上 下
159 / 196
world:10 ティラノ・アドベンチャー:トライアル

第141話・桃源郷

しおりを挟む
※地の文の視点について。特に明記はしませんが、八白亜紀が“後で聞いた話”と言う流れの構成になっています。(バルログ戦と似たような感じと思って下さい)
――――――――――――――――――――――――――――


 ウチ達の拠点“しっぽの家”を出発してから二週間ほど経った頃、ティラノ達一行は火山の麓にたどり着いていた。彼女のご先祖様・ダスプレトサウルスが眠る、恐竜達の墓場があると言われる場所。地球のエネルギーと歴代の恐竜達の魂が集まる聖域だ。

 折れた木刀の代わりを見つけるために、ティラノとアクロ、そしてメデューサ、ウェアウルフというなんとも奇妙な四人で旅を続けていた。


 ――これは、魔王軍との騒動が治まった後に伝え聞いた、ティラノ達の冒険譚。


【world:10 ティラノ・アドベンチャー】


「暑っちいな……」

 赤くグツグツとたぎる溶岩が川の様に流れ、足元からはたまに間欠泉が噴き出ている。おおよそ道などと呼べるものはなく、ゴツゴツとした岩場が延々と続く。枯れ木すらもないその場所は、動植物の区別なく皆無だった。
 これには流石のティラノも特攻服を脱ぎ、ボンタンの裾を上げて涼をとるのに必死だった。見た目は、奇しくもルカのバミューダに近いものがある。メデューサとウェアウルフに至っては暑苦しいローブはとっくにどこかに捨て『ちょいとコンビニにアイス買いに行ってくるわ~』といった軽装になっていた。

 そして今回、アンジーの推薦もあってティラノの旅に同行しているアクロカントサウルスの恐竜人ライズであるアクロ。
 胸元が大きく開いた、ドレスにも見える真っ白いローブ。羽織っているケープレットは風にそよぎ、一種の清涼感を振りまいていた。そしてその白いキャンバスの上で踊るのは、腰まで伸びた赤い髪。一本に束ねられた“それ”は、歩くたびに左右に揺れる。腰には様々な色の宝石がぼんやりと光を発し、いかにも魔力を帯びているのがわかる。

 これだけならファンタジーでよく見る魔術師なのだが、流石は新生からアンジーへとマスターが変わった恐竜人ライズだ。この娘が独特の……風変わりな……いや、厄介な性格の持ち主だった事をティラノ達はすぐに知ることになる。


「なあ、メデューサよ……」
「なんざます?」
「涼しぐなる魔法ってねえが?」

 流石に四人ともかなりゲンナリしていた。遠目にも滝の様な汗が確認できるくらいだ。ウェアウルフに至っては、舌を出して『ハッハッハッ』と体温調節に忙しい。

「犬っち見ているだけで暑そうだぜ。毛皮着てるもんな」
「犬言うな。毛皮言うな。聞くだげであづいわ」
「……脱げば?」
「脱げるか!」

 この暑さに加え、ティラノとウェアウルフの掛け合いにメデューサも辟易していたと見える。『魔力は温存しておきたい』と言いながらも、パーティの周りにだけ風を吹かせ始めた。
 溶岩が視界に入り、熱気を感じたあたりから保険的に魔障壁マジック・バリアを張っていたメデューサ。簡易的なものとはいえ二種類の魔法を同時に行使するのはなかなか出来ることではないらしい。

「間欠泉には気を付けてください。魔障壁マジック・バリアでは熱湯を防御することは出来ないざます」
「だけどよ、どうやって避ければいいんだ?」
「……勘?」
「亜紀っちみたいだな……」
「一緒にされるのははなはだ不本意ざます」

「「……」」

 少し会話をすると黙り、暑さに悶えながら歩く。気を紛らわす為に誰ともなく会話始めるが、やはりすぐに黙る。道中を黙々と進み4~5時間も経った頃だろうか、ティラノは突然足を止めた。なにが起こったのかわからずに、辺りを警戒するウェアウルフ。

「ティラノ、どうじだ?」

「……なにか、聞こえねぇか?」

「メデューサ、聞こえるが?」
「……いいえ、なにも」

 ティラノは棒立ちのまま耳を澄ませた。本当になにか聞こえているのか、それとも暑さにやられて幻聴でも聞こえているのか。メデューサ達には判断ができず、ティラノの反応を待つしかなかった。

