客があって、誰が来るか知っているのだから、ほんと程度がわかってしまうわね。


 溜息が出そうになるのをまだ私の専属侍女二人が側にいるから我慢する。


 しばらくすると叔父が執事長に案内されてやってきた。

 叔父を案内してきた執事長がちゃんと礼もせず、とっとと去って行ったわ。

 そのおざなりな態度に腹が立つ。

 叔父と挨拶を交わしてから侍女にお茶を入れてもらってから、下がってもらった。

 侍女二人は礼もせずすぐ様スタスタと去って行った。

 お茶をひと口飲んでそのヌルさに「はぁ~」と溜息をついた。

「ベレッタ?」

 叔父が心配そうに私を見るけど、どことなく怒っている表情で執事長と専属侍女の態度とこのヌルいお茶で叔父は何となく察してくれたように思う。

 叔父に実際に気付いて欲しいこともあって、私は今日も何も言わなかったのよ。

 叔父は母と私と同じ茶色の髪と琥珀色の瞳を持ち、短髪で前髪を後に撫で付け、貴族だと言っても良いくらいの質が良いだろうダークブラウンのスーツをキッチリと着こなした30代後半の美形ではないけれど、品の良い柔和で優しげでスリムな男性だ。

 濃い茶色の髪や瞳で顔も西洋人だけど、どことなく日本人っぽくて安心感を感じさせてくれる叔父の容姿。

 でも見た目柔和で優しげに見えるけれど、商会を親の代以上に繁盛させているやり手の商会長なのよね。

「叔父様本当にごめんなさい…。

 わざわざお忙しい中いらっしゃってくれたのに…」

 私は本当に申し訳なく思って眉を寄せる。

 でも少し演技も入れてか弱さを装ってみる。

「ベレッタが謝ることは何もないんだよ…。

 平民を侮る貴族はさほど珍しくないからね、慣れているよ。

 今日はベレッタが元気にしているのか、生まれたベレッタの子に会わせてもらいたいと思って来たが、それより先にベレッタの話を聞くことが重要みたいだね。

 ベレッタ大丈夫だから何でも隠さずに私に話しておくれ」

 さすがは優秀だと言われている叔父だ、いろいろと悟ってくれている。

 ベレッタが長年虐げられていたことに気付かなかったところはあるけれど、今頼れるのはこの叔父だけなの。

 私が何故叔父を呼んだのかもうわかってくれていて本当に良かったわ。

「ありがとうございます、叔父様。

 わたくし今まで言えなかったことがあるんですの…」

 それから私は自分が結婚した経緯を知ってもらう為に、まず家族の父と母のこと、私が生まれて数年してから母が父が元婚約者とずっと続いていて、私と同い年の娘がいることを知り母は父のことを独自に調べて父の有責で離縁して実家に戻ろうとしたけど、急な病で亡くなってしまい夫の裏切りを誰にも知らせることが出来ないままになってしまったこと。

 父はそれを良いことに愛人とずっと続いていたことと愛人との間に子供がいることを叔父に知られないようにして、私が懐いているから私の為に母親が必要だとか言って、母の喪が明けてすぐ愛人である元婚約者と結婚したこと。

 父は私や邸内の使用人たちには義妹が実子であることを隠しもしなかったけれど、義妹が実子であることがバレたら母の実家の援助がなくなると思い、義母の連れ子としたこと。

 義妹は義母の色を受け継いで父に似ず義母と同じく凄く美しいから連れ子と言われても疑われなかったのだろうね。

 義母は父と結婚出来なかったのは母のせいだと思い母と私を恨んでいて、父が再婚してから私は父、義母と義妹に虐げられていて普段はお仕着せを着せられ使用人として扱われていて、食事も使用人以下の残飯しか与えてもらえず、使用人にも蔑ろにされてきた。

 でも叔父が来る時だけ豪華なドレスを着せて宝石が付いたアクセサリーもふんだんに付けさせ、私を大事にしているように装っていた。

 ドレスはサイズがあるから叔父が来る時だけ用のドレスを用意されていて、アクセサリーなどはすべて義母と義妹のもので私のものはひとつもなかったこと、母の実家からの贈り物はすべて義妹に奪われていたことなどを包み隠さず全部話した。


 私は泣くつもりはなかったけど、母のことを話している内にいろんな思いが込み上げてきて涙が出てきた。

 母はしっかり者でとても気丈な人で、私のことをとても愛して大切にしてくれたのだ。

 そして父の裏切りを知った時に私にだけ先に話してくれて、私がどうしたいか聞いてくれた。

「私とアロットが離縁したら、貴方は平民になって私の実家に戻ることになるけれど、それでいいかしら?私はベレッタ貴方の希望通りにしたいと思っているのよ。

 遠慮せずに貴方がどうしたいか言って」と。

 ベレッタは貴族のまま父と一緒にいるより平民になってもずっと母と一緒にいたいから「もちろんお母様と一緒にいたいです」と答えた。

 後になって母がもっと早くに両親や叔父に相談していれば…と思ったけど、母は誰も頼らず自分で調べて動いて自分だけで決着を付けようとしていたのだ。

 私は自分のその後家族や使用人に虐げられたことがあっても、そんな母を責めることは出来ない。


「…ベレッタすまない…私は君を気にかけて様子を見に行っているつもりだったのに…何も気付いてなかったんだね…私の自己満足だったんだね…私は何て愚か者なんだ…いったい何を見ていたんだ!」

 叔父が痛ましい顔をして自分を責める。

「違います!叔父様が悪いのではないのです。

 叔父様は早くから商会を継いでお忙しい大変な日々を過ごしておられると知っていましたから。

 それにお父様やお義母様が狡猾にわたくしを虐げていることを隠して、ちゃんとわたくしを育てているように装っていたからなのです。

 それにわたくしはお父様とお義母様に脅されていたとはいえ、何も言えなかったから…あの頃は誰かに自分のことを話すのがとても怖かったのです…話してしまったら、わたくしはどうなってしまうのだろうと思って不安でいっぱいで…それで叔父様にも何も言えなかったのです。

 ごめんなさい…。

 でもわたくし自分の子が出来てこのままではいけないと自分が変わらねばと思ったのです」

「そうか、そうだったんだねベレッタ」

 叔父がうんうんと私の話を聞いてくれている。

 でもその表情は目が冷たく光り怒りに身体が震えている。


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