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world:11 ティラノ・アドベンチャー:フルバースト
第174話・二人のティラノ
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「みんな、少しだけ時間を稼いでくれ」
ティラノが切り札としているレックス・ディザスターは、放出した闘気を刀身に集めて放つ技だ。前方のみならず、周囲に向けて全身から無意識に放っていた闘気を一点集中させなければならない。それだけに時間がかかるし、力を貯めている間は隙だらけになってしまう。
つまり、使える状況はかなり限定されていて、ティラノを守る仲間がいないと実戦で使うことが出来ないスキルだ。一対一での戦いを信条とするティラノにあって、レックス・ディザスターは、奇しくもチーム戦に特化したスキルだった。
「時間稼ぎはかまわんが、その武器で大丈夫なのか? ワシには今までの木刀より数段劣る様に見えるのだが?」
ミノタウロスに言われるまでもなく、ティラノは身に染みてわかっているだろう。今ある木刀はアンジーの魔法武器が変形して出来たもの。このまま撃っても耐え切れずに壊れてしまうのは目に見えていた。
そもそもの話として、最恐スキルに耐えられるだけの強力な武器を手に入れるためにここまで来たのに、その武器が欲しければスキルを撃たなければならないと言うのは……あまりに矛盾している。
――それでもやるしかない。
正しくても間違っていても、進む方向が見えた時の脳筋タイプは強い。その典型とも言えるティラノの決断は早く、アンジーの魔法武器《マジックアイテム》に闘気を込め始めた。
身体全体から闘気が立ち上がり、渦を巻きながらティラノを中心につむじ風が発生した。足元の砂と骨粉を巻き上げ、徐々に大きく塵旋風となっていく。
時間にして僅か10秒、旋風の直径が5メートルほどになった頃だ。突如として風が止み、巻き上げられた砂がパラパラと力無く落ちて来た。その中央で佇むティラノを見て、メデューサは声をかけた。
「ティラノさん、どうしたざますか?」
「……だめだ」
彼女の手に握られている木刀には、遠目にもわかるくらいのヒビがいくつも走っていた。ほんの10秒程度でこれでは、とてもレックス・ディザスターを撃つなんて出来ないだろう。
現状打開の為の一手は見えている。しかしそれを実行するためのピースがどうしてもひとつ足りなかった。『ドラゲロの作った武器ならばもしかして……』と少なからず期待していたメデューサも、これには打つ手がなかった。
――そんな時、理解しがたい現象が目の前で起きる。
「ちょっと待て……」
ミノタウロス達が驚くのも無理はない。このタイミングで、またもや新たな英霊が姿を現したからだ。
「え……なんでござヤンスか、これは」
しかし彼らが驚いたのは英霊が出現したことではなく、その姿に対してだった。
「なぜティラノが二人おるのだ?」
ティラノのすぐ後ろに現れた、ティラノの姿をした英霊。それを見たメデューサは『またダスプレトサウルスの仕業か?』と、察していた。
「ダスプレトさん、この期に及んで混乱させる意味はあるのざますか?」
言葉じりに怒りを乗せながら、ダスプレトサウルスを睨みつけるメデューサ。彼の思惑がどこにあるのか読めず、困惑したまま責め始めた。しかし、当のダスプレトサウルスはまったく悪びれる様子がなく、平然としている。
――その態度は更に彼女の怒りを煽った。この場を収めようと努力しているのに何故邪魔をするのか。メデューサが怒りに任せて口汚い言葉を吐こうとしたその時、振り返ったティラノの口から驚きの一言が飛び出した。
「あ……母ちゃん」
「「「「………………かあちゃん!?」」」」
思わず声が重なる魔王軍の四人。
流石にこの展開にはウチも驚かされた。もしその場にいたら、きっとミノタウロス達と同じ反応をしてハモっていたと思う。
「ディラノ、お前いまなんて言っだ?」
ウェアウルフは自分の耳を疑ったのだろう、思わず聞き返していた。生き物である以上、当然親の存在があるのは当然だが、まさか今ここで親子の対面を見せられるとは思いもよらなかったのだから。
「えっ、母ちゃんって母親でヤンスか?」
「落ち着けリザード、母親だから母ちゃんなのだ。母ちゃんってのは、あれだ……え~と、なんだ?」
「……ミノも落ち着くざます」
余りの衝撃にメデューサの怒りはどこかにすっ飛んで行ってしまった様だ。
「……はぁ、情けないったらありゃしない」
母ティラノは、大きくわかりやすいため息を吐くと、ギロリと怖烈《きょうれつ》な視線で娘を射貫く。
「まったく……このバカ娘は、なにをチンタラやってんのさ」
「そう言うなって。木刀が折れちまったんだからよォ」
「それはお前の気合が足りないからだろ。情けないねぇ、最近の若いヤツらは」
外見だけならまさしく瓜二つ。髪色のバターブロンドまで同じ母ティラノは、少し古くさいデザインの特攻服を羽織っていた。娘ティラノが着ているものに似てはいるが、明らかに年季が違う。手には歴戦をくぐり抜けて来た傷だらけの木刀を持ち、その得物に込められた闘気はミノタウロスの持つ白銀の大戦斧と同等かそれ以上だった。
「母ちゃん、木刀貸してくれ」
「はぁ? 甘えんな。折れた木刀持ってんだろ」
そう言いながら母ティラノは、娘ティラノの背中に蹴りを入れた。バチンッと大きい音が響いたことから、かなり本気の蹴りだったことがわかる。
「自分のことは自分でなんとかしやがれ。そんな根性のないヤツはアタシの娘じゃないよ!」
娘のピンチに現れた母ティラノ。手助けをするのかと思いきや、単にイラついて発破をかけに来ただけらしい。
「特別に教えてやる。てめぇの得物をさっさと構えな!」
「でも、折れてんだぜ?」
「いいからやれ、バカ娘!」
木刀の柄で娘の脇腹を力いっぱい小突く母ティラノ。
「ちょ、母ちゃん痛いって!」
ライオンは子供を千尋の谷に落とすと言うが、どうやらそれは、元々母ティラノの教育方針であったのかもしれない。
――――――――――――――――――――――――――――
(注)塵旋風
一般的には「つむじ風」の大きいもので、地表付近の大気が渦巻状に立ち上がる突風の事。 ※竜巻は積乱雲による上昇気流で発生する突風なので、そもそもの構造が違う。
ティラノが切り札としているレックス・ディザスターは、放出した闘気を刀身に集めて放つ技だ。前方のみならず、周囲に向けて全身から無意識に放っていた闘気を一点集中させなければならない。それだけに時間がかかるし、力を貯めている間は隙だらけになってしまう。
つまり、使える状況はかなり限定されていて、ティラノを守る仲間がいないと実戦で使うことが出来ないスキルだ。一対一での戦いを信条とするティラノにあって、レックス・ディザスターは、奇しくもチーム戦に特化したスキルだった。
「時間稼ぎはかまわんが、その武器で大丈夫なのか? ワシには今までの木刀より数段劣る様に見えるのだが?」
ミノタウロスに言われるまでもなく、ティラノは身に染みてわかっているだろう。今ある木刀はアンジーの魔法武器が変形して出来たもの。このまま撃っても耐え切れずに壊れてしまうのは目に見えていた。
そもそもの話として、最恐スキルに耐えられるだけの強力な武器を手に入れるためにここまで来たのに、その武器が欲しければスキルを撃たなければならないと言うのは……あまりに矛盾している。
――それでもやるしかない。
正しくても間違っていても、進む方向が見えた時の脳筋タイプは強い。その典型とも言えるティラノの決断は早く、アンジーの魔法武器《マジックアイテム》に闘気を込め始めた。
身体全体から闘気が立ち上がり、渦を巻きながらティラノを中心につむじ風が発生した。足元の砂と骨粉を巻き上げ、徐々に大きく塵旋風となっていく。
時間にして僅か10秒、旋風の直径が5メートルほどになった頃だ。突如として風が止み、巻き上げられた砂がパラパラと力無く落ちて来た。その中央で佇むティラノを見て、メデューサは声をかけた。
「ティラノさん、どうしたざますか?」
「……だめだ」
彼女の手に握られている木刀には、遠目にもわかるくらいのヒビがいくつも走っていた。ほんの10秒程度でこれでは、とてもレックス・ディザスターを撃つなんて出来ないだろう。
現状打開の為の一手は見えている。しかしそれを実行するためのピースがどうしてもひとつ足りなかった。『ドラゲロの作った武器ならばもしかして……』と少なからず期待していたメデューサも、これには打つ手がなかった。
――そんな時、理解しがたい現象が目の前で起きる。
「ちょっと待て……」
ミノタウロス達が驚くのも無理はない。このタイミングで、またもや新たな英霊が姿を現したからだ。
「え……なんでござヤンスか、これは」
しかし彼らが驚いたのは英霊が出現したことではなく、その姿に対してだった。
「なぜティラノが二人おるのだ?」
ティラノのすぐ後ろに現れた、ティラノの姿をした英霊。それを見たメデューサは『またダスプレトサウルスの仕業か?』と、察していた。
「ダスプレトさん、この期に及んで混乱させる意味はあるのざますか?」
言葉じりに怒りを乗せながら、ダスプレトサウルスを睨みつけるメデューサ。彼の思惑がどこにあるのか読めず、困惑したまま責め始めた。しかし、当のダスプレトサウルスはまったく悪びれる様子がなく、平然としている。
――その態度は更に彼女の怒りを煽った。この場を収めようと努力しているのに何故邪魔をするのか。メデューサが怒りに任せて口汚い言葉を吐こうとしたその時、振り返ったティラノの口から驚きの一言が飛び出した。
「あ……母ちゃん」
「「「「………………かあちゃん!?」」」」
思わず声が重なる魔王軍の四人。
流石にこの展開にはウチも驚かされた。もしその場にいたら、きっとミノタウロス達と同じ反応をしてハモっていたと思う。
「ディラノ、お前いまなんて言っだ?」
ウェアウルフは自分の耳を疑ったのだろう、思わず聞き返していた。生き物である以上、当然親の存在があるのは当然だが、まさか今ここで親子の対面を見せられるとは思いもよらなかったのだから。
「えっ、母ちゃんって母親でヤンスか?」
「落ち着けリザード、母親だから母ちゃんなのだ。母ちゃんってのは、あれだ……え~と、なんだ?」
「……ミノも落ち着くざます」
余りの衝撃にメデューサの怒りはどこかにすっ飛んで行ってしまった様だ。
「……はぁ、情けないったらありゃしない」
母ティラノは、大きくわかりやすいため息を吐くと、ギロリと怖烈《きょうれつ》な視線で娘を射貫く。
「まったく……このバカ娘は、なにをチンタラやってんのさ」
「そう言うなって。木刀が折れちまったんだからよォ」
「それはお前の気合が足りないからだろ。情けないねぇ、最近の若いヤツらは」
外見だけならまさしく瓜二つ。髪色のバターブロンドまで同じ母ティラノは、少し古くさいデザインの特攻服を羽織っていた。娘ティラノが着ているものに似てはいるが、明らかに年季が違う。手には歴戦をくぐり抜けて来た傷だらけの木刀を持ち、その得物に込められた闘気はミノタウロスの持つ白銀の大戦斧と同等かそれ以上だった。
「母ちゃん、木刀貸してくれ」
「はぁ? 甘えんな。折れた木刀持ってんだろ」
そう言いながら母ティラノは、娘ティラノの背中に蹴りを入れた。バチンッと大きい音が響いたことから、かなり本気の蹴りだったことがわかる。
「自分のことは自分でなんとかしやがれ。そんな根性のないヤツはアタシの娘じゃないよ!」
娘のピンチに現れた母ティラノ。手助けをするのかと思いきや、単にイラついて発破をかけに来ただけらしい。
「特別に教えてやる。てめぇの得物をさっさと構えな!」
「でも、折れてんだぜ?」
「いいからやれ、バカ娘!」
木刀の柄で娘の脇腹を力いっぱい小突く母ティラノ。
「ちょ、母ちゃん痛いって!」
ライオンは子供を千尋の谷に落とすと言うが、どうやらそれは、元々母ティラノの教育方針であったのかもしれない。
――――――――――――――――――――――――――――
(注)塵旋風
一般的には「つむじ風」の大きいもので、地表付近の大気が渦巻状に立ち上がる突風の事。 ※竜巻は積乱雲による上昇気流で発生する突風なので、そもそもの構造が違う。
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