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六十三話

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「皆様お久しぶりです」

 と私が声をかけるとオーウェン、プリシラ、エリザベス、フィオーナが私を見て「えっ?」と目を見開き、口をポカンと開ける。

 彼らは信じられないという驚愕の表情をして、その場から一歩も動かない。

 その間も彼らの後方はザワついていて、一番後方の兵士たちが我先に逃げようとしたようだが、その後からは船を破壊したオーガ族とゴブリン族たちが行く手を阻んでいて、逃げ場はないはずだ。

「何で!…何でた!…そんなことはないはずだ…あの毒で魔族はみな死に絶えているはずだ…それにあの女は第三聖女なのか?…いや、そんなはずはない…あの時死んだはずだろう…いや、あの女も魔族なのか?…それに白い髪の女の隣にいる男も…魔族に瞳の色が左右で違う者がいたか?…聞いたことがない…これはいったい…」

 オーウェンがこの現実を受け入れられないのか、独り言のようにブツブツと言っているが、全部こちらに聞こえてきているんだけど。

「私は確かに第三聖女のリゼットですよ」

 私は微笑みながらゆっくり語って聞かせるように言った。

「うそ、嘘よ!何故…どうしてよ!あんな見窄らしかった平民女が…何でそんなに!……あの平民女はもっと見窄らしくて汚らしく醜いのよ!

 だからお前はあの平民女ではないわ!

 あの平民女は見窄らしくなくてはいけないのよ!絶対違うわ!だって…」

 プリシラがカッと目を見開きその目を血走らせ私の方を睨み付けながら叫ぶ。

 私が見窄らしくなくてはいけないとはどういうことだろう?だってとは?

 平民の孤児だから?魔族のような金の瞳をしているから?

 プリシラはどうしてそんなに私の見目に拘るのかな?

 でもそんなに私のことが嫌いで憎んでいるのね。

 嫌われているとは思っていたけど私の予想以上だったみたいで苦笑いがもれる。

「ククッ見窄らしいのはお前の方だ、名ばかりの大聖女よ」

 シリウス様が微笑みながらも氷のように凍てついた目でプリシラを見つめる。

「なっ!…何よ!何なのその男は!忌まわしい魔族でしょ!無礼者!わたくしは誰もが認める世界が認める大聖女なのよ!」

 プリシラは顔を真っ赤にし顔を歪ませてシリウス様を睨み付ける。

「クックッお前は魔力も才能も見目もすべてがこのリゼットに劣ることを心のどこかではわかっていたのではないか?

 それを認めたくないから必要以上にリゼットを虐げていたのだろう?」

「…っ!ち、違うわ!わたくしはあんな見窄らしい卑しい平民女なんて最初から眼中にないのよ!何なの!あんたは!」

 プリシラは顔を真っ赤にして己の両拳を握り締め怒りで我を忘れているのか、先程から王女らしからぬ口調になっている。

「フン、我か?我は魔族を統べる魔王と言われておるが?」

「ま、まおう!?」

 オーウェンが驚愕に目を丸くする。

「ちょ、ちょっと魔王がいるなん
 て一度も聞いたこともないわ!どういうことなのです?!」

 エリザベスがそう叫んでからプリシラとオーウェンに目をやる。

「嘘だ!魔王なんかがいるなんて聞いたこともない!昔の文献にもなかったぞ!

 私たちを怖がらそうと嘘を言っているのだろ?黒い髪ならデーモン族かヴァンパイア族なのだろ?」

 オーウェンが唾を吐きながら顔を歪めて叫ぶ。

 ゲオング王国いちの美形と言われているオーウェンだけど、シリウス様に比べたら足元にも及ばないわ。

 それにその美形を台無しにするくらいに焦りか恐怖なのか顔色を悪くして歪めている顔は、まったく美しく見えない。

「人間の世界では知られていませんけど、この方は確かにこの魔国を統べる魔王様ですよ」

 私は微笑みを浮かべながら彼らに事実を告げる。

「…そんな…どういうことなんだ?何故あの毒で死んでいないんだ?…ということはやはり貴様は第三聖女なのか?!」

「ええ、私はさっきからリゼットと名乗っております。

 私は聖女なので神聖魔法を使えますが、闇属性も使えます。

 ですからあの毒はすべて私が解毒しましたよ」

 目を細めながらオーウェンを見やる。

「…そんな…嘘だ!…そんなはずはない!…例え貴様が第三聖女であっても…聖女が闇属性をも持っているなど考えられない」

 オーウェンが額に汗を滲ませ焦った顔で私を見てくる。

 私はそこで神聖魔法と闇魔法を発動して、手の平の上に球体を2つ作ってみせる。

 神聖魔法の虹色と闇魔法の黒色の球体が私の手の上に乗っている。

 私たちの後に控えてくれているナリナさんたちが私の手の平を見て拍手する。

「これで納得してくれました?」

「っ!…そんな馬鹿な…嘘だろ…」

 オーウェンは何回嘘と言っただろう?それくらいいろんなことが信じられないってことなんだろうね。

 あの毒で魔族みんな死んでいて首だけ持って帰ればいいと思っていたはず、なのに死体はどこにもなくこうして魔族がピンピンして自分たちの前に姿を現して、おまけにシリウス様が魔王と名乗ったことも、そして死んだと思っていたはずの私が姿を現したことも。

 それらすべてが想定外で信じられなくて受け入れられないことなのだろう。

「…お前は本当にあの平民女だと言うの?…」

 プリシラがこちらに向けて一歩前に出て私を憎々しげに睨み付けてくる。

「プリシラ様そうですが?」

 私は大聖女様ではなくわざと名で呼んだ。

 プリシラがそのことにビクッと反応して、顔を般若のように歪ませて私を睨んでくる。

 プリシラはいつも自分のことを大聖女様と言え!と私にも他の人たちにも強要していたからね。

「お前があの平民女なの!?…信じられない!お前は骨と皮の見窄らしい醜い女のはずよ!」

 さっきシリウス様が言った魔力も才能も見目も心のどこかで自分の方が劣っていると思っていたってこと?

 その中でもプリシラは見目を一番気にしているということ?何てつまらない。

「私この魔国で凄く大切にしてもらっていて、食べたいものを食べて毎日楽しく生活させてもらっておりますので、お陰様で健康になりました」

 私はシリウス様を心からの笑顔で見つめる。

「ああ、リゼットは元から美しかったが、今では健康になり誰よりも美しいであろう?」

 シリウス様が私の腰に腕を回して私を自分に引き寄せる。

 私も微笑みながら見せつけるようにシリウス様に寄りかかる。









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