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world:06 あの顔この顔ヤツの顔
第83話・もふもふアタック!
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ティラノ達が閉じ込められている砂壁の筒を、ぽんぽんと叩きながらグレムリンが言う。
「助けはこの有様。残念だっぺな」
「……最初からあいつらに期待なんてしてねぇよ」
この初代新生のひと言が、強がりなのか本気なのかはわからない。わかっているのは彼女がまともに戦える状態にないということだけだった。
「ヒョォ、こいつまた……」
数分前に彼女を助けたあの鳥が、再度バルログの顔の前を飛び、耳元で羽ばたき、ことごとく邪魔をし始めた。
「グレ、こいつ止めテくれ」
「届かねえって言ってんだっぺ」
50センチもある鳥とは言え、バルログの体躯からしたらあまりに小さな的だ。狙うに狙えず、滅茶苦茶に杖を振り回すだけだった。
グレムリンはあきれた様子で放置を決め込んでいる様だ。相方の受難を無視し、改めて呪文の詠唱を始めようと構える。
「くそ、ふざけるな……」
初代新生はうずくまった状態で剣鉈を逆手に持つと、膝立ちのままグレムリンを睨みつけた。その眼には怯えも諦めもなく、ただ、力強い意志だけが灯っていた。
「お前様はもう動けないじゃろ。無駄だというのが何故わからんっぺな?」
「てめぇに何がわかるんだよ……」
しゃべり終わると同時に、初代新生は低く屈んだ態勢から飛び上がり、攻撃に出た。
彼女が動けなくなっていたのは確かで、本当なら飛び上がるなんて動作は不可能だった。しかしそれは数分前の話だ。ティラノがゴーレムを破壊している時、ラミアはゴーレムを攻撃していると見せながら、衝撃波の影から初代新生に回復魔法を飛ばしていたということだった。それがなければ、今頃は完全に動けなくなっていただろう。
初代新生は先ほどの攻撃で確実にグレムリンを斬った。しかし、なんの手ごたえもなく、するりと抜けてしまっていた。
その原因が判らないうちは、グレムリンに攻撃を仕掛けても同じことの繰り返しになる。『ならば』と初代新生は攻撃対象をバルログに定め、飛び上がると同時にバルログの左脇腹から右肩にかけて下から斬り上げた。剣鉈のリーチはショートソードと同程度、飛び抜けざまに斬りつけるには十分な刃渡りがあった。そして今度はグレムリンの時と違い、バルログの脇腹にしっかりと刃が食い込んだ手応えがある。
――いける!
初代新生の中で確信があったのだと思う。飛び上がった勢いで、右肩まで一気に斬り上げ、確実に仕留めたという感触があった。しかしその直後、ジャンプの頂点付近。上がることも落ちることもない制止する一瞬。受け身を取ることも避けることも出来ない状態で、バルログは初代新生の足首を掴み……そのまま、無造作に地面に叩きつけた!
地上4メートル近い高さから叩きつけられ、全身が砕けるような衝撃を受けた初代新生。瞬間的に呼吸が止まり、声を発することも出来ない。
しかし一番ダメージが大きかったのは左腕だった。叩きつけられた時、最初に接地したのは左手から肩甲骨にかけてだ。自分の命を守る事を最優先として、初代新生は左腕を伸ばし犠牲としていた。他でもない、『生きる』という強い意志が彼女を行動させたのだと思う。その左腕は骨が砕け、血が噴き出していた。
母親のロープを切った時と同様、何を最優先とするかという瞬時の判断力は、ウチにもアンジーにもない資質だった。
「う……ぅ…」
初代新生の“仕留めた”というその感覚は間違っていなかったと思う。ただしそれは、相手が“人間だったら”の話だ。バルログは斬られた傷跡を一瞥すると、埃を落とすかのように血を掃った。ビチャッと音を立てて地面に飛び散る鮮血。
「まだ息がアるのかや……」
バルログは足首を掴んだまま初代新生を振り上げ、もう一度地面に振り下ろした。いくら人間よりも基本能力が高い猫人と言っても、流石にこれではひとたまりもない。全身が粉々に砕け、死に至ってしまう。いくら『生きる』という意思が強くても、到底かなわない脅威が彼女を飲み込もうとしたその時――。
今までバルログの邪魔をしていた鳥が初代新生の下に入り込み、クッションとなって全ての衝撃をその身で受け止めていた。
「ぎゅぴ……」
鳥は断末魔にも聞こえるような、それでいて悲鳴にもならない声を発して……動かなくなってしまった。
「なん…で……」
自分が鳥に守られたことが信じられず、唖然とする初代新生。血だらけの鳥を抱きかかえると、力なくぐったりとした重さが両手にかかってくる。それでも微かな脈動を感じた——まだ生きている。しかし足先が痙攣しているのが見え、このままでは数分と持たないだろう。
「シつこいヤツだな……」
バルログは面倒だという態度を見せながら、とどめを刺そうと杖を振り上げた。しかしその時――。
大空にあの萌えボが響く!
