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world:11 ティラノ・アドベンチャー:フルバースト
第157話・牛なのか?
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まさしく“圧倒的”と言う表現が似つかわしい。何百何千と言う巨大な骨に囲まれた大空間。霊廟だからなのか、ひんやりした空気が漂っている。にもかかわらず、巨骨から感じるエネルギーは、熱く燃えるような感じを受けた。
これはもう、考古学者や恐竜マニアからしたら、この上ない幸せを感じる垂涎の空間だな。……もっとも、そんな人間は一億五千万年程待たないと出てこないけど。
ティラノ達はそんな大空洞の入り口にいた。とは言ってもどこまでが通路でどこからが霊廟なのか、区切りが全く分からない。それほど大きく奥深い空間。ダスプレトが一行を止めて声をかけて来たからこそ、入口だと認識出来ただけだった。
そのダスプレトサウルスの英霊である“しょぼくれた爺さん”は10メートル程先に立ち、こちらを……特にティラノの動きを注視していた。
「よっしゃ、どこからでもいいぜ! かかってきな、大爺っち」
拳を握りしめて腰を落し、ファイティングポーズを取るティラノ。素手での戦闘はルカの専売特許だが、それでも古くからの付き合い故か、その戦闘スタイルはイメージとしてハッキリと脳裏に浮かんでいる様だ。
しかし……
〔おいこら大孫娘。どっちを向いておるのじゃ〕
「もう騙されねぜ、敵は前じゃない、後ろだ!」
ダスプレトに背を向けて構えるティラノ。『ああ、やっぱり……』という周りの微妙な空気をものともせずに、気合のノリだけは十分だ!
「……ティラノはん、『正面から来ない』ってそういう意味じゃないでやんすよ」
「え……マジ?」
黙って頷くリザードマン。
「……ならばこっちか!」
「横でもないでやんす!」
本人は至って大真面目だ。それでも、その場でクルクル回る様はどこかコミカルで、アクロは楽しそうに呟いた。
「なんな~、ティラノ姉さん可愛いかと~」
「お、おう……そうか」
照れながら正面に向き直すティラノ。ダスプレトはため息をひとつつくと気を取り直し、全員を見渡しながら口を開いた。
〔これが最後じゃ。わしと戦って見事勝って見せよ〕
「ああ、そのつもりだぜ!」
〔まあ、そうは言うても大孫娘ひとりでは力不足じゃろう。六人全員でかかって来ても良いぞ〕
恐竜人の力を知らないとは言え、あまりに馬鹿にした言葉だ。魔王軍の面々にしても戦いに明け暮れて来た猛者ばかり。そんな戦闘民族のプライドを軽く見られたことに、魔王軍の面々は憤りを感じていたのだろう。
しかしそんな中、ミノタウロスだけは反応が大人しかった。むしろ戸惑っている様に見える。
「なにか……違う」
「どうしたんだよミノっち」
「うむ、よくわからぬが、ワシの求める者はこやつではない」
「亜紀っちの言う『コレじゃない感』ってやつか?」
ダスプレトサウルスの英霊から発せられている、今までにない程強力なオーラ。しかし、どうにもミノタウロスは歯切れが悪く、自身をここまで導いたエネルギーが彼のものではないと感じていた様だ。それはミノタウロス自身も、なんの確証もない感覚的なものでしかなかった。
「ミノはん、それでもなにか感じてはいるでやんすよね?」
「うむ、力は感じる。だが……」
〔——なるほど、それは我輩のことではないかね?〕
ダスプレトの後ろの方から男の声がした。目を凝らして見ると、いつの間にか一人の男が立っている。ミノタウロスに勝るとも劣らない体躯、そして頭には二本の角。
〔む? なにをしに出てきおった〕
〔そう言うな、ダスプレの。この者は我輩の客人じゃよ、多分な〕
男は丸太の様な上腕二頭筋を見せつける様に腕を組み、ミノタウロスに鋭い視線を向けながら問いかける。
〔そうよのう? そこの角付きジェントルメン〕
男から放たれた闘気を受け止めるかの様に、片手で大戦斧を振り回しながら構えるミノタウロス。
「うむ。確かにワシが力を感じるのはこの者だ!」
〔力を欲すのならば、我輩と戦い力を見せよ。さすれば神力を貸し与えよう〕
ビリビリと空気を震わせる闘気を感じながら、ミノタウロスは武人としての名乗りを上げた。
「我が名はミノタウロス。強き勇者を狩る者だ。お主、名は?」
〔ほう、不遜にも我が名を聞くか。くくく……よかろう、その胆力気に入った〕
男がニヤリと笑うと歯がキラリと光った。
〔我はカルノタウルス。ここに来てまだ数百年程度の若輩者なれど、努々甘く見るでないぞ〕
