37 / 196
world:02 この娘が味方であの娘が敵で。
第33話・妄想と偽装
しおりを挟む
木々の間をすり抜け、小川の浅瀬を突っ切る。虫の息だという恐竜を助ける為に、ガイアの案内でウチ達は全力で走っていた。……まあ、ウチは全力米俵だけど。
「この岩の……先。デス」
ガイアが指さした大岩の先に巨大な恐竜の脚やしっぽが見える。これはあの娘なのか?
〔どうやら種族はタルボサウルスの様です〕
間違いなさそうだ。ぐったりしたまま頭が半分川に浸かり、半開きの目は虚空を見ていた。
〔まだ息があります。急げば助けられそうですね〕
ウチは慌ててカバンからチョコを取り出して食べさせようとした。だけど、すでにものを飲み込むことが出来ないらしい。
「ベルノ、お願い。痛いの飛ばしてあげて」
「はいニャ!!」
ベルノが瀕死の恐竜を撫でる。いつもみたいに痛いを取って飛ばそうとするが、何故かまったく効果がない。何度も何度も撫でているが……でも、全然効果がなかった。もしかして恐竜には効果ないのか? それとも、手遅れなのか?
「ネネ~! 痛いがダメニャ! 取れないニャ……」
自分の両手を見ながら半泣きのベルノ。すまん、ウチが不甲斐ないばかりに、こんな小さい娘にまで辛い思いをさせてしまった。
「くっ……こんな時でも無力なんか、ウチは」
――いや、まてよ。
女神さんは『チョコを食べさせることが、能力発動のトリガーとなっている様です』と言っていた。つまり、発動スイッチが入ればなんでもいいって話だよな。ってことはもしかして……