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world:11 ティラノ・アドベンチャー:フルバースト

第167話・凶悪最悪残忍魔人

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「マジか。ジュラっち、なにやってくれんだよ」

 目の前でとんでもない闘気オーラを発するアクロを見ながら、ティラノはボヤいていた。
 連続で飛んでくる漆黒の弾丸。その小石ひと粒ひと粒が纏う闘気オーラは、今やレックスブレードに匹敵している。

「ヤベ、まにあわねぇ」

 飛んでくる漆黒の兇弾を、レックス・ブラストで叩き落としていくティラノ。しかしあまりの手数の差に、ひたすら後手に回らざるを得なかった。それもそのはず、アクロが投げているのは足元に落ちている小石でまさしく無尽蔵。手にした瞬間膨大な闘気オーラの塊と化し、ジュラたまブーストされたパワーでぶん投げてくる。……今のアクロを前にして、普通に戦える者なんてそうはいないだろう。

〔避けろ、大孫娘!〕

 突然響いた声に、思わず飛びのくティラノ。その時撃ち落とそうとしていた漆黒の弾丸は、遺骨の山に突っ込みとんでもない大穴を開けた。辺りに轟音を響かせた後、穴をふさぐかのように崩れ落ちる巨骨。
 どうやら小石に混じって骨の欠片が飛んできている様だ。英霊達の力が籠っている骨に更にアクロの闘気オーラが乗算されているのだから、その質量・威力はとんでもない代物と化していた。いくらティラノと言えども、うかつに受けようとしたらただでは済まない。

〔よく見ておくのじゃ。そんなことではやられるぞ〕
「ったく、誰のせいだよ……」

 それはティラノさん、あなたの隣にいる爺さんですよ。と、みなが思ったことだろう。

「これは相当マズイな」

 ミノタウロスは、魔王軍の中でも“闘気オーラを感知することに関して”は頭一つ飛び抜けている。その能力があればこそ、地球のエネルギーがあふれる大地、この聖域に引き寄せられたのだから。そんな彼がティラノとアクロの闘気オーラを比較し『相当マズイ』と判断していた。

「だけどオイラには、元々の力量に差は見えなかったでヤンス」

 リザードマンの言う通りだ。ティラノサウルスもアクロカントサウルスも他を寄せ付けない程の強さを持つ恐竜。まともに戦えば相討ち必至と言えるだろう。

 しかし、今のパワーバランスは圧倒的にアクロの方が強い。ジュラたまブーストをするまでは拮抗していたのに、だ。

「もしかして……思い違いをしていたのかもしれないざます」
「と、いうと?」

 メデューサは口に手をあてて、自分の考察を整理する様に、そして自分自身でも確認するかの様に、ゆっくりと話し始めた。

「ジュラたまブーストというのは、亜紀さんの力がティラノさんに流れ込んで、能力の底上げがされるという能力ざます」
「うむ、それは周知のハズだが?」
「ですが問題はここからで、ブーストされる能力は一律ではなく、マスターの能力に起因しているとしたらどうでしょう?」

 質問の意味が分からなかったのか、首をかしげるミノタウロスとリザードマン。二人の挙動を見て、メデューサはひとつ察するものがあった。

「ティラノさんとアクロさんは別々のマスターです」 
「なん……だと? ではあの紫の猫人(初代新生)か?」
「いえ、彼女のマスターは亜紀さんでも新生さんでもなく、あのドラゲロ・アンジョウざますわ」

 その名前を聞いた瞬間、動きが止まるミノタウロスとリザードマン。

「何故あの凶悪最悪残忍魔人のドラゲロ・アンジョウが……」
「もしや、先ほどアクロが口していたマスターアンジュというのが、ドラゲロ・アンジョウのことなのか?」

 ウチが初代はつしろ新生ねおにティラノを取られた時、ミノタウロスとリザードマンには助けてもらった。しかしそれ以来二人には会っておらず、当然、その間起こったことは知るハズがない。ティラノが話した内容もドライアドやバルログと戦った時のことで、そのどちらもアンジーは参戦していない。つまり、当然話には出てこない。
 多分ミノタウロスは、アンジーの闘気オーラを察していはずだ。だが彼女がウチと同じ様に猫耳転生し、恐竜人ライズ達のマスターになっているとまでは思わなかったのだろう。

「話を戻しましょう。例えば亜紀さんよりドラゲロ(アンジュラ)さんの方が百倍くらい強いとして、彼女がジュラたまブーストすると、単純にその効果は亜紀さんの百倍になるとしたら?」

 このメデューサの考察は大正解だった。もちろんこの時点ではウチもアンジーも全く気が付いていない要素で、更に言えば女神さん達も知らなかったらしい。ひとつの時代に複数の転生/転移者を送り込むこと自体がイレギュラーだったのだから。

「ぞれば……どんでもなくマズイごとになっでいるのでは?」
「だからワシがそう言うておろう」

 やっと事態の重さに気が付くウェアウルフに、つっこみを禁じ得ないミノタウロスであった。

 そして英霊達のスタンピードは最高潮を迎える。深刻な顔をしているティラノ達とは対照的に、まさしくお祭り騒ぎだ。考えてみれば、何千年もここにいて娯楽なんて皆無だったのだから、突然現れた最恐の娯楽興行に一喜一憂するのは仕方がないのかもしれない。
 
「爺さん達、霊廟を破壊する気なのか?」

 頬をツーっと流れる汗を感じながらミノタウロスが呟いた。

〔まあ、良いではないか。なる様にしかならぬのだからな〕

 ニカッと笑いながら割り切ったことを口にするカルノタウルス。腕を組んで仁王立ちしながら、やはり楽しくて仕方がないと言った様子だ。

 ……しかし今この世界で生きている者としては、『なる様になる』では済まされない事態。

「流石にこれは皆でかからぬと治まらぬだろう」
「そうですわね。ティラノさん、納得できないでしょうがここは全員でかかるざます」
「ああ、そのくらいはわかるぜ。殺さずに抑え込むには、俺様ひとりじゃ無理だってことくらいはよ」

 レックス・ディザスターを撃てるくらいの得物があればなんとかなったかもしれないが、今のティラノには荷が重い話だった。今迄の彼女なら『それでも俺様ひとりでやってやる!』と言っていた場面だが、ここに来て“周りを見る・状況を把握する”ということが、しっかりと身に染みてわかったらしい。

「心してかからぬと大怪我では済まなくなる。皆認識しろ、そこにいるのは!」
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