6 / 96
五話
しおりを挟む「えっ?…もしかして魔族?…」
私は目を見開く。
「そのもしかしてだ」
「…」
私は声も出せず美しい人?魔族を凝視する。
怖れとかはない、もう私は死んでいるからかな?
それにしても何故私の目の前に魔族がいるの?私死んだんだよね?
私は無言で美しい魔族を見つめる。
「聖女は我が怖いのか?」
美しい魔族がニンマリと口角を上げて本当はそう思っていないような悪戯な顔で、私の瞳を覗き込んできた。
「…いえ、…私死んだはずで…だから…」
あまりの距離の近さに緊張と戸惑いで何て言っていいかわからない。
「そうだな…確かに一度そなたは死んだ。
でも魔族になりたいと言ったであろう?だから我がそなたを蘇生した」
「へ?」
私は間抜けな声が出た。
確かにそんなに魔族のような瞳と蔑まれるなら魔族になりたいと言ったけど、心の中でだよ。
何で知ってるの?
それに蘇生?蘇生なんてこと魔族が出来るの?
「魔族になりたいと言ったのは嘘か?」
美しい人、じゃなくて美しい魔族がさらに私に顔を寄せて聞いてきた。
美しい顔が間近になり私はより緊張が高まってなのか胸がドキドキする。
顔まで熱くなってくる。
「…う、嘘ではありません!
人間なんて大嫌い!
もう人間の世界で生きていたくありません!」
「…そうか…ならこれからは魔族として生きていくがよい」
美しい魔族が私の頭を撫でてきた、とても優しい手つきで。
私は生まれてからそんなことをされたことがないから、驚いたけど目がツーンとして目に力を入れたけど、ひと筋涙が流れ落ちた。
「…ど、どうして?…魔族?」
「そうだ、そなたが人間が大嫌い、魔族になりたいと望んだから我はそなたを蘇生することにしたのだ」
私は本当に生き返ったということなの?
この美しい魔族は蘇生だけじゃなく心の声も聞こえるの?
私は魔族として生きていくの?
美しい魔族に言われたことがまだちゃんと受け入れられないでいる。
「私、魔獣に首を…」
「ああ、そうだ。
魔獣に首を噛み切られた後、我が蘇生してそなたは10日間眠り続けていたのだ。
10日の間我がそなたに魔力を流し続けていたが、我とそなたは相対する存在ながら魔力の相性が良いようで気持ち良さそうに眠っておったぞ」
美しい魔族に言われて、自分の首に触れてみる。
自分の首には傷ひとつなく、温かい。
本当に生き返ったの私?
それから魔族と聖女の私の魔力の相性が良い?
でも目が開かなかった間、胸から温かいものが流れ込んできて全身ポカポカとして温かく心地良かった。
あれはこの美しい魔族の魔力が私に流れ込んできたからなの?
私は戸惑いに目を瞬かせる。
「どうしたのだ?聖女よ」
美しい魔族の金と赤の瞳が真剣な光を帯びている。
先程怖いかと聞かれたけど、先程は死んだのだと思っていたから怖くなかったが、今もまったく怖いと感じない。
それどころか初めて見た私と同じ金と少し濃い赤の瞳がとても綺麗だと思った。
「いえ…とても綺麗な瞳だなと見ていました」
「ククッ我の瞳が綺麗か」
美しい魔族が笑う。
本当に綺麗な瞳で完璧な美貌だ。
人間ではなく魔族と言われて納得してしまう。
人間でこんなに美しい人は見たことがいないし、何というか存在そのものが人間ではない感じがした。
「あの、魔族様…私はどうなるんでしょう?」
私はこの魔族の国に来て、たくさんの魔族や魔獣を殺したと思う。
今までも大陸でたくさんの魔獣を殺してきた。
魔族として生きよと言われたけど、それは嘘で蘇生して元気になってから甚振られて処刑とかされるんだろうか?
人間も魔族を憎んでいるけど魔族も人間を憎んでいると聞く。
「ああ、我はファーシリウスだ。
そう呼べ」
「…ファーシリウス、さま?」
「そうだ、そなた名は何と申す?」
「…、…リゼットと言います」
私が少し戸惑ってから自分の名を名乗ると。
「リゼットだな。
それからそなたのことはどうもしない、処刑などするなら最初から蘇生などしない。
蘇生は他の魔法より多くの魔力を必要とする。
我はそんな無駄なことなどしない」
人間が大嫌いだ、魔族になりたいと言ったのもそうだけど、今も処刑とかされるんだろうか?と心の中で思ったことだ。
ファーシリウス様はやっぱり私の心の中の声が聞こえるの?
