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world:08 あの娘どこの娘チートの娘
第125話・漫画の中
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「漆黒の十三連撃」
スーの全身を覆っていた黒紫の闘気がうねりながら大鎌に集まっていく。
「レックス……」
刃に彫刻された模様が鈍く赤色に染まり、黒い闘気の中で強い光を放つ。
「カタストロフィ!!」
――そして“それは”十三本の赤い軌跡となった。
自分の身長よりも大きい鎌をまったくブレずに振り回せるのは、体幹が恐ろしく強いということなのだろう。袈裟がけに打ち下ろしたかと思えば、右手だけで回転させながら斬り上げる。そしてそのまま左手に持ち替えて体ごと一回転し、遠心力を利用して打ち込む。一呼吸の内に次々とアクロバティックな連撃を放つという、その細身の体からは想像出来ない荒業だった。
そして狙ったのは、右前脚のヒザ関節部分。いかに硬くても、関節まで覆うことは出来ない。スーのレックス・カタストロフィは、その可動部分を一点集中で破壊していた。
まず機動力を奪うのは戦いを有利に運ぶ為の基本だ。ルールの有るスポーツならまだしも、本来“生存すること“が勝利条件である野生生物の戦いにおいては、卑怯もへったくれも無い。
――しかし、脚の破壊を狙ったスーの攻撃は、この先の展開を有利に持っていく為の起点でしかなかった。
「どんな攻撃も効かないとかほざいていやがりましたな?」
「卑怯だっぺ。そこは狙ったらいけない所だっペ」
「そんな話、聞いたことねぇでゴザイますよ!」
「許さないっペ。お、お、前様方全員、踏みつぶしてや……」
ハーピーの羽根矢が止んだせいもあったのだろう。グレムリンはそこまで言いかけて、初めて気が付いた。
「あのカミナリ女はどこだっぺ……」
今の今まで猫耳幼女の近くにいたはずなのに、今はその姿が見えない。グレムリンは長い首で辺りを見回したが、ルカの姿はまったく視界に入ってこない。
「どこ見ていやがるんスか~?」
「爬虫類風情がこのオラになんて口を……」
「……その言い方、なんかムカつくっスね」
“バチバチッ”という音がグレムリンの腹の下から響いた。ルカは、スーのレックス・カタストロフィを囮にして、いつの間にか真下に転がり込んでいた。
「喰らえよ、この腐れ外道!」
ルカの右手に怒りの雷が収束されていく。全身に纏った闘気はその雷を覆うように絡み、雷光と紫雲がルカの右腕に渦巻いていた。
「レックス・カラミティ!!!」
これはレックス・インパクトの強化版とも言える、白と紫の雷撃をまとった一撃を放つ技だ。ルカはグレムリンの腹に目掛けて思いっきり打ち上げた。まさしく“昇雷”といった衝撃がグレムリンのドテッ腹を突き抜けて天に昇って行く。
「おお、すごい気合でございますですな。ビリビリ感じる気がしやがりますですぞ!」
「スーぅさぁ~ん、本当に痺れているですってば」
有り余った電撃のパワーは砂浜をも走っていた。近くにいたスーとピノは、足元からくるビリビリにルカの怒りを感じ取っていたのかもしれない。
その直後、得物の鞭をふりまわし始めるピノ。風を切る“ヒュンヒュン”といった音が次第に早くなっていく。円を描くように、八の字を描くようにと、その変幻自在な様はまるで生き物の様だ。そして、高速の鞭の動きは足元の砂を巻き上げ、撒き散らしていった。
「また目くらましだっペか? 芸の無いヤツだっぺ」
鞭の動きは更に早くなり大量の砂が舞い上がる。それは砂煙どころの話ではなく、ピノを中心にした砂嵐が起こり始めていた。やがて辺り一面の視界を奪い、スーやルカですら、その場から避難しなければならない程だった。
「そんな程度の誤魔化しが効くと思っているっペか? お粗末な方々だっぺ」
「お粗末なのはそちらですね。まだなにもわかっていない様で。いやはや、軍師が聞いて呆れます。魔王軍ではその程度で偉そうに出来るのですか」
