上 下
135 / 196
world:08 あの娘どこの娘チートの娘

第120話・超える……力(?)

しおりを挟む
 寄せては返す波の向こう、水平線のはるか上に見える太陽を背に、二人の恐竜人ライズが歩いてきた。

「遅くなって申し訳ないのです」

 右手で“ゴメンの空チョップ”をするピノ。

「君は飲み会に遅れて来た営業部の中間管理職か!」
〔もうちょっと美しく、『デートに遅れて来た彼氏』とか言えないのですか……〕
「やめて、メンタル削られる。ウチが可哀想やで」

 何故かピノとスーが並んで丸太を一本ずつ担ぎ……いや、あれは足か?

「それにしても無事でよかったよ~。状況が全く見えないからすごく心配してたんだ……」

 そして引きずっているあれがケルピーなのだろう。バルログほどではないがかなりの巨体だ。それを倒して片足ずつ担ぎ、海から上がって来たスピノサウルスとサルコスクスの恐竜人ライズ

「ピノちゃん、スーちゃん、ナイス!」

 いつまでたっても河口の方から出てこないからどうしたのかと思っていたけど、二人で戦っていたとは。

「なんでケルピーが倒されているんだっぺ?」

 怒鳴りながら猫耳幼女を睨みつけるグレムリン。ケルピーでピノを抑えて、河口の罠にスーがかかる予知ハズだったのだろう。それが外れたことへの叱責なのか? 

 荒げる声を前にして、猫耳幼女はうつむいたまま動かない。ウチには、小さく……震えているようにも見えた。

「小さい子を責めてんじゃないよ、アホ玉!」

 そもそも予知って予測演算とは違って“未来の結果”が見えるのだから、必ず当たるはずの力。それでもスーのイレギュラーが読めなかったということは、その辺りに弱点がありそうだ。けどまあ、こういう考察はアンジーにまかせよう。

「スーちゃん、河口に行ったんじゃなかったの?」
「もちろん行かれやがりましたよ。でも、目の前でコイツとピノが戦っていやがったので加勢して差し上げやがったのデス」

 あっけらかんと話す彼女がその手に持つのは、禍々しいオーラを放つ漆黒の大鎌。太陽に照らされてキラキラ輝き、その異様さを浮き彫りにしていた。

「え~と、つまり……」

 もしやこのってば、極度の方向音痴なのかも。デパートに入ったら出口がわからなくなる人いるし、恐竜にもいておかしくないのだろう、多分。……それが予知を超える力になったのか? 

 なんかよくわからないけど、グレムリンが慌てる姿を見られて気分いいわ。


「おい毛玉(グレムリン)、これで4対1だぞ」
「お前様も計算が出来ないパープリンだっぺか」
「はぁ? なに言ってんだよ。助さん格さん、やっておしまいなさい!」

 右にルカと左にピノ、中央からスーと、三方向から攻めの構えを見せる。

「何でのに気が付かないっペなぁ」
〔——八白亜紀、後ろを……〕

 女神さんのその言葉が終わるより早く、腰の辺りに熱いモノを感じた。

「つ、痛ってぇ……」

 振り返ってみるとそこには猫耳幼女がウチにくっついていた。手には短刀が握られていて、その刃先はウチの身体にしっかりと食い込んでいた。当たり前の話だけど、猫耳幼女にとってもこんなことは初めてだったのだろう。すぐに短刀から手を離し、血の付いた震える手を見つめたまま固まっていた。
 ウチは猫耳幼女の襟首を掴むと、力いっぱいそのまま引き倒した。怒りで転ばした訳じゃない、下半身に力が入らないから加減がわからないんだ。上から覆いかぶさり、いや、倒れ込んだと言った方が良いかもしれなかったが、ウチは、声が震えない様に注意しながら声をかけた。

「大丈夫、怒ってないよ……」

 どんな理由があったとしても、人を刺したと言う現実は変らない。でもウチは、この子に恨みを持とうとかまったく思わなかった。だって、この子が呟いていた声が……今やっと聞こえたから。

 この子は最初からずっと、繰り返し呟いていたんだ。


 ――『ごめんなさい』と。


 人を刺すなんて尋常な行動じゃない。それも、こんなに小さく、善悪の判断がつかない様な幼女に実行させるなんて、この先トラウマになるかもしれないのに。最低最悪なのは、それを強制したグレムリンの大馬鹿野郎だ。


 それはそれとして……滅茶苦茶痛ぇ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃんでした。 実際に逢ってみたら、え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこいー伴侶がいますので! おじいちゃんと孫じゃないよ!

