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第三章 アルプス・スキー(オーストリア)

第21話 オーバーグルグルスキー場6(新年)

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 海外で迎えた初めての正月。
 ところが、普段と全く変りがない。日本のように松飾りを立てる事も無く、年賀状の慣習もないようだ。昨夜カレンダーが変わった瞬間は "Gutes Neues Jahr (Happy New Year)" の連呼で賑やかだったが、今朝は普通に "Gute Morgen (Good Morning)" である。町を歩いてみても正月らしいムードはどこにもない。

 元日から悪天候が続いていたが、3日になって漸く天気が回復した。5年前に小樽の天狗山スキー場で横川さん(スキーのインストラクター養成者)に教わった《赤ん坊を抱くような姿勢》を意識して滑ってみると、苦手の左へのターンが楽に感じた。

 4日は昨夜からの降雪で深雪ができているはずだったが、にっくき雪上車が全て圧雪してしまった。料理で言えば、美味しいブリの刺身をブリ大根にするようなものだ。実に勿体ない事をする。
 昨日コツが掴めたかなと感じていた《赤ん坊を抱くような姿勢》をもってしても、重い雪で上手くターンできなかった。
 夕食時、テーブルメイトに今日のスキーについて尋ねてみたところ、ホッホグルグルに行ったそうで景観は悪かったが深雪ばかりで良かったそうだ。そっちに行けば良かったなあ。

 6日になってホテル客がずいぶんと少なくなった。悪戯っ子のいる家族も帰ったようで少し寂しい。
 膝、足首が十分曲がり、外傾姿勢(山腰)がキマってるときは左ターンが上手くいくが、日によってできたりできなかったり。

 7日、8日は恐ろしく寒かった。ゲレンデに出るのが苦痛なぐらい。8日は午後からは快晴になったので、イタリアアルプスの写真を撮ろうとホッホグルグルに行ってみたが、上のTバーリフトがクローズされており頂上には立てなかった。寒さ故のクローズであろう、残念。

 9日、オーバーグルグル最後のスキーである。盗難に遭った小銭入れの事が気になったが、連絡がないのは進展がない事を意味する。わざわざそんな話を聴きに行くよりはゲレンデで過ごす事にした。
 オーバーグルグルで初めて日本人に遇った。日本語を話すのは今年初めてだ。と言ってもまだ9日目か。彼は昨日到着して、明日もうドイツに出発するそうだ。当初1週間の予定だったが、モスクワで荷物をストップされた為ロンドンで5日間足止めを食ったとの事である。
 自分と同じようにオーバーグルグルにはチロル情緒を味わいに来て、やはりホテルには冷たい仕打ちを受けたとの事である。スキーシーズンが稼ぎ時なので、外国人客に対する親切心よりも少しでも儲ける事の方が大事なのであろう。

 今日は外傾姿勢が割合上手くキマり、左ターンも苦にならなかった。アルプスに来て一番良かったような気がする。

 結局、ポリスからは何の連絡も無かった。無責任なヤツだ。盗難に遭った金は諦めざるをえまい。
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