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world:06 あの顔この顔ヤツの顔
第82話・Sky……はい?
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「ティラノさんの技は使えないし、私の魔法もこの狭さでは皆を巻き込んでしまいます……」
「壁を登るのも無理ニャ」
「なあ、ガイアの虹羽根って外まで飛ばせねえのか?」
「高すぎる……不可能。デス」
皆はその言葉に釣られて空を見上げていた。周囲を分厚い土壁に覆われてその高さは目算で20メートル程。空を飛べでもしない限り、ここから出るのはほぼ不可能だろう。
「冷静に考えてみると、こちらに飛べる者がいないことを確認しての作戦の様ですね」
「それはいいんだけどヨ、急がないと初代新生やばいだろ」
「大丈夫。まだもう少しは持つと思いますよ。急がなければならないことには変わりありませんが」
何故か『大丈夫』と言い切るラミア。初代新生の状態を考えると、ウチにはとても大丈夫なんて思えなかったのだが……?
「……なあ、ミアっち。空飛ぶ魔法とかねぇの?」
そこに考えが行きつくのは当然だろう。ラミアもそれはわかっていたはずだ。
「ありますよ。でも……」
「あるのかよ。それで俺様を飛ばしてくれ」
「いえ、問題があるのです。魔法そのものに」
「かまわねぇ、外に出られればいい。このままじゃ亜紀っちに顔向けできねぇんだヨ」
ティラノの勢いに押されて呪文詠唱を開始するラミア。もしかしたら、言葉で理解させるより体験させた方が手っ取り早いとでも思ったのだろうか。
この魔法は単純に“物体を浮かび上がらせる”という類のもの。ウチがよく観ていたアニメや漫画では簡単に空を飛ぶものばかりだったけど……実際は恐ろしく緻密な計算が必要な魔法なんだということを、この時の伝聞から認識させられたんだ。
ラミアが詠唱を始めると、最初にティラノの髪の毛や服の裾がふわっと逆立った。そして身体が重力に逆らい、大地からゆっくりと浮かび上がる。
「お……おおう。なんかすげぇ。妙な感じがするぜ」
陸上生物にとってやはり“飛ぶ”という感覚は、今までに経験したことのない奇妙なものだったはず。それ故、面白くも感じていたとしても仕方がないし、責める気は起こらない。だが……
「すげぇな、この感覚。一度飛んでみたいと思っていたんだ」
今までにない新鮮な感覚。とにかく興味や好奇心が先に立って、ティラノの落ち着きを奪っていた。
「あ、ティラノさん駄目、動かないで……」
――ドスンッ
「……ってぇ」
20センチくらい上がった辺りだろうか、ティラノはバランスを崩し、盛大に尻もちをついてしまった。余談だが、美少女は尻もちも絵になる。
ティラノが身をもって難しさを体験した上で、ラミアが説明を始めた。
「浮かすだけなら簡単なのです。しかし対象者を360度、上下前後左右全ての方向に対して常に座標を保持しなければならないのです。もちろんそれは、術をかけられている人も同様で、バランスを崩すと今みたいに……」
ラミアは『三百人くらいまとめて吹き飛ばせる超爆発よりも難しい魔法なのです』とも付け加えていた。
「ティラノ下手っぴニャ。ここはベルノにまかせるニャ!」
「そうは言うけどよ~。難しいぜ、これ」
「ベルノなら大丈夫ニャ。Sky Highニャ!」
「どっから来んだよ、その自信……」
ラミアが詠唱を始めると、ベルノのスカートや髪の毛が逆立ち始め、足が地上から離……ドスッ
「痛いニャ!!」
空に向い、いきなりブチ切れるベルノ。地面に頭から突っ込み、顔どころか全身砂だらけ。
壁を伝ってサラサラと流れてくる砂は、壁面を登れない様にする為の妨害工作だ。それが足元に溜まりクッションとなって無傷で済んだのは、皮肉以外のなにものでもなかった。
「さて、どうしましょう」
ラミアにしてみても、自由に空を飛べる魔法が存在しないことが悔しくてたまらなかったと思う。『どうしましょう』と言うその一言には、悔しさがにじみ出ていたことだろう。
——しかしその時、しばらく状況を静観していたガイアが口を開いた。
「ひとつ……考えがある。デス」
「壁を登るのも無理ニャ」
「なあ、ガイアの虹羽根って外まで飛ばせねえのか?」
「高すぎる……不可能。デス」
皆はその言葉に釣られて空を見上げていた。周囲を分厚い土壁に覆われてその高さは目算で20メートル程。空を飛べでもしない限り、ここから出るのはほぼ不可能だろう。
「冷静に考えてみると、こちらに飛べる者がいないことを確認しての作戦の様ですね」
「それはいいんだけどヨ、急がないと初代新生やばいだろ」
「大丈夫。まだもう少しは持つと思いますよ。急がなければならないことには変わりありませんが」
何故か『大丈夫』と言い切るラミア。初代新生の状態を考えると、ウチにはとても大丈夫なんて思えなかったのだが……?