65
お気に入りに追加
179
あなたにおすすめの小説
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
【R18】転生したら異酒屋でイキ放題されるなんて聞いてません!
梅乃なごみ
恋愛
限界社畜・ヒマリは焼き鳥を喉に詰まらせ窒息し、異世界へ転生した。
13代目の聖女? 運命の王太子?
そんなことより生ビールが飲めず死んでしまったことのほうが重要だ。
王宮へ召喚?
いいえ、飲み屋街へ直行し早速居酒屋で生ビールを……え?
即求婚&クンニってどういうことですか?
えっちメイン。ふんわり設定。さくっと読めます。
🍺全5話 完結投稿予約済🍺
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
クソつよ性欲隠して結婚したら草食系旦那が巨根で絶倫だった
山吹花月
恋愛
『穢れを知らぬ清廉な乙女』と『王子系聖人君子』
色欲とは無縁と思われている夫婦は互いに欲望を隠していた。
◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。
ご主人様、どうか平和に離縁してください!〜鬼畜ヤンデレ絶倫騎士に溺愛されるのは命がけ〜
蓮恭
恋愛
初めて受けた人間ドック。そこで末期の子宮がん、それに肺転移、リンパ節にも転移している事が分かった美桜(ミオ)は、仕事に生きた三十七歳の会社員。
会社員時代に趣味と化していた貯金一千万円も、もう命もわずかとなった今となっては使い道もない。
余命僅かとなった美桜の前に現れたのは、死神のテトラだった。
「おめでとうございます、進藤美桜さん! あなたは私達の新企画、『お金と引き換えに第二の人生を歩む権利』を得たのです! さあ、あなたは一千万円と引き換えに、どんな人生をお望みですか?」
半信半疑の美桜は一千万円と引き換えに、死後は魂をそのままに、第二の人生を得ることに。
乙女ゲームにハマっていた美桜は好みのワンコ系男子とのロマンチックな恋愛を夢見て、異世界での新しい人生を意気揚々と歩み始めたのだった。
しかし美桜が出会ったのはワンコ系男子とは程遠い鬼畜キャラ、デュオンで……⁉︎
そして新たに美桜が生きて行く場所は、『愛人商売』によって多くの女性達が生き抜いていく国だった。
慣れない異世界生活、それに鬼畜キャラデュオンの愛人として溺愛(?)される日々。
人々から悪魔と呼ばれて恐れられるデュオンの愛人は、いくら命があっても足りない。
そのうちデュオンの秘密を知る事になって……⁉︎
淫らなお姫様とイケメン騎士達のエロスな夜伽物語
瀬能なつ
恋愛
17才になった皇女サーシャは、国のしきたりに従い、6人の騎士たちを従えて、遥か彼方の霊峰へと旅立ちます。
長い道中、姫を警護する騎士たちの体力を回復する方法は、ズバリ、キスとH!
途中、魔物に襲われたり、姫の寵愛を競い合う騎士たちの様々な恋の駆け引きもあったりと、お姫様の旅はなかなか困難なのです?!
ハズレ令嬢の私を腹黒貴公子が毎夜求めて離さない
扇 レンナ
恋愛
旧題:買われた娘は毎晩飛ぶほど愛されています!?
セレニアは由緒あるライアンズ侯爵家の次女。
姉アビゲイルは才色兼備と称され、周囲からの期待を一身に受けてきたものの、セレニアは実の両親からも放置気味。将来に期待されることなどなかった。
だが、そんな日々が変わったのは父親が投資詐欺に引っ掛かり多額の借金を作ってきたことがきっかけだった。
――このままでは、アビゲイルの将来が危うい。
そう思った父はセレニアに「成金男爵家に嫁いで来い」と命じた。曰く、相手の男爵家は爵位が上の貴族とのつながりを求めていると。コネをつなぐ代わりに借金を肩代わりしてもらうと。
その結果、セレニアは新進気鋭の男爵家メイウェザー家の若き当主ジュードと結婚することになる。
ジュードは一代で巨大な富を築き爵位を買った男性。セレニアは彼を仕事人間だとイメージしたものの、実際のジュードはほんわかとした真逆のタイプ。しかし、彼が求めているのは所詮コネ。
そう決めつけ、セレニアはジュードとかかわる際は一線を引こうとしていたのだが、彼はセレニアを強く求め毎日のように抱いてくる。
しかも、彼との行為はいつも一度では済まず、セレニアは毎晩のように意識が飛ぶほど愛されてしまって――……!?
おっとりとした絶倫実業家と見放されてきた令嬢の新婚ラブ!
◇hotランキング 3位ありがとうございます!
――
◇掲載先→アルファポリス(先行公開)、ムーンライトノベルズ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる