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一話

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 私リゼットは人間が住む大陸で唯一聖女が生まれる国と言われるカナンゲート聖王国の西の辺境にある田舎の村に生まれた。

 生まれた時から両親の顔を知らない。

 多分この白い髪と金の瞳のせいで生まれてすぐ捨てられたのだろう。

 人間には珍しいこの見目で私は物心ついた頃から村で『子供なのに老人のような真っ白い髪が不気味』『魔族のような金の瞳の忌み子』と言われて、怖れられ蔑まれて虐げられてきた。

 田舎の村に1つだけある孤児院にいたけど、魔族みたいという金の瞳が隠れるように前髪を伸ばして、なるべく顔が見えないようにずっと俯いて目立たないように生活していたけど、それでも大人子供男女関係なく『魔族みたい』『不気味』『忌み子』と言われ続け、満足に食事を与えてもらえなかったし、気に入らないことがあると殴られ蹴られて石を投げつけられもした。


 この世界には人間と魔族が暮らしている。

 魔族からは人間はヒト族と言われているらしい。

 この人間と魔族は大昔からお互いを憎しみ合い、幾度となく諍いを繰り返してきた。

 魔族は人間より魔力も多く身体的力も強い。
 一対一では人間は決して魔族には敵わない。

 魔力が多い魔法騎士が十人くらいでやっと一人の魔族に敵うくらいだと言われている。

 それだけ実力差がハッキリしているそうだ。

 でも魔族は人間の百分の一いや千分の一以上と言われるくらい少ないので、人間が数と知恵で魔族が襲ってきても何とか退けてきたそうだ。

 それに長年魔族は本気で人間を滅ぼそうとはしていなく、人間を憎んではいるけれど、気紛れに人間を甚振って楽しんでいるだけなのだと聞いた。


 しかし今から788年前に人間側に勇者と聖女が現れて、人間と魔族の力は拮抗するようになったらしい。

 魔族は勇者が持つスキル聖剣の光や聖女が使う神聖魔法が弱点らしい。

 人間が魔族に対抗する為に勇者や聖女が生まれるようになったと言われている。

 それからは魔族が人間を襲ってくることがなくなった訳ではないが、以前よりは襲撃されることがめっきりと減り、お互いが牽制し合うようになった。

 なので人間にとって昔よりは比較的平和な世になってそれは今も続いていると言えた。

 今は魔族が使役しているという魔獣が人間を襲うくらいで、魔族自体が大陸にやってくることはほぼなくなっている。

 魔獣は魔族のように人間のような姿でなく獣そのものの姿で、魔力も魔族程高くなく知力もなく本能のまま人間を襲ってくると言われるがそんなに強くはないので、強い魔法騎士なら一人で3体くらいは倒せるくらいだ。

 数は魔族より魔獣の方が圧倒的に多い。

 魔族はみな魔国に住んでいるが、魔獣は魔国だけでなく、人間の大陸の中で魔素が濃い森などにも生息している。

 だから魔獣がいる森は魔の森と言われている。

 魔獣は魔族が使役していると言われているが、魔族の指示がなくとも本能なのか人間を襲ってくる。

 そんなカナンゲート聖王国の片田舎の村に生まれて暮らしてきた私は8歳の時に、突然聖女の証と言われる神聖魔法に顕現して、すぐに有無を言わされずに王都の教会に連れて行かれ、聖女候補として修行させられながらあらゆる雑用を言いつけられ休む間なく働かされた。

 王都でも村にいた時と同じく『魔族のよう金の瞳の忌み子』『白い髪の不気味な子』と言われ、それに加えて『卑しい平民の孤児』と罵られ、私だけ他の聖女とは別のところで聖女になる為の修行をさせられながら働かされた。

『お前のような卑しい平民の魔族と同じ穢らわしい金の瞳の女は他の聖女様と一緒に修行なんてさせられない』と王都の教会の大司教に言われて私だけ聖女教育は他の聖女候補とは別で行われた。


 私は担当になった司祭に鞭で打たれ罵倒されながらの修行だった。

 時にいきなり意味なく殴られたり蹴られたりしたこともある。

 でも私がそんなことをされても誰も私を庇ったり、相手を諌める人はいなかった。


 私以外の他の聖女候補はみな貴族令嬢だったので、そんな扱いはきっと私だけだろう。

 でも私には家族も行くところもなく、そして聖女の証である神聖魔法に顕現したからと、どんな扱いをされても逃げ出したくても我慢して言われる通りにしてきた。

 そうするしか私の生きる道はないと思っていたから。

 それに神聖魔法に顕現したということは、神に聖女として人々の為に生きなさいと言われたからだと思って、ちゃんと務めを果たそうと思っていたから。







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