人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚

咲良喜玖
ファンタジー
アーリア戦記から抜粋。 帝国歴515年。サナリア歴3年。 新国家サナリア王国は、超大国ガルナズン帝国の使者からの宣告により、国家存亡の危機に陥る。 アーリア大陸を二分している超大国との戦いは、全滅覚悟の死の戦争である。 だからこそ、サナリア王アハトは、帝国に従属することを決めるのだが。 当然それだけで交渉が終わるわけがなく、従属した証を示せとの命令が下された。 命令の中身。 それは、二人の王子の内のどちらかを選べとの事だった。 出来たばかりの国を守るために、サナリア王が判断した人物。 それが第一王子である【フュン・メイダルフィア】だった。 フュンは弟に比べて能力が低く、武芸や勉学が出来ない。 彼の良さをあげるとしたら、ただ人に優しいだけ。 そんな人物では、国を背負うことが出来ないだろうと、彼は帝国の人質となってしまったのだ。 しかし、この人質がきっかけとなり、長らく続いているアーリア大陸の戦乱の歴史が変わっていく。 西のイーナミア王国。東のガルナズン帝国。 アーリア大陸の歴史を支える二つの巨大国家を揺るがす英雄が誕生することになるのだ。 偉大なる人質。フュンの物語が今始まる。 他サイトにも書いています。 こちらでは、出来るだけシンプルにしていますので、章分けも簡易にして、解説をしているあとがきもありません。 小説だけを読める形にしています。

神の使いでのんびり異世界旅行〜チート能力は、あくまで自由に生きる為に〜

和玄
ファンタジー
連日遅くまで働いていた男は、転倒事故によりあっけなくその一生を終えた。しかし死後、ある女神からの誘いで使徒として異世界で旅をすることになる。 与えられたのは並外れた身体能力を備えた体と、卓越した魔法の才能。 だが骨の髄まで小市民である彼は思った。とにかく自由を第一に異世界を楽しもうと。 地道に進む予定です。

転生したら侯爵令嬢だった~メイベル・ラッシュはかたじけない~

おてんば松尾
恋愛
侯爵令嬢のメイベル・ラッシュは、跡継ぎとして幼少期から厳しい教育を受けて育てられた。 婚約者のレイン・ウィスパーは伯爵家の次男騎士科にいる同級生だ。見目麗しく、学業の成績も良いことから、メイベルの婚約者となる。 しかし、妹のサーシャとレインは互いに愛し合っているようだった。 二人が会っているところを何度もメイベルは見かけていた。 彼は婚約者として自分を大切にしてくれているが、それ以上に妹との仲が良い。 恋人同士のように振舞う彼らとの関係にメイベルは悩まされていた。 ある日、メイベルは窓から落ちる事故に遭い、自分の中の過去の記憶がよみがえった。 それは、この世界ではない別の世界に生きていた時の記憶だった。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

異世界でのんびり暮らしたい!?

日向墨虎
ファンタジー
前世は孫もいるおばちゃんが剣と魔法の異世界に転生した。しかも男の子。侯爵家の三男として成長していく。家族や周りの人たちが大好きでとても大切に思っている。家族も彼を溺愛している。なんにでも興味を持ち、改造したり創造したり、貴族社会の陰謀や事件に巻き込まれたりとやたらと忙しい。学校で仲間ができたり、冒険したりと本人はゆっくり暮らしたいのに・・・無理なのかなぁ?

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

ソロキャンパー俺、今日もS級ダンジョンでのんびり配信。〜地上がパニックになってることを、俺だけが知らない〜

相上和音
ファンタジー
ダンジョン。 そこは常に死と隣り合わせの過酷な世界。 強力な魔物が跋扈し、地形、植物、環境、その全てが侵入者を排除しようと襲いかかってくる。 ひとたび足を踏み入れたなら、命の保証はどこにもない。 肉体より先に精神が壊れ、仮に命が無事でも五体満足でいられる者は、ほんのごく少数だ。 ーーそのはずなのだが。 「今日も一日、元気にソロキャンプしていきたいと思いま〜す」 前人未到のS級ダンジョン深部で、のんびりソロキャンプ配信をする男がいる。 男の名はジロー。 「え、待って。S級ダンジョンで四十階層突破したの、世界初じゃない?」 「学会発表クラスの情報がサラッと出てきやがった。これだからこの人の配信はやめられない」 「なんでこの人、いつも一方的に配信するだけでコメント見ないの!?」 「え? 三ツ首を狩ったってこと? ソロで? A級パーティでも、出くわしたら即撤退のバケモンなのに……」 「なんなんこの人」 ジローが配信をするたびに、世界中が大慌て。 なのになぜか本人にはその自覚がないようで……。 彼は一体何者なのか? 世界中の有力ギルドが、彼を仲間に引き入れようと躍起になっているが、その争奪戦の行方は……。

処理中です...