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八十二話

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「…リゼット」

 創造神トームが消えてからしばらく呆然としていたシリウス様が私を呼ぶ。

「…シリウス様ごめんなさい…」

 私が目を伏せて俯くと。

「謝る必要はない…とりあえず我たちの城へ戻ろう」

「…はい」

 私は自分の前世の記憶が甦った時にシリウス様に伝えていなかった。

 そして何故かわからないけど、そのことはシリウス様に伝わることもなかった。

 それは創造神トームの采配であったのかもしれないけど、今となってはわからないし私はそのことを聞かなかった。

 私はシリウス様が憎むあのエンタリアと同じ神だったのだ。

 どこか後めたい気持ちでシリウス様の目を見ることが出来なかった。


 転移でシリウス様と私は部屋に戻ってきた。

 戻ると、ナリナさんたちが何が起こったのかわからないけど、何か異変があったことを悟って、アタフタしながら私たちを出迎えてくれた。

「…戻った、何があったかお前たちには後で詳しく話す。

 とりあえずはここに我とリゼットの食事を用意してくれ」

「承知致しました」

 ナリナさんがシリウス様の命令に返事して、すぐに食事の用意がされた。

 食事をソファの前のテーブルに並べてからナリナさんたちは部屋を出て行った。

 それからシリウス様と私は食事を始めた。

「…食事が美味い…腹が空くということがこんなに嬉しいなんて…我もこれから食事が自分の実となり糧となっていくと思えば格別だ」

 しばらく無言で食事を食べていたけど、シリウス様が感慨深そうに呟いた。

「…そうですね…これからはシリウス様もお腹が空いて食べた食事がシリウス様の実となり糧となっていくのですね…」

 私はまだシリウス様の目をちゃんと見れない。

「リゼットよ、ちゃんと我の目を見てくれないか?」

 シリウス様に言われて私は恐る恐るシリウス様の赤と金の瞳を見る。

「…ごめんなさい…本当にごめんなさい」

 私は胸がツキンッと痛む。

「…それは何に対して謝っておるのだ?

 我に内緒で無理をしたことに対してなら許そう。

 だが、他のことで謝っているのなら謝る必要はないのだ。

 後ですべて教えて欲しいが、今は食事を楽しもう」

「…はい」

 シリウス様はこう言ってくれているけど、私はシリウス様に元は神であったことを知られてしまったことに心臓が嫌な音を立てていた。

 そんなことはないと思うけど、もしシリウス様に嫌われたら?私を信用してくれなくなったら?と思うと、ツキンッツキンッと心臓に何か刺されている感覚になった。

 
 ゆっくりとした食事の時間が終わった。

 シリウス様はいつもよりゆっくりと自分の感覚を確かめるように味わって美味しそうに食事を食べていた。

 シリウス様が食事の終わりをナリナさんたちに告げると、お茶とフルーツ、ケーキを用意して彼女たちは再び部屋を出て行った。

「さあリゼットよ、我に隠し事はせずにすべて話してくれ」

 シリウス様に言われて私はあの魔族みんなを解毒して倒れた後、すべての前世の記憶を取り戻したことを話した。

 自分がパールティアラという神であったこと、エンタリアとの経緯まですべて。

 シリウス様は私の前のソファに座り、長い足を組んで両腕も前で組んでいる。

「…ふむ、そうであったのだな…リゼットはあの神に自分の世界を壊されたことを復讐したかったのだな…」

 シリウス様は目を細めて私を射抜くように見つめてくる。

 私はシリウス様の目を見てドクンッとなる。

「…それもあります。

 でもエンタリアがシリウス様をこの世界に生きるみなさんを自分の楽しみの為にだけ操って翻弄していることも許せませんでした。

 彼は自分が神だから何をやってもいいんだ、自分の世界に生きるものに愛を持つなんて愚かだと言っていました。

 …自分の世界に生きるものに対して愛がないことが一番許せなかったのかもしれません…」

「…そうか…リゼットはリゼットとしてだけでなく他でも辛い目に遭っていたのだな…」

「えっ?シリウス様?」

 シリウス様の言葉に私は胸が込み上げてくる。

「どうしたのだ?」

 シリウス様が首を傾げだ。

「…っ、…どうして何も言わないのですか?…私は貴方様の嫌って憎んでいた神と同じ存在だったのですよ!」

 多分今の私は目が赤くなって今にも涙が零れ落ちそうになっているだろう。

「我は確かにあの神を憎んでいた。

 でもそれはあの神という存在だけで、神という存在自体を憎んでいたのではないのだ。

 例えリゼットが神という存在であったとしてもあの神とは違うことは聞かずともわかる」

 シリウス様はキッパリと言う。
 
 シリウス様の大きな愛と私を全面的に信用してくれていることに感激して胸が熱くなる。

「…シリウス様…」

「我はリゼットが何よりも大切だ。

 そなたが神であろうとヒト族であろうともな。

 それでひとつ聞きたいのだか?」

 シリウス様の真摯な視線に私はドキッとする。

「シリウス様何ですか?何でもお答えします」

 私がシリウス様の目を見つめながら言うと、シリウス様は少し顔を赤らめ私から目を逸らす。

 私は何だろう?キョトンとして首を傾げる。

「…その…昨日リゼットが我と愛し合いたいと言ったのは死を覚悟していたからなのか?」

 シリウス様の目を細めた真剣な瞳に私の心臓はまたドクンッと大きな音を立てた。







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