「ちょっと待つニャ!!」
ドゴッッッッッッ………………
「ウゴッ……」
バルログの脳天に“もふもふ”がぶち当たった。杖を落とし、両膝をついて頭を押さえるバルログ。
3メートルと言う魔王軍の中でも群を抜いた高身長、普段頭に衝撃を受けることのない巨人にとって、これはかなりのダメージだった。
「必殺、猫玉アタックニャ!!!」
「助けはこの有様。残念だっぺな」
「……最初からあいつらに期待なんてしてねぇよ」
この初代新生のひと言が、強がりなのか本気なのかはわからない。わかっているのは彼女がまともに戦える状態にないということだけだった。
「ヒョォ、こいつまた……」
数分前に彼女を助けたあの鳥が、再度バルログの顔の前を飛び、耳元で羽ばたき、ことごとく邪魔をし始めた。
「グレ、こいつ止めテくれ」
「届かねえって言ってんだっぺ」
50センチもある鳥とは言え、バルログの体躯からしたらあまりに小さな的だ。狙うに狙えず、滅茶苦茶に杖を振り回すだけだった。
グレムリンはあきれた様子で放置を決め込んでいる様だ。相方の受難を無視し、改めて呪文の詠唱を始めようと構える。
「くそ、ふざけるな……」
初代新生はうずくまった状態で剣鉈を逆手に持つと、膝立ちのままグレムリンを睨みつけた。その眼には怯えも諦めもなく、ただ、力強い意志だけが灯っていた。
「お前様はもう動けないじゃろ。無駄だというのが何故わからんっぺな?」
「てめぇに何がわかるんだよ……」
しゃべり終わると同時に、初代新生は低く屈んだ態勢から飛び上がり、攻撃に出た。
彼女が動けなくなっていたのは確かで、本当なら飛び上がるなんて動作は不可能だった。しかしそれは数分前の話だ。ティラノがゴーレムを破壊している時、ラミアはゴーレムを攻撃していると見せながら、衝撃波の影から初代新生に回復魔法を飛ばしていたということだった。それがなければ、今頃は完全に動けなくなっていただろう。
初代新生は先ほどの攻撃で確実にグレムリンを斬った。しかし、なんの手ごたえもなく、するりと抜けてしまっていた。
その原因が判らないうちは、グレムリンに攻撃を仕掛けても同じことの繰り返しになる。『ならば』と初代新生は攻撃対象をバルログに定め、飛び上がると同時にバルログの左脇腹から右肩にかけて下から斬り上げた。剣鉈のリーチはショートソードと同程度、飛び抜けざまに斬りつけるには十分な刃渡りがあった。そして今度はグレムリンの時と違い、バルログの脇腹にしっかりと刃が食い込んだ手応えがある。
――いける!
初代新生の中で確信があったのだと思う。飛び上がった勢いで、右肩まで一気に斬り上げ、確実に仕留めたという感触があった。しかしその直後、ジャンプの頂点付近。上がることも落ちることもない制止する一瞬。受け身を取ることも避けることも出来ない状態で、バルログは初代新生の足首を掴み……そのまま、無造作に地面に叩きつけた!
地上4メートル近い高さから叩きつけられ、全身が砕けるような衝撃を受けた初代新生。瞬間的に呼吸が止まり、声を発することも出来ない。
しかし一番ダメージが大きかったのは左腕だった。叩きつけられた時、最初に接地したのは左手から肩甲骨にかけてだ。自分の命を守る事を最優先として、初代新生は左腕を伸ばし犠牲としていた。他でもない、『生きる』という強い意志が彼女を行動させたのだと思う。その左腕は骨が砕け、血が噴き出していた。
母親のロープを切った時と同様、何を最優先とするかという瞬時の判断力は、ウチにもアンジーにもない資質だった。
「う……ぅ…」
初代新生の“仕留めた”というその感覚は間違っていなかったと思う。ただしそれは、相手が“人間だったら”の話だ。バルログは斬られた傷跡を一瞥すると、埃を落とすかのように血を掃った。ビチャッと音を立てて地面に飛び散る鮮血。
「まだ息がアるのかや……」
バルログは足首を掴んだまま初代新生を振り上げ、もう一度地面に振り下ろした。いくら人間よりも基本能力が高い猫人と言っても、流石にこれではひとたまりもない。全身が粉々に砕け、死に至ってしまう。いくら『生きる』という意思が強くても、到底かなわない脅威が彼女を飲み込もうとしたその時――。
今までバルログの邪魔をしていた鳥が初代新生の下に入り込み、クッションとなって全ての衝撃をその身で受け止めていた。
「ぎゅぴ……」
鳥は断末魔にも聞こえるような、それでいて悲鳴にもならない声を発して……動かなくなってしまった。
「なん…で……」
自分が鳥に守られたことが信じられず、唖然とする初代新生。血だらけの鳥を抱きかかえると、力なくぐったりとした重さが両手にかかってくる。それでも微かな脈動を感じた——まだ生きている。しかし足先が痙攣しているのが見え、このままでは数分と持たないだろう。
「シつこいヤツだな……」
バルログは面倒だという態度を見せながら、とどめを刺そうと杖を振り上げた。しかしその時――。
大空にあの萌えボが響く!
「ちょっと待つニャ!!」
ドゴッッッッッッ………………
「ウゴッ……」
バルログの脳天に“もふもふ”がぶち当たった。杖を落とし、両膝をついて頭を押さえるバルログ。
3メートルと言う魔王軍の中でも群を抜いた高身長、普段頭に衝撃を受けることのない巨人にとって、これはかなりのダメージだった。
「必殺、猫玉アタックニャ!!!」
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