「……なあ、ミアっち。空飛ぶ魔法とかねぇの?」
そこに考えが行きつくのは当然だろう。ラミアもそれはわかっていたはずだ。
「ありますよ。でも……」
「あるのかよ。それで俺様を飛ばしてくれ」
「いえ、問題があるのです。魔法そのものに」
「かまわねぇ、外に出られればいい。このままじゃ亜紀っちに顔向けできねぇんだヨ」
ティラノの勢いに押されて呪文詠唱を開始するラミア。もしかしたら、言葉で理解させるより体験させた方が手っ取り早いとでも思ったのだろうか。
この魔法は単純に“物体を浮かび上がらせる”という類のもの。ウチがよく観ていたアニメや漫画では簡単に空を飛ぶものばかりだったけど……実際は恐ろしく緻密な計算が必要な魔法なんだということを、この時の伝聞から認識させられたんだ。
ラミアが詠唱を始めると、最初にティラノの髪の毛や服の裾がふわっと逆立った。そして身体が重力に逆らい、大地からゆっくりと浮かび上がる。
「お……おおう。なんかすげぇ。妙な感じがするぜ」
陸上生物にとってやはり“飛ぶ”という感覚は、今までに経験したことのない奇妙なものだったはず。それ故、面白くも感じていたとしても仕方がないし、責める気は起こらない。だが……
「すげぇな、この感覚。一度飛んでみたいと思っていたんだ」
今までにない新鮮な感覚。とにかく興味や好奇心が先に立って、ティラノの落ち着きを奪っていた。
「あ、ティラノさん駄目、動かないで……」
――ドスンッ
「……ってぇ」
20センチくらい上がった辺りだろうか、ティラノはバランスを崩し、盛大に尻もちをついてしまった。余談だが、美少女は尻もちも絵になる。
ティラノが身をもって難しさを体験した上で、ラミアが説明を始めた。
「浮かすだけなら簡単なのです。しかし対象者を360度、上下前後左右全ての方向に対して常に座標を保持しなければならないのです。もちろんそれは、術をかけられている人も同様で、バランスを崩すと今みたいに……」
ラミアは『三百人くらいまとめて吹き飛ばせる超爆発よりも難しい魔法なのです』とも付け加えていた。
「ティラノ下手っぴニャ。ここはベルノにまかせるニャ!」
「そうは言うけどよ~。難しいぜ、これ」
「ベルノなら大丈夫ニャ。Sky Highニャ!」
「どっから来んだよ、その自信……」
ラミアが詠唱を始めると、ベルノのスカートや髪の毛が逆立ち始め、足が地上から離……ドスッ
「痛いニャ!!」
空に向い、いきなりブチ切れるベルノ。地面に頭から突っ込み、顔どころか全身砂だらけ。
壁を伝ってサラサラと流れてくる砂は、壁面を登れない様にする為の妨害工作だ。それが足元に溜まりクッションとなって無傷で済んだのは、皮肉以外のなにものでもなかった。
「さて、どうしましょう」
ラミアにしてみても、自由に空を飛べる魔法が存在しないことが悔しくてたまらなかったと思う。『どうしましょう』と言うその一言には、悔しさがにじみ出ていたことだろう。
——しかしその時、しばらく状況を静観していたガイアが口を開いた。
「ひとつ……考えがある。デス」
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