63 / 196
world:04 人生色々後悔諸々(Past Story)
第55話・Past Story アンジュラ②
しおりを挟む
後ろから来た黒いバンが私達の横で停まり、中からマスクをかぶった数人の男が出てきて口を塞がれた。そのまま車の中に押し込まれ、急発進しながらドアを閉める。……わずか十数秒の出来事だった。
やばいやばいやばい……なによこれ? こいつ等なに? 怖い! 触るな! 来ないで!
……そのとき、その場において、恐怖以外の感情が入り込む余地はなかった。
多分、誰しも突然誘拐なんて目に遭ったら、なにも考えることが出来ずに恐怖と焦りでパニックになる。ましてや女性なら性被害の可能性も考えてしまうのは当然だろう。
身の危険を感じながら、それでも私の頭の中には妹の安否があった。幸い視界に入っている愛希は、口は塞がれているが暴力を振るわれたような形跡はなさそうだ。
それでも危険な状況には変わりが無く、パニックに支配されている脳で必死にここから逃れようと暴れた。『とにかく恐怖から逃れたい』その一心だけだった。
そんな暴れる私を見て“姉を助けよう”とでも思ったのだろうか? 愛希は自分の口を押えている男の手を噛んだ!
「痛って、このガキ!!」
「お姉ちゃ……」
――男は怒り任せに愛希を殴りつけた。幼稚園に通う女の子を、だ。
「愛希!!!」
――殴られ、悲鳴と共に車の床に叩きつけられる愛希。
目の前で起きた出来事に、私は凄まじい怒りを覚えた。なにを考えればいいのか? なにをすればいいのか? それまで混乱していた頭の中を、怒りと言う一つの感情が冷静にさせていた。
怒りを覚えると同時に、私は抵抗を止めた。肩を抑えている男は何が起きたのかわからず、仲間に答えを求める様に視線を合わせる。その瞬間、両手で男の襟首を掴むと、その顎に向けて頭突きを喰らわせた。のけ反り、押さえていた手が外れる。
そのまま右足を掴んでいる男は無視して妹を殴った後部座席の男に殴りかかった。しかし、これは完全にミスだった。いかに体力があるとは言え、男と女の力の差は簡単に埋められるものではない。ましてや、今は三人の男が相手だ。足を掴んでいる男は全体重を乗せて動きを封じて来た。これでは後ろの男に届かない。
「愛希、大丈夫? 愛希⁉」
「うるせーな。このガキが悪いんだろが!」
後ろの男は愛希の後襟を掴み、無理矢理起こした。どこか切ったのだろう、額を血が流れている。
「何でこんなことを……」
「何で、だって? お嬢ちゃん、君はね、三人もの人を傷つけているんだよ? だから三人分の恨みは受けなきゃいけないの。わかる?」
この男は、長い間こういったことをやってきたのだろう。わざと相手をイライラさせる話し方が身についている様だった。
「そんなのは知らない! 妹を離して!」
「お……姉ちゃん……助けて」
「愛希、大丈夫⁉」
「はいはい。人の話はちゃんと聞きましょうね~」
「なんなのよ、一体」
「ふう……」
溜息を一つついて後の男はゆっくりと話しだした。
「返礼品調達屋。と言えば、お嬢ちゃん世代には“解り”やすいんじゃないかな?」
「まさか……そんなの、ただの噂じゃ……」
――それは“噂に聞いたことがある”と言う程度で、実際自分で遭遇するまでは都市伝説位にしか思っていなかったんだ。
やばいやばいやばい……なによこれ? こいつ等なに? 怖い! 触るな! 来ないで!
……そのとき、その場において、恐怖以外の感情が入り込む余地はなかった。
多分、誰しも突然誘拐なんて目に遭ったら、なにも考えることが出来ずに恐怖と焦りでパニックになる。ましてや女性なら性被害の可能性も考えてしまうのは当然だろう。
身の危険を感じながら、それでも私の頭の中には妹の安否があった。幸い視界に入っている愛希は、口は塞がれているが暴力を振るわれたような形跡はなさそうだ。
それでも危険な状況には変わりが無く、パニックに支配されている脳で必死にここから逃れようと暴れた。『とにかく恐怖から逃れたい』その一心だけだった。
そんな暴れる私を見て“姉を助けよう”とでも思ったのだろうか? 愛希は自分の口を押えている男の手を噛んだ!
「痛って、このガキ!!」
「お姉ちゃ……」
――男は怒り任せに愛希を殴りつけた。幼稚園に通う女の子を、だ。
「愛希!!!」
――殴られ、悲鳴と共に車の床に叩きつけられる愛希。
目の前で起きた出来事に、私は凄まじい怒りを覚えた。なにを考えればいいのか? なにをすればいいのか? それまで混乱していた頭の中を、怒りと言う一つの感情が冷静にさせていた。
怒りを覚えると同時に、私は抵抗を止めた。肩を抑えている男は何が起きたのかわからず、仲間に答えを求める様に視線を合わせる。その瞬間、両手で男の襟首を掴むと、その顎に向けて頭突きを喰らわせた。のけ反り、押さえていた手が外れる。
そのまま右足を掴んでいる男は無視して妹を殴った後部座席の男に殴りかかった。しかし、これは完全にミスだった。いかに体力があるとは言え、男と女の力の差は簡単に埋められるものではない。ましてや、今は三人の男が相手だ。足を掴んでいる男は全体重を乗せて動きを封じて来た。これでは後ろの男に届かない。
「愛希、大丈夫? 愛希⁉」
「うるせーな。このガキが悪いんだろが!」
後ろの男は愛希の後襟を掴み、無理矢理起こした。どこか切ったのだろう、額を血が流れている。
「何でこんなことを……」
「何で、だって? お嬢ちゃん、君はね、三人もの人を傷つけているんだよ? だから三人分の恨みは受けなきゃいけないの。わかる?」
この男は、長い間こういったことをやってきたのだろう。わざと相手をイライラさせる話し方が身についている様だった。
「そんなのは知らない! 妹を離して!」
「お……姉ちゃん……助けて」
「愛希、大丈夫⁉」
「はいはい。人の話はちゃんと聞きましょうね~」
「なんなのよ、一体」
「ふう……」
溜息を一つついて後の男はゆっくりと話しだした。
「返礼品調達屋。と言えば、お嬢ちゃん世代には“解り”やすいんじゃないかな?」
「まさか……そんなの、ただの噂じゃ……」
――それは“噂に聞いたことがある”と言う程度で、実際自分で遭遇するまでは都市伝説位にしか思っていなかったんだ。
20
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話
菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。
そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。
超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。
極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。
生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!?
これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。
魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます
ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう
どんどん更新していきます。
ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる