ジュラシック・テイル 【異世界だと喜んでいたのに実は地球で白亜紀だった!?恐竜を美少女化するスキルで魔王を倒せと駄女神さんに言われたけど…】

world:11 ティラノ・アドベンチャー：フルバースト

第162話・雲散霧消

　ミノタウロスが『簡単な条件』と言ったのは嘘でも強がりでもなく、計算に裏付けられたひと言だったのだろう。多分、この部屋に来る前にメデューサに言われた『正面からの戦い方だけでは負ける』と言う言葉を、彼なりに咀嚼そしゃくして自分の能力に組み込んだ結果だと思う。……いや、彼の場合は牛だから反芻はんすうか？


　――しかし今、ティラノ達の目の前にはミノタウロスの姿がなかった。カルノタウルスが全力で放った鋭いミドルキックを受け、巨大な遺骨の中に蹴り飛ばされてしまったからだった。

♢

　ミノタウロスは先程までの力押しではなく、武器を持つという“リーチで勝るアドバンテージ”を活かす戦法に切り替えていた。大刃の付け根を持ち、柄の方を槍や棍の様にして使う。超重量の先端よりも圧倒的に軽い柄を使う事で、攻撃スピードを上げようと言う作戦だった。

〔ふむ、なんとも鋭い攻撃。流石は我輩とタメを張る（注）だけのことはある。だが惜しい、手数が増えてもその程度の威力では意味がなかろう〕

　棒術の如く円を描き、鋭い突きを放つミノタウロス。しかし避けるまでもないと判断したカルノタウルスは、攻撃を受けながらも全身の力を集中し、体重を乗せた蹴りを放った。
　咄嗟に大戦斧でガードするミノタウロス。しかし、凝縮された英霊達のパワーで放たれた蹴りの重さは尋常ではなく、耐え切れずに巨骨の山に蹴り飛ばされてしまった。ガラガラと崩れ落ちる巨骨の塊。ミノタウロスが叩きこまれて出来た穴を中心に、大量の白い骨灰埃が舞い上がる。

「カルっち（カルノタウルス）すげぇな……」

　カルノタウルスの力量に感心するティラノ。ミノタウロスの巨漢を蹴りの一発で吹き飛ばすそのパワーには、流石に恐れ入った様だ。

「流石はご先祖様だぜ！」

　味方が吹き飛ばされているのに嬉しそうだ。彼女にしてみれば、複雑な心境と言うことはなくシンプルに“楽しい”と言うだけなのだろう。
　ミノタウロスは決して鈍重と言う訳ではない。元々備えている類まれな体躯と有り余るパワー、そして今は解放ドラゴニック・バースにより本来の100％の力を出し切って戦っている。それでも、何万年も蓄積された先祖達の力を借りているカルノタウルスには、パワーもスピードもまったく及ばなかった。
　だがしかし、ミノタウロスはそこに勝機を見出す。視界ゼロの中、崩れた骨の山から力任せに這い出した彼は、大戦斧を頭上で大きく振るうとハエ叩きの様に地面に叩きつけた。ミノタウロスを中心に衝撃波が発生し、突風となって白い埃を拡散させる。まさしく雲散霧消うんさんむしょうというやつだ。そして吹き飛ばされた白い埃はカルノタウルスを包み込み、視界を奪った。

「え～、また見えねぇのかよ～」
「これは観ている方もストレスが溜まるざます……」

　闘気を探り、ミノタウロスと大戦斧の間に立つカルノタウルス。

〔さて、どう出るつもりだ？　ジェントルメン〕　

　その時、カルノタウルスの肩になにか小さい物が当たった。そのまま地面に落ち、カランッと乾いた音を立てる。

〔これは……骨か？〕

　骨は続けて二つ三つと飛んできた。その全てが体のどこかに当たり、地面に散らばっていく。ミノタウロスはその音を確認し、口を開いた。

「お互いの位置は闘気でわかっても、このなにも見えない状況で飛んでくる物を避けるのは難しい様だな」
〔それを確かめる為に骨を投げていたということか？　だとしたら滑稽だな〕
「なんだと？」
〔確かに視認できなければ避け様がない。だが、お主の動きを感じることで、どの方向に投げたのかの判断が付く。そして本当の狙いは、骨に紛れて斧を投げてくることであろうな〕
「ならば避けてみろ、これが最後の一手だ！」
〔ふん、容易いぞ、ジェントルメン〕

　視界ゼロの中から聞こえて来た骨が地面に落ちる微かな音。
　直後に高まる二つの闘気オーラ。
　続けて響く、ダイナマイトが爆発した様な破裂音。
　最後に、なにかが壊れる音と残響。
　
　そして、白い埃が晴れた時……そこには白銀の斧を持ち、カルノタウルスの喉元に刃を突きつけているミノタウロスの姿があった。

「いや、マジでなにがどうなったんだよ」

　落としか聞こえない状況に退屈しまくっていたのだろう。地面に寝ころびながら頬杖をついているティラノであった。






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（注）タメを張る
　実力や勢力において並ぶ、対等になる、などの意味。不良・ヤクザ用語と分類している辞書/サイトもある。