この“あまりにわかりやすい挑発”が余程気に障ったのか、グレムリンはピノの声がする方にドラゴンの口を向けた。口からは青白い炎がチロチロと漏れている。辺り一面を覆う砂をドラゴンブレスで焼き払おうと、首を動かし始めた時だ。
——“ギシッ”とか“ミシッ”といった音が聞こえてきた。首を動かすたびに“ガリガリ”とか“ゴリゴリ”という音もする。
「これは……一体なんだっぺ?」
「なんだもなにもないであらせられますデスよ!」
ピノが撒き散らした砂は、吸いこまれるようにグレムリンに張り付いていった。表面だけでなく関節部分に入り込み動きを阻害している。それはまるで“石臼に砂を放り込んだようなもの”で、関節を動かす度に鈍く削られる音が響く。
「面白い位くっつくっスね!」
「このスー様も砂をかけて差し上げてしまいますぞ」
「やめんか、お前様方!」
制止の声などお構いなしに、グレムリンに砂を浴びせまくるスーとルカ。見る角度次第ではキャッキャウフフといった感じだ。
そして、やがて耳障りな音が止み、岩と砂の塊と化したグレムリンは……完全に、静止した。
「沈黙完了。あとは好きに料理しましょう」
「一体何をやったっペ……」
「何って……ルカさんの高電圧であなたを磁石化し、砂鉄を引き付けたってだけです」
土壌の分析をし、仲間の特性を理解し、その上での制圧作戦。『だけ』と言いながらもその内容は“ピノでなければ思いつかない”唯一無二の戦術であった。
「お前様、弱点を突くって言っていたっペな!」
「私は言っていませんよ?」
「ぺ?」
「ああ、それ言いやがりましたのは、この我、スー様デスぞ!」
両手を腰に当て、ドヤ顔で言い放つスー。
「大体、”壊せるポイントを突く”ですって?」
ピノは帽子を取り、額に浮いている汗をぬぐった。潮風で舞い上がる青い髪を耳にかけ直しながら、グレムリンに向かって静かに、そして諭すように、言った。
「そんなことが出来るのは漫画の中だけです」
――――――――――――――――――――――――――――――――
(注)実際はそんな簡単に磁石化しません。エンタメ的演出とご理解ください。
スーの全身を覆っていた黒紫の闘気がうねりながら大鎌に集まっていく。
「レックス……」
刃に彫刻された模様が鈍く赤色に染まり、黒い闘気の中で強い光を放つ。
「カタストロフィ!!」
――そして“それは”十三本の赤い軌跡となった。
自分の身長よりも大きい鎌をまったくブレずに振り回せるのは、体幹が恐ろしく強いということなのだろう。袈裟がけに打ち下ろしたかと思えば、右手だけで回転させながら斬り上げる。そしてそのまま左手に持ち替えて体ごと一回転し、遠心力を利用して打ち込む。一呼吸の内に次々とアクロバティックな連撃を放つという、その細身の体からは想像出来ない荒業だった。
そして狙ったのは、右前脚のヒザ関節部分。いかに硬くても、関節まで覆うことは出来ない。スーのレックス・カタストロフィは、その可動部分を一点集中で破壊していた。
まず機動力を奪うのは戦いを有利に運ぶ為の基本だ。ルールの有るスポーツならまだしも、本来“生存すること“が勝利条件である野生生物の戦いにおいては、卑怯もへったくれも無い。
――しかし、脚の破壊を狙ったスーの攻撃は、この先の展開を有利に持っていく為の起点でしかなかった。
「どんな攻撃も効かないとかほざいていやがりましたな?」
「卑怯だっぺ。そこは狙ったらいけない所だっペ」
「そんな話、聞いたことねぇでゴザイますよ!」
「許さないっペ。お、お、前様方全員、踏みつぶしてや……」
ハーピーの羽根矢が止んだせいもあったのだろう。グレムリンはそこまで言いかけて、初めて気が付いた。
「あのカミナリ女はどこだっぺ……」
今の今まで猫耳幼女の近くにいたはずなのに、今はその姿が見えない。グレムリンは長い首で辺りを見回したが、ルカの姿はまったく視界に入ってこない。
「どこ見ていやがるんスか~?」
「爬虫類風情がこのオラになんて口を……」
「……その言い方、なんかムカつくっスね」