「カルノタウルス? ……アイツも牛なのか?」
――――――――――――――――――――――――――――
(注)恐竜ですよ、ティラノさん。
これはもう、考古学者や恐竜マニアからしたら、この上ない幸せを感じる垂涎の空間だな。……もっとも、そんな人間は一億五千万年程待たないと出てこないけど。
ティラノ達はそんな大空洞の入り口にいた。とは言ってもどこまでが通路でどこからが霊廟なのか、区切りが全く分からない。それほど大きく奥深い空間。ダスプレトが一行を止めて声をかけて来たからこそ、入口だと認識出来ただけだった。
そのダスプレトサウルスの英霊である“しょぼくれた爺さん”は10メートル程先に立ち、こちらを……特にティラノの動きを注視していた。
「よっしゃ、どこからでもいいぜ! かかってきな、大爺っち」
拳を握りしめて腰を落し、ファイティングポーズを取るティラノ。素手での戦闘はルカの専売特許だが、それでも古くからの付き合い故か、その戦闘スタイルはイメージとしてハッキリと脳裏に浮かんでいる様だ。
しかし……
〔おいこら大孫娘。どっちを向いておるのじゃ〕
「もう騙されねぜ、敵は前じゃない、後ろだ!」
ダスプレトに背を向けて構えるティラノ。『ああ、やっぱり……』という周りの微妙な空気をものともせずに、気合のノリだけは十分だ!
「……ティラノはん、『正面から来ない』ってそういう意味じゃないでやんすよ」
「え……マジ?」
黙って頷くリザードマン。
「……ならばこっちか!」
「横でもないでやんす!」
本人は至って大真面目だ。それでも、その場でクルクル回る様はどこかコミカルで、アクロは楽しそうに呟いた。
「なんな~、ティラノ姉さん可愛いかと~」
「お、おう……そうか」
照れながら正面に向き直すティラノ。ダスプレトはため息をひとつつくと気を取り直し、全員を見渡しながら口を開いた。
〔これが最後じゃ。わしと戦って見事勝って見せよ〕
「ああ、そのつもりだぜ!」
〔まあ、そうは言うても大孫娘ひとりでは力不足じゃろう。六人全員でかかって来ても良いぞ〕
恐竜人の力を知らないとは言え、あまりに馬鹿にした言葉だ。魔王軍の面々にしても戦いに明け暮れて来た猛者ばかり。そんな戦闘民族のプライドを軽く見られたことに、魔王軍の面々は憤りを感じていたのだろう。
しかしそんな中、ミノタウロスだけは反応が大人しかった。むしろ戸惑っている様に見える。
「なにか……違う」
「どうしたんだよミノっち」
「うむ、よくわからぬが、ワシの求める者はこやつではない」
「亜紀っちの言う『コレじゃない感』ってやつか?」
ダスプレトサウルスの英霊から発せられている、今までにない程強力なオーラ。しかし、どうにもミノタウロスは歯切れが悪く、自身をここまで導いたエネルギーが彼のものではないと感じていた様だ。それはミノタウロス自身も、なんの確証もない感覚的なものでしかなかった。
「ミノはん、それでもなにか感じてはいるでやんすよね?」
「うむ、力は感じる。だが……」
〔——なるほど、それは我輩のことではないかね?〕
ダスプレトの後ろの方から男の声がした。目を凝らして見ると、いつの間にか一人の男が立っている。ミノタウロスに勝るとも劣らない体躯、そして頭には二本の角。
〔む? なにをしに出てきおった〕
〔そう言うな、ダスプレの。この者は我輩の客人じゃよ、多分な〕
男は丸太の様な上腕二頭筋を見せつける様に腕を組み、ミノタウロスに鋭い視線を向けながら問いかける。
〔そうよのう? そこの角付きジェントルメン〕
男から放たれた闘気を受け止めるかの様に、片手で大戦斧を振り回しながら構えるミノタウロス。
「うむ。確かにワシが力を感じるのはこの者だ!」
〔力を欲すのならば、我輩と戦い力を見せよ。さすれば神力を貸し与えよう〕
ビリビリと空気を震わせる闘気を感じながら、ミノタウロスは武人としての名乗りを上げた。
「我が名はミノタウロス。強き勇者を狩る者だ。お主、名は?」
〔ほう、不遜にも我が名を聞くか。くくく……よかろう、その胆力気に入った〕
男がニヤリと笑うと歯がキラリと光った。
〔我はカルノタウルス。ここに来てまだ数百年程度の若輩者なれど、努々甘く見るでないぞ〕
「カルノタウルス? ……アイツも牛なのか?」
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(注)恐竜ですよ、ティラノさん。
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