「声……なんか、優しい声だ」

 ティラノは操られる様に歩き出した。目を合わせ、首を傾げるメデューサとウェアウルフ。こうなると、完全についていくしか出来なかった。崖を登り、道なき道を進む。先ほどまで歩いていた灼熱の岩場が眼下に見えて来た頃だ。

「すげぇ……」

 突然目の前に広がる風景に、そこにいた全員が目を奪われてしまう。

「不思議な場所ざますわね」

 ほぼ垂直に切り立った山肌が続く中で、その場所は真っ平らな平地が広がっていた。先程までの溶岩道とは対照的に、色鮮やかな花が咲き乱れ、光がキラキラと降り注ぐ。心地よく澄んだ空気の中、奥には滝が見える。足元を流れている細いせせらぎの水源なのだろう。

 ――ここは、太陽に照らされて虹が煌めき、花びらが穏やかな風と踊る別世界だ。


「山頂の方ば霧で見えねぇな」
「しかし、火山なのにこんなことってあり得るのざますか?」

 メデューサの疑問はもっともだ。常に噴煙を吐き溶岩が流れる火山帯で、これほどまでに風光明媚な場所が存在すること自体がおかしい。

「ご先祖様の力だ……」

 ティラノは、ポツリとひと言だけ漏らすと滝の方へ歩き出した。ウェアウルフは大剣を抜き後に続く。余りに無防備なティラノの代わりに、辺りへの警戒を強めたのだろう。

「おい、ティラノ。もうぢょっど警戒じろよ」
「なにかあっては亜紀さんに申し訳が……。いえ、あちきのラミアの安否に関わることざます。もっとしっかりと周りを見てください」 
「あ、ああ、すまない……」

 滝に近づくにつれ、水が叩きつけられる爆音とともに湿気を帯びた空気が漂ってくる。肌寒さを感じ、ローブを捨ててきたことを後悔するメデューサとウェアウルフ。その滝の上の方は霧で覆われ、一体どのくらいの高さから落ちてきているのかすらわからない。

「この先から聞こえるんだよな」

 と言ってティラノが指さした先には滝つぼがあった。

「滝の中に入れっで言うのが?」
「多分。俺様の剣もそこにある……気がする。……様なしない様な」

 ティラノにもハッキリとしたことはわからないらしい。なにかエネルギーみたいなものを感じているというだけなのだから。

「——待って!」

 先に進もうとするティラノとウェアウルフを止めるメデューサ。

あねっち、どうしたんだ?」
「……あそこに、誰かいるざます」

 滝つぼを挟んで反対側、背の高い木々が邪魔になって見えにくかったが、そこには確かに予期せぬ者達がいた。これにはメデューサも驚き、咄嗟に構える。

 それは、ガイアが広域サーチで認知した、魔王軍の黒点二つだった。


「……何故あなた達が、このような場所にいるのざますか」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

婚約者に犯されて身籠り、妹に陥れられて婚約破棄後に国外追放されました。“神人”であるお腹の子が復讐しますが、いいですね?

サイコちゃん
ファンタジー
公爵令嬢アリアは不義の子を身籠った事を切欠に、ヴント国を追放される。しかも、それが冤罪だったと判明した後も、加害者である第一王子イェールと妹ウィリアは不誠実な謝罪を繰り返し、果てはアリアを罵倒する。その行為が、ヴント国を破滅に導くとも知らずに―― ※昨年、別アカウントにて削除した『お腹の子「後になってから謝っても遅いよ?」』を手直しして再投稿したものです。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

異世界召喚?やっと社畜から抜け出せる!

アルテミス
ファンタジー
第13回ファンタジー大賞に応募しました。応援してもらえると嬉しいです。 ->最終選考まで残ったようですが、奨励賞止まりだったようです。応援ありがとうございました! ーーーー ヤンキーが勇者として召喚された。 社畜歴十五年のベテラン社畜の俺は、世界に巻き込まれてしまう。 巻き込まれたので女神様の加護はないし、チートもらった訳でもない。幸い召喚の担当をした公爵様が俺の生活の面倒を見てくれるらしいけどね。 そんな俺が異世界で女神様と崇められている”下級神”より上位の"創造神"から加護を与えられる話。 ほのぼのライフを目指してます。 設定も決めずに書き始めたのでブレブレです。気楽〜に読んでください。 6/20-22HOT1位、ファンタジー1位頂きました。有難うございます。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...