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三十九話
しおりを挟む「シリウス様、私フロムウェルさんと戦ってみたいです」
正直フロムウェルさんがどれほど強いのか想像つかないから怖さは確かにある。
今の私はファブリさんとジェンドさん相手でもやっとのことで、勝てたくらいで、正直フロムウェルさんに勝つ自信はない。
でも私がシリウス様の隣に相応しくなる為には、魔族の方たちに受け入れてもらう為にはここで逃げてはいけない!
「リゼットいいんだな?」
シリウス様が私の手を握りながら私の身長に合わせて屈んで、真剣な瞳で私を見つめてきた。
「はい!フロムウェルさんと戦わせて下さい」
「ふむ、わかった認めよう」
「そうこなくっちゃ」
フロムウェルさんが不敵に笑う。
「おら、いつまで眠りこけてんだ
、今から俺がリゼット様と戦うんだ!さっさと起きやがれ!」
フロムウェルさんが乱暴に寝転がっているファブリさんたちの身体を蹴っている。
その乱暴な行動に私は目を見開く。
ノロノロとファブリさんたちが起き上がり、肩を落として端へと歩いて行く。
私はフロムウェルさんと対戦することになった。
私たちが向かい合ったところでシリウス様の合図の声が聞こえる。
「始め!」
始まっていきなり今までに見たことがない早さで凄い威力の最上級の火魔法が飛んでくる。
そして魔法が飛んできたと思った瞬間、もう目の前にフロムウェルさんがいて、もう蹴りが私の顔に近付いていて、何とかすぐさま身体強化して両腕を顔の前に組んで防御したけど、蹴りが腕に当たり私は吹っ飛ばされる。
壁に強かに背中を打ち付けたところにフロムウェルさんは追撃と言わんばかりにまた魔法を撃ってきて飛びかかってきた。
早い!今までとは段違いに早い!
威力ある火魔法とフロムウェルさんの打撃と蹴りを寸前のところを避けたけど、火魔法が頬と髪をかすりピリッと痛みを感じで、髪が焦げた匂いが漂ってきた。
蹴りを食らった両腕がドスッと重く今までで一番痛い。
今更だけどここでは痛みもダメージも軽減されているように思う。
本当のダメージを受けていたらいくら身体強化していたとはいえ、私の腕は使いものにならなくなっていただろう。
それくらいフロムウェルさんの威力は重く強い。
「へぇ~」
とフロムウェルさんがニヤッと笑いながら魔法、打撃、蹴りとどんどんと攻撃してくる。
これは次に一発でもまともに当たるとその瞬間に終わる。
私は防御結界を張りながらフロムウェルさんの攻撃を避けるが、防戦一方になる。
しかも防御結界を張ってもフロムウェルさんの魔法攻撃や打撃がまともでなくとも当たると一度で結界は相殺されてしまう。
そこも今までとは違う!フロムウェルさんが私より遥かに強いという証拠だ。
私が魔法を撃っても簡単に避けられてしまい、フロムウェルさんのすべての攻撃が今までと比べものにならないくらい早いから、私は連続で魔法を撃つことが出来ない。
このままでは逃げ回ってる間にいつか捕らえられてまともに攻撃が当たってしまう。
勝てないかもしれないけど、このまま逃げたままで負けたくない!負けるにしてもそんな負け方をしたくない!何よりも負けたくない!勝ちたい!
私は余裕がなくなりどうしていいかわからなくなってくる。
このままじゃ駄目だ!冷静になれ私!
