57 / 196
world:03 殴り殴られ振り振られ
第52話・八白と初代とアンジュラと。
しおりを挟む
「ちょっ、アンジー! なんてことを!」
「ん? どうしたの八白さん」
「どうしたのじゃなくて、死んじゃうじゃん!」
「いや、殺そうとしたんだけど、何かしぶといね」
――ごめん、アンジーは大事な仲間だって思ってる。本当にそう思っているんだけど、目の前で初代新生が死にかけているのを見て……思わず突き飛ばしてしまった。ショックだったんだ、血を吐いて痙攣起こしているのに、剣を刺したまま平然としているから……。
「ベルノ、頼む!」
〔放っておきなさい、八白亜紀〕
「そんな事出来る訳ないだろ。確かに初代新生はムカつくし最低だし殺しても飽き足りない奴だけどさ」
アンジーは異世界のモンスターと戦って、“そういう事”をやってきて慣れているのかもしれない……。でも、それでも殺したらだめだ。こいつには帰る場所があるんだから。
「ミアぴ! ミアぴも手伝って!」
「りょ。亜紀ぴ、ありよりのありな!」
(訳:もちろん! 亜紀ぴの頼みなら全力でやるよ!)
「私も手伝いますわ。恩返しってわけじゃないけど」
セイレーン!? ……いや、今はなんでもいい。誰の手でも借りたい!
「すまん、頼む」
「ベルノちゃんと共同作業ですわ~(ハァハァ……)」
……まあ、今は何も言わんでおこう。この三人に任せるしかないのだから。
「——何でそんな簡単に殺そうとするのさ!」
気が付いたらアンジーに向けて言葉を放っていた。わかってはいたはずなんだ、“敵は容赦しない”という彼女の考えは。でもどこかで彼女を自分の理想像としてしまっていて、アンジーは誰も殺さない人だとウチが勝手に思い込んでいただけなんだ。
「でも、この娘達を解放してあげたいんでしょ?」
「そうだけど、でも、ちゃんと話し合いで……」
「話が通じない相手となにを話すの?」
「――っ」
「八白さんは“会話が成立しない相手がいる”ということを知るべきじゃないかな?」
「でも……それでも……。殺すとかは………………駄目だ」
何ひとつ反論が出来ない。言葉が出てこない……
「八白さんの大切な仲間が殺されようとしていたら、殺そうとして来た相手は力で止めるしかないんじゃないの? 話が通じないならなおさらでしょ? どこかで線を引かないと、絶対に解決はしないよ」
言いたいことはわかる。理解は出来る……でも納得は出来ない。殺して解決するとか最悪のケースじゃないか。だからウチは……
「ウチが、自分自身が力をつけることで……初代新生の力を上回ることで、争いを起こさせないようにって思って……」
「でもそれは、力に対して力をぶつけてるよね? 力を見せて相手の戦意を無くさせる。それは対話と違うんじゃないかな。つまりは話し合いに応じない相手には力を見せるしかないって……八白さん、自分で言っていることにならない?」
だめだ、ド正論すぎてなにひとつ言い返せない。力もないし頭もないし仲間を回復させる事も出来ないし……マジでなんも出来ないじゃないか、ウチって……。
なんか色々と考えていたら、迷いが顔に出ていたのかもしれない。気が付くとティラノが横に立っていて……。握りこぶしをウチの顎にぐりぐりと押し当てて来た。
「ちょ、ティラちゃん!?」
……なにこれ、めちゃイタズラっぽい笑顔でぐりぐりして来てんだけどー?
あれ? ずっと下向いてて気が付かなかったのか……プチ、ガイア、ラミアとベルノも、ウチを見てニコニコしてる。意味がわからんくて……でも嫌な気分じゃなくて。
〔きっと彼女たちにとって……八白亜紀、あなたの考え方が心地よいのでしょう〕
「そういうことなのか? このままでいいのか? なにひとつ反論できないんだぞ……?」
「亜紀っち、ブレんじゃねぇぞ!」
「いいのか? このままで……」
「ったりめーだろ!」
〔否定でもなく、対抗でもなく、共存。それがあなたの立ち位置なのですね〕
ウチは一呼吸を入れて、言葉を選んだ。伝言えたいことを一つ一つ重ねていった。
「アンジー、あまり上手く言えないんだけどさ……。ウチは誰かを犠牲にしてその先にある未来って考えられないんだ。もちろん初代新生は殺したいほど嫌いだけど、だけど、一線を越えたら“みんな”を裏切ってしまう気がする」
「まあ、八白さんは最初からそういうスタンスだったよね。あ、嫌いじゃないよ、そういうのは」
ウチの考えを理解はしてくれているんだ。なんとか上手く伝えなきゃ。言葉を探さなきゃ……
「そ、そしたらさ、アンジー。うちら……」
「だけどさ……」
――この時、アンジーの雰囲気がガラッと変わった。
「このままだと、最後は私達で闘うことになりそうだね」
「ん? どうしたの八白さん」
「どうしたのじゃなくて、死んじゃうじゃん!」
「いや、殺そうとしたんだけど、何かしぶといね」
――ごめん、アンジーは大事な仲間だって思ってる。本当にそう思っているんだけど、目の前で初代新生が死にかけているのを見て……思わず突き飛ばしてしまった。ショックだったんだ、血を吐いて痙攣起こしているのに、剣を刺したまま平然としているから……。
「ベルノ、頼む!」
〔放っておきなさい、八白亜紀〕
「そんな事出来る訳ないだろ。確かに初代新生はムカつくし最低だし殺しても飽き足りない奴だけどさ」
アンジーは異世界のモンスターと戦って、“そういう事”をやってきて慣れているのかもしれない……。でも、それでも殺したらだめだ。こいつには帰る場所があるんだから。
「ミアぴ! ミアぴも手伝って!」
「りょ。亜紀ぴ、ありよりのありな!」
(訳:もちろん! 亜紀ぴの頼みなら全力でやるよ!)
「私も手伝いますわ。恩返しってわけじゃないけど」
セイレーン!? ……いや、今はなんでもいい。誰の手でも借りたい!
「すまん、頼む」
「ベルノちゃんと共同作業ですわ~(ハァハァ……)」
……まあ、今は何も言わんでおこう。この三人に任せるしかないのだから。
「——何でそんな簡単に殺そうとするのさ!」
気が付いたらアンジーに向けて言葉を放っていた。わかってはいたはずなんだ、“敵は容赦しない”という彼女の考えは。でもどこかで彼女を自分の理想像としてしまっていて、アンジーは誰も殺さない人だとウチが勝手に思い込んでいただけなんだ。
「でも、この娘達を解放してあげたいんでしょ?」
「そうだけど、でも、ちゃんと話し合いで……」
「話が通じない相手となにを話すの?」
「――っ」
「八白さんは“会話が成立しない相手がいる”ということを知るべきじゃないかな?」
「でも……それでも……。殺すとかは………………駄目だ」
何ひとつ反論が出来ない。言葉が出てこない……
「八白さんの大切な仲間が殺されようとしていたら、殺そうとして来た相手は力で止めるしかないんじゃないの? 話が通じないならなおさらでしょ? どこかで線を引かないと、絶対に解決はしないよ」
言いたいことはわかる。理解は出来る……でも納得は出来ない。殺して解決するとか最悪のケースじゃないか。だからウチは……
「ウチが、自分自身が力をつけることで……初代新生の力を上回ることで、争いを起こさせないようにって思って……」
「でもそれは、力に対して力をぶつけてるよね? 力を見せて相手の戦意を無くさせる。それは対話と違うんじゃないかな。つまりは話し合いに応じない相手には力を見せるしかないって……八白さん、自分で言っていることにならない?」
だめだ、ド正論すぎてなにひとつ言い返せない。力もないし頭もないし仲間を回復させる事も出来ないし……マジでなんも出来ないじゃないか、ウチって……。
なんか色々と考えていたら、迷いが顔に出ていたのかもしれない。気が付くとティラノが横に立っていて……。握りこぶしをウチの顎にぐりぐりと押し当てて来た。
「ちょ、ティラちゃん!?」
……なにこれ、めちゃイタズラっぽい笑顔でぐりぐりして来てんだけどー?
あれ? ずっと下向いてて気が付かなかったのか……プチ、ガイア、ラミアとベルノも、ウチを見てニコニコしてる。意味がわからんくて……でも嫌な気分じゃなくて。
〔きっと彼女たちにとって……八白亜紀、あなたの考え方が心地よいのでしょう〕
「そういうことなのか? このままでいいのか? なにひとつ反論できないんだぞ……?」
「亜紀っち、ブレんじゃねぇぞ!」
「いいのか? このままで……」
「ったりめーだろ!」
〔否定でもなく、対抗でもなく、共存。それがあなたの立ち位置なのですね〕
ウチは一呼吸を入れて、言葉を選んだ。伝言えたいことを一つ一つ重ねていった。
「アンジー、あまり上手く言えないんだけどさ……。ウチは誰かを犠牲にしてその先にある未来って考えられないんだ。もちろん初代新生は殺したいほど嫌いだけど、だけど、一線を越えたら“みんな”を裏切ってしまう気がする」
「まあ、八白さんは最初からそういうスタンスだったよね。あ、嫌いじゃないよ、そういうのは」
ウチの考えを理解はしてくれているんだ。なんとか上手く伝えなきゃ。言葉を探さなきゃ……
「そ、そしたらさ、アンジー。うちら……」
「だけどさ……」
――この時、アンジーの雰囲気がガラッと変わった。
「このままだと、最後は私達で闘うことになりそうだね」
20
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
異世界でのんびり暮らしたい!?
日向墨虎
ファンタジー
前世は孫もいるおばちゃんが剣と魔法の異世界に転生した。しかも男の子。侯爵家の三男として成長していく。家族や周りの人たちが大好きでとても大切に思っている。家族も彼を溺愛している。なんにでも興味を持ち、改造したり創造したり、貴族社会の陰謀や事件に巻き込まれたりとやたらと忙しい。学校で仲間ができたり、冒険したりと本人はゆっくり暮らしたいのに・・・無理なのかなぁ?
美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
【12/29にて公開終了】愛するつもりなぞないんでしょうから
真朱
恋愛
この国の姫は公爵令息と婚約していたが、隣国との和睦のため、一転して隣国の王子の許へ嫁ぐことになった。余計ないざこざを防ぐべく、姫の元婚約者の公爵令息は王命でさくっと婚姻させられることになり、その相手として白羽の矢が立ったのは辺境伯家の二女・ディアナだった。「可憐な姫の後が、脳筋な辺境伯んとこの娘って、公爵令息かわいそうに…。これはあれでしょ?『お前を愛するつもりはない!』ってやつでしょ?」
期待も遠慮も捨ててる新妻ディアナと、好青年の仮面をひっ剥がされていく旦那様ラキルスの、『明日はどっちだ』な夫婦のお話。
※なんちゃって異世界です。なんでもあり、ご都合主義をご容赦ください。
※新婚夫婦のお話ですが色っぽさゼロです。Rは物騒な方です。
※ざまあのお話ではありません。軽い読み物とご理解いただけると幸いです。
※コミカライズにより12/29にて公開を終了させていただきます。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる