上 下
65 / 196
world:04 人生色々後悔諸々(Past Story)

第57話・Past Story アンジュラ④

しおりを挟む
 悔しい……必死に伸ばしてくる妹の手を、私は掴むことが出来なかった。

 目も開けていられない程の光が足元から発生し、一瞬にして上も下もない空間に放り出された。『あれは爆発でもあったのか?』と、最初は思っていた。そしてここは死後の世界なのだと。しかし…… 


「ここは……?」


 いつの間にか地面が存在し、今ここに“立っている”と自覚出来た。なにか堅い、コンクリートか石床の様な感じだ。少しすると光が薄くなって、周りの状況が見えて来た。

 この人達は……誰なのだろう? というかここには……旅番組とかで観たような、中世からある城の“玉座の間”そのものが目の前に広がっていた。正面に偉そうな恰好している人が二人とその横に一人。あとは両脇に並んでいるのが数十人。


「おお、成功じゃな!」
「はっ、これも王の威厳が為したことにございます」
「うむ、下がれ。後で褒美を取らす」
「これで他の国に遅れを取らなくて済みそうですな」

 目の前でヒゲのおっさん達が寸劇をやっている。『下がれ』と言われた質素なローブのオッサンがそそくさと脇の列に並ぶ。……私はなんでこんなものを見せられているんだ?

 ――いや、そんなことより

「愛希はどこ⁉」
「控えろ! 王の御前であるぞ!!」

 なんか知らないけど、上から目線の着飾ったハゲが怒鳴ってきた。

「はあ? アンタこそなんなんだよ! 愛希はどこなの?」
「あき? とは誰のことじゃ?」

 偉そうにふんぞり返っているヒゲが左手を上げて、着飾ったハゲを制しながら聞いてきた。大人しく一歩下がるハゲ。

「誰じゃないよ。私の妹をどこへやったの⁉」
「はて……?」

 何だこいつら……何十人もいるくせに誰もわからないのか? ヒゲとハゲが小声で話しているが、どうやら愛希のことじゃないみたいだ。

 着飾ったハゲが進み出て言う。

「そこの者! お主は魔王討伐の為、異世界より召喚されたのだ!」

 なんだそりゃ? こっちはそれどころじゃないんだ。
 もちろんこの状況が全くわからない訳じゃない。それなりに漫画とか読むことがあったから異世界転生とか転移の物語は知っている。そして私に起こった現象を考えると、これは現実なのだろうと理解できる。

 ――しかし、だ。異世界転生を喜ぶ奴なんて、頭の中がお花畑か地に足がついていない妄想家くらいだ。誰もかれもが浮かれてハイハイ返事すると思うな!

「私の都合は一切無視して転移させるとか、人としておかしくない? 愛希のことを聞いてもスルーしてるしさ。それでいていきなり命令? そんなもん聞く理由はないし。やりたきゃ勝手にやっててよ!」
「な、なんたる不遜!」
「不遜ついでに一応聞くけど。魔王討伐とかしたら私を元の世界に戻せるの?」
「それは出来ん。呼び寄せることだけだ!」
「あっそ。協力する理由がこれっぽっちもなくなったよ」
「いわせておけば……。騎士長、この者を斬首せよ!!」

 ハゲの命令で進み出た、騎士長と呼ばれたマゲが剣を抜きながら私に歩み寄ってきた。

「残念ですな、お嬢さん」
「残念なのはお前らの頭の中身。ほんと腐ってるやつらだね!」

 愛希も救えず、戻ることも出来ず。これでは……生きる意味がない。だけど、ここで大人しく殺されるのは違うと思った。

 ……こんな横柄な連中の為に、なんで私が犠牲になるのかと。

 そのとき、ちょっとした殺意みたいなものがあったと思う。突然、右手に剣が出現したんだ。直感的にイメージしたものが出て来た感じだった。これがいわゆるスキルとか魔法の類なのかもしれない。 
 振り下ろしてくる騎士長マゲの剣を受け流す。全然力を感じない剣だった。多分この力量差が転移者の能力であって、それを求めて呼び出しているのだろう。

「一つ聞くけど。他の国に後れを取るって言ったけど、それはどういう意味?」

 多分ヒゲもハゲも答えないだろうから、軽くあしらったマゲに“剣を突きつけて”聞いてみる。

「ま…魔王討伐の為に各国で召喚者を呼び出しているんだ……」
「そいつらと協力しろと?」
「いや……く、国の威信をかけてどの国が最初に魔王を倒すのかを……」
「ふ~ん、わかったからもういいや!」

 軽く右手を振ると、なんの手ごたえも無くマゲがぽとりと落ちた。失禁するマゲ。……汚いなぁ。

「つまり下らない国の面子の為に、私を利用しようってことなのね?」
「下らないとは何事じゃ! 勇者の血を持つ者として召喚された以上は責務を果たせ! 親兄弟の存在なんぞ、王国の威信の前では塵芥ちりあくたに等しきものぞ!」


 だめだ、こいつ等……救えないな。


 ――その瞬間、私の中でなにかのスイッチが入ったのを自覚した。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

婚約者に犯されて身籠り、妹に陥れられて婚約破棄後に国外追放されました。“神人”であるお腹の子が復讐しますが、いいですね?

サイコちゃん
ファンタジー
公爵令嬢アリアは不義の子を身籠った事を切欠に、ヴント国を追放される。しかも、それが冤罪だったと判明した後も、加害者である第一王子イェールと妹ウィリアは不誠実な謝罪を繰り返し、果てはアリアを罵倒する。その行為が、ヴント国を破滅に導くとも知らずに―― ※昨年、別アカウントにて削除した『お腹の子「後になってから謝っても遅いよ?」』を手直しして再投稿したものです。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

異世界召喚?やっと社畜から抜け出せる!

アルテミス
ファンタジー
第13回ファンタジー大賞に応募しました。応援してもらえると嬉しいです。 ->最終選考まで残ったようですが、奨励賞止まりだったようです。応援ありがとうございました! ーーーー ヤンキーが勇者として召喚された。 社畜歴十五年のベテラン社畜の俺は、世界に巻き込まれてしまう。 巻き込まれたので女神様の加護はないし、チートもらった訳でもない。幸い召喚の担当をした公爵様が俺の生活の面倒を見てくれるらしいけどね。 そんな俺が異世界で女神様と崇められている”下級神”より上位の"創造神"から加護を与えられる話。 ほのぼのライフを目指してます。 設定も決めずに書き始めたのでブレブレです。気楽〜に読んでください。 6/20-22HOT1位、ファンタジー1位頂きました。有難うございます。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...