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七十三話

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 王城の一箇所の扉が開いてまずレナンドさんが先頭で入っていく。

 レナンドさんが前方の敵を蹴散らす為だ。

 次にシリウス様と私が入りその後にナリナさんたちが続く。

 左右と後はナリナさんたちが受け持つ。

 レナンドさん、シリウス様が迷いなく中を進んで行く。

 途中で前左右後から待ち伏せしていた兵士たちが、私たちにワァーッと叫び声を上げながら飛びかかってくるが、レナンドさんとナリナさんたちが簡単に蹴散らしていく。

 シリウス様と私は何もすることなく目的地に向かってどんどんと進んで行く。

 レナンドさんとシリウス様が魔力探知を使っているのだろう。

 重厚な扉の中にある謁見の間にあっという間に到着して、レナンドさんとシリウス様が迷いなくその奥に進んで行き、謁見の間の左奥にある床の前まで行き、その床の仕掛けをレナンドさんがあっと言う間に解いてしまった。

 その仕掛けさえも情報収集の際、掴んで報告していたということなのか。

 私はどうやって仕掛けを解いたのかまったくわからなかった。

 床がガタッと上に上がると地下に降りる階段があった。

 それを下って行くと、目の前にまた扉が現れた。

 それをまるで自動のようにレナンドさんが開いた。

「ヒッ!」

 中から悲鳴が聞こえてきた。

 レナンドさん私たちが入っていくと、奥で何人かが固まって立っていた。

 そこには王族と貴族、従者や侍女護衛であろう騎士たちも含めて数十人がいた。

 そこでシリウス様が私の手を繋いだまま前に出る。

「お前がゲオング王国の国王か?」

 シリウス様が王冠を頭に乗せたブロンドの髪に濃い碧眼の壮年の男に問う。

 すると顔色を悪くして引き攣らせているが、背筋を伸ばしてその男が前に出る。

 周りに騎士たちが守るようにその男を囲む。

「いかにも私がゲオング王国国王だ、貴様が魔族の長か?」

 威厳のある声が響く。

「いかにも我は魔王と言われているファーシリウスだ」

 シリウス様が表情を変えず国王と同じように答える。

「ま、魔王だと?!」

 国王が目を大きくして呟く。

 固まっている王族、貴族他の者たちも目を見開き驚きの表情をする。

「そうだ」

 シリウス様が端的に答える。

「うっ嘘だ!魔王なんて存在聞いたことがないぞ!……いや、確か大昔の聖典で…読んだことが…そんな、まさか…いや…違う…はずだ…」

 国王の表情が驚愕から絶望に染まっていく。

 あらたな真実がここで出てきた。

 国王の言葉から大昔の聖典には魔王の記述があったということなのか。

 それがシリウス様を指すものなのか、人間が間違った言動をしないようにとの戒めの為の創作の中のものなのかはわからない。

 だけど国王は魔王と聞いて明らかに顔が絶望へと変化していった。

「聖典などは知らぬしまったく興味もない。

 お前も信じておらぬようだし、他のヒト族は我の存在を知らないのだな。

 無理もない、我は5000年以上前に魔国に移ってから一度も大陸に姿を現していない。

 同族を魔国に導いたのは我だ」

「なっ…何だと!それにしても貴様たちが生きていようとは…何故…」

 国王は私たちが生きているということがどういうことかわかっているようだ。

「そうだ、あの毒で我らは死ぬことはなかった。

 だから当然魔国に上陸してきた者ちがどうなったかはわかっているであろう?」

 尚もシリウス様は表情を変えない。

 その時国王の後にいたプラチラブロンドの髪に紫の瞳の美しい女性がよろめく。

「そ、そんな…オーウェン!」

 悲観に暮れる悲鳴が響いた。

「あの討伐隊の隊長はオーウェンといったな。

 アヤツは毒を魔国に撃ち込む発案者であったのだろう?

 だから我自ら矢を四肢他にもあらゆるところに撃ち込んで、情けなく我に命乞いをして苦しみながら死んでいったぞ」

 シリウス様がニヤリとして言うと、先程の王妃であろう女性は「ひっ」と悲鳴を上げて侍女らしき人に支えられたが、気絶したようだ。

 他にも王女であろう女性二人がよろめいて膝をついて泣き始めた。

「あああっーオーウェン!だから私は反対していたのだ!」

 国王が頭を掻き毟りながら嘆き叫ぶ。

「く、クソーッ死ねぇーっ」

 一人の男性が剣を抜きシリウス様に襲いかかってきた。

 剣に虹色の光を纏わせているからスキル聖剣の光を持つ者、国王と同じブロンドの髪に濃い碧眼の背が高く体格の良い男性、勇者の末裔でもう一人王子、王太子なのだと思う。

 私は同じ魔獣討伐には参加したことはあったが遠くからしか見たことがないけど見目から王太子なのは間違いないだろう。

 しかしその王太子はシリウス様が手の平を彼に向けると、急に立ち止まって「グッ」と声を出してガクッ片膝をついた。

「お前はこの中で一番力を持っているようだな、だが我の敵ではない」

 王太子が片膝をついた後、どんどん身体に重力をかけられているのか背を丸めていき、息苦しそうに「うっ、くっ…はっ…」と喘ぐ声が聞こえてくる。

 片膝をついた王太子が必死に顔を上げた時に私と目が合った。

 王太子の濃い碧眼が驚愕に瞳孔が開いていく。

「…!…そ、の…女、は…まさか…」

「ほぉ、お前はリゼットを知っておるのか。

 そうだ、カナンゲート聖王国の聖女であったリゼットだ」

 それにシリウス様が答えた。



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