フロムウェルさんの攻撃を避けながら考える。
もっと威力のある魔法を連続して撃てれば…。
相殺されるたんびに防戦結界を張ってからの攻撃は効率的じゃない。
でもフロムウェルさんの撃つ魔法の中を突っ切ると、ダメージをかなり受けて、すぐに仕留められてしまいそうだ。
でも跳躍してもフロムウェルさんの魔法は天井までこの部屋全体を覆うような広範囲に届くもので、どう動いてもフロムウェルさんの魔法は避けようがない。
でも私が連続攻撃するにはフロムウェルさんの魔法の中を突っ切るしかない!魔法の中心でなければ、自分の魔法を撃ってその軌道の中突っ切ればダメージは多少低くなるはず。
中心を避けて自分の魔法を撃ってその軌道の中を突っ切って魔法攻撃と打撃蹴りを撃てれば!やったことないけど、一か八かだ。
私はフロムウェルさんが魔法を撃つ瞬間にその中心を予測してそこを裂けて、自分の魔法を同時に撃ってその軌道に沿って中を突っ切った。
かなりの痛みがあるけど、それを押して自分が魔法の軌道の中を跳躍して、連続魔法攻撃と打撃蹴りを繰りし出した。
フロムウェルさんはまさか私が魔法の中を突っ切ってくるとは思わなかったのだろう、空中で私の連続魔法は避けられたが私の打撃と蹴りが当たった。
フロムウェルさんは吹っ飛んだけど、寸前で避けられまともに当たらなかったようで、フロムウェルさんは壁に当たることなく後に飛んでサッと立ってすぐ次の攻撃を繰り出してくる。
この攻防を繰り返しているうちに私の打撃や蹴りだけでなく、魔法攻撃も直撃ではないが当たるようになった。
だけど私もダメージを受けていて、だんだんと体力、魔力が削られていき、とうとうスタミナも限界がきた。
最後に魔法と打撃、蹴りを打ってフロムウェルさんに当たったけど、私は膝をついてもう動けなくなった。負ける!
そう思ったけど、フロムウェルさんからの攻撃がなかった。
前を向くとフロムウェルさんが立っているけど、攻撃を仕掛けてこなかった。
「やめ!引き分けだな」
シリウス様が言ったけど、フロムウェルさんは立ってる。
私の負けだ。
「いえ…私の負けで、す…」
悔しいけどお互いの状態を見て明らかだった。
「いや、引き分けです。
俺ももう動けない、魔法も撃てない…」
そう言った瞬間フロムウェルさんがガクッの片膝をついた。
「スゲーやリゼット様…戦ってる間にどんどん強くなる、ワクワクしたぜ!」
「フロムウェルさん…」
「ありがとうございました!もう動けないからここからすんません」
「…私もです、ありがとうございました」
フロムウェルさんを見るとニカッとイタズラっぽと笑った。
私も彼に釣られて笑う。
「…わっ、きゃあ!」
いつの間にかシリウス様が私の近くまできていて、私をひょいと抱き上げた。
私が驚いて身動ぎすると。
「リゼット落ちるぞ!掴まれ」
シリウス様にそう言われて私は慌ててシリウス様の首に腕を回す。
フロムウェルさんだけじゃなくて、ウルフ族スネイク族の方たちもいるから恥ずかしくてシリウス様の肩口に顔を埋める。
「今日のリゼットの訓練は終了だ、戻る。
良い戦いであった、フロムウェルもご苦労」
シリウス様が言うと、フロムウェルさん、他の方たちが礼をする。
私がシリウス様の肩口から少し顔を覗かせてフロムウェルさんを見ると、フロムウェルさんが親指を立ててにっこりと笑った。
私はシリウス様に抱っこされながら頭を下げた。
その後すぐにシリウス様が転移して私の部屋に戻ってきた。
シリウス様が私を抱き抱えたままソファに座る。
私はシリウス様の膝の上に座る形になる。
「し、シリウス様下ろして下さい」
「嫌だ」
「えっ?」
嫌だってシリウス様?
「大丈夫か?治癒結界があるといえどフロムウェルの攻撃は痛かったであろう?」
シリウス様が心配そうに私の頬を撫でてくる。
「あ、あの!…もう大丈夫で、す…」
私は顔が熱くなってドキドキして、だんだんと声が小さくなる。
ナリナさんたちがいるのにこの体勢は恥ずかし過ぎる。
「訓練は我が言い出したことであるし、フロムウェルとの対戦は我が承知したことではあるがそなたが傷だらけになるのは見ていて辛かった。
フロムウェルとの対戦は止めるべきであった」
シリウス様が痛ましそうな表情になる。
私はそんなシリウス様を見て胸がキュンッとなる。
「シリウス様私はとても良い経験をさせて頂きありがとうごさいました。
やはり側近の方は本当に強いのですね、私はもっと強くなりたいです」
「えっ!きゃっ…」
シリウス様にギュッと抱きしめられる。
「リゼット、リゼット、リゼット」
シリウス様が私の名を何度も呼びながらギュウッと抱きしめる力を強めてきた。
私は恥ずかしいけど、でも温かいシリウス様の腕の中が心地よくてシリウス様にギュッとしがみついた。
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