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六十六話
しおりを挟む私はしばらくシリウス様にしがみつきながら涙を流した。
頭の中ではリゼットとして生まれてから今までの日々と、先程のことを思い返していた。
私はあんなに怒りや憎しみ悲しみ恨みの感情に支配されていたのに、実際オーウェンたちに会った時にはそんな感情は沸いてこなかった。
プリシラの自分勝手な主張を聞いても憐れに感じて、そして終わってからは虚しさを感じただけだった。
プリシラや聖女たちを自分の手で葬っても罪悪感を感じたり後悔もなかった。
魔族に対して彼らがしたことは許せないとは思うし、こうなったのは仕方のないことだと思っているけど、彼らを殲滅した時に仇を取ってやったとか喜びは感じなかった。
ただ少しの安心感と虚しさが残っただけだった。
私は涙を流して落ち着いてきて自らの腕を力を緩めてシリウス様を見上げた。
「リゼットよ、大丈夫か?」
シリウス様は赤と金の瞳を心配そうに揺るかめせている。
「シリウス様大丈夫です、後悔なんてしていません。
ただ私の今までを思い返して、それから彼らを憐れだなと思っていただけです」
「…そうか」
「シリウス様これからどうするのですか?」
私はシリウス様に問いかけながら自分たちの周りを見た。
あちこちに人が倒れていて、その一帯が血の海になっていた。
私たちの近くに側近さんたち、レナンドさん、オーガ族ゴブリン族が立って彼らも心配そうに私を見ているのに気付いた。
振り返ると後に控えているナリナさんたちも私を心配そうに見つめてきている。
私は彼らに気遣わせているのだなと思って、大丈夫だよという気持ちを込めて彼らに向かって微笑んむと、彼らも微笑んで頷いた。
「そうだな、まずはここを処理してから我らの城に戻ろう」
シリウス様はそう言うと、私から少し身体を離して半身を私と反対側に向けて、片手を左右に振った。
すると倒れていた人たちがシュッーとまるで灰になったよつに消えて、あちこち血で塗れた大地が元の土の状態に戻り、大きな穴が空いていた広場も建物も元に戻り何もなかった以前ように状態に戻った。
「えっ?凄い」
私は目をパチパチと瞬かせた。
シリウス様って凄い力を持っているとは思っていたけど、これほどのことまで出来るんだ。
するとパチパチと拍手の音が聞こえた。
私たち以外の方たちが拍手をしたのだ。
そうだ討伐隊を全滅させて、ここが元に戻ったんだものね、魔族にとっては喜ばしいことで本当に良かった。
私はシリウス様と視線を合わせて微笑み合った。
それからシリウス様が私の手を引いて集まっているみんなの方まで歩いて行く。
「みなの者よ、ご苦労であった」
「魔王ファーシリウスリゼット様もご苦労じゃったのじゃ」
アンディナさんがシリウス様と私を見て微笑む。
「みなさんお疲れ様でした!ありがとうごさいました」
「わしらは殺された仲間たちの仇を取ったまでですわい。
まっ、まだ残ってますがな…。
リゼット様は毅然としていて立派だったですわい」
私がみんなへの労いとお礼を言うと、レナンドさんがニコニコとしながら言った。
「レナンドよ、久しぶりの戦闘であったが大丈夫だったようだな」
シリウス様が穏やかな視線でレナンドさんを見る。
「いやはやこの老体大丈夫なんかではなかったですわい。
長年訓練しておらんかったので、勘が戻らずでもっと訓練せんといかんですわい」
「何をおっしゃいますかレナンド様!
レナンド様はかなりの手加減をしているのをワシは見ておりましたが、それでもヒト族の束を一瞬で跡形なく炭にしてしまわれていましたぞ。
レナンド様の力は以前と変わりませんでしたぞ」
ドラキエスさんがレナンドさんを羨望の眼差しで見つめている。
「何を言うか!お前たちの成長が凄まじくてだな、わしのやることが少なかったわい。
今のわしじゃきっとアンディナに勝てんのじゃわい」
レナンドさんがドラキエスさんの言葉に肩を竦める。
「ほぉほぉ、レナンドよ、妾はいつでも胸を貸すのじゃ」
「ほっほっほっ、そうじゃなアンディナに鍛えてもらえるようお願いするわい」
レナンドさんも側近さんたちも何らいつもと変わらない笑顔で賑やかに喋っている。
私も彼らを見ながら微笑んだ。
彼らが少しでも溜飲を下げれたことは素直に良かったと思った。
シリウス様が「戻るぞ」と言われたので、私たちは歩いて王城へと戻って行った。
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