“バチバチッ”という音がグレムリンの腹の下から響いた。ルカは、スーのレックス・カタストロフィを囮にして、いつの間にか真下に転がり込んでいた。
「喰らえよ、この腐れ外道!」
ルカの右手に怒りの雷が収束されていく。全身に纏った闘気はその雷を覆うように絡み、雷光と紫雲がルカの右腕に渦巻いていた。
「レックス・カラミティ!!!」
これはレックス・インパクトの強化版とも言える、白と紫の雷撃をまとった一撃を放つ技だ。ルカはグレムリンの腹に目掛けて思いっきり打ち上げた。まさしく“昇雷”といった衝撃がグレムリンのドテッ腹を突き抜けて天に昇って行く。
「おお、すごい気合でございますですな。ビリビリ感じる気がしやがりますですぞ!」
「スーぅさぁ~ん、本当に痺れているですってば」
有り余った電撃のパワーは砂浜をも走っていた。近くにいたスーとピノは、足元からくるビリビリにルカの怒りを感じ取っていたのかもしれない。
その直後、得物の鞭をふりまわし始めるピノ。風を切る“ヒュンヒュン”といった音が次第に早くなっていく。円を描くように、八の字を描くようにと、その変幻自在な様はまるで生き物の様だ。そして、高速の鞭の動きは足元の砂を巻き上げ、撒き散らしていった。
「また目くらましだっペか? 芸の無いヤツだっぺ」
鞭の動きは更に早くなり大量の砂が舞い上がる。それは砂煙どころの話ではなく、ピノを中心にした砂嵐が起こり始めていた。やがて辺り一面の視界を奪い、スーやルカですら、その場から避難しなければならない程だった。
「そんな程度の誤魔化しが効くと思っているっペか? お粗末な方々だっぺ」
「お粗末なのはそちらですね。まだなにもわかっていない様で。いやはや、軍師が聞いて呆れます。魔王軍ではその程度で偉そうに出来るのですか」
この“あまりにわかりやすい挑発”が余程気に障ったのか、グレムリンはピノの声がする方にドラゴンの口を向けた。口からは青白い炎がチロチロと漏れている。辺り一面を覆う砂をドラゴンブレスで焼き払おうと、首を動かし始めた時だ。
——“ギシッ”とか“ミシッ”といった音が聞こえてきた。首を動かすたびに“ガリガリ”とか“ゴリゴリ”という音もする。
「これは……一体なんだっぺ?」
「なんだもなにもないであらせられますデスよ!」
ピノが撒き散らした砂は、吸いこまれるようにグレムリンに張り付いていった。表面だけでなく関節部分に入り込み動きを阻害している。それはまるで“石臼に砂を放り込んだようなもの”で、関節を動かす度に鈍く削られる音が響く。
「面白い位くっつくっスね!」
「このスー様も砂をかけて差し上げてしまいますぞ」
「やめんか、お前様方!」
制止の声などお構いなしに、グレムリンに砂を浴びせまくるスーとルカ。見る角度次第ではキャッキャウフフといった感じだ。
そして、やがて耳障りな音が止み、岩と砂の塊と化したグレムリンは……完全に、静止した。
「沈黙完了。あとは好きに料理しましょう」
「一体何をやったっペ……」
「何って……ルカさんの高電圧であなたを磁石化し、砂鉄を引き付けたってだけです」
土壌の分析をし、仲間の特性を理解し、その上での制圧作戦。『だけ』と言いながらもその内容は“ピノでなければ思いつかない”唯一無二の戦術であった。
「お前様、弱点を突くって言っていたっペな!」
「私は言っていませんよ?」
「ぺ?」
「ああ、それ言いやがりましたのは、この我、スー様デスぞ!」
両手を腰に当て、ドヤ顔で言い放つスー。
「大体、”壊せるポイントを突く”ですって?」
ピノは帽子を取り、額に浮いている汗をぬぐった。潮風で舞い上がる青い髪を耳にかけ直しながら、グレムリンに向かって静かに、そして諭すように、言った。
「そんなことが出来るのは漫画の中だけです」
――――――――――――――――――――――――――――――――
(注)実際はそんな簡単に磁石化しません。エンタメ的演出とご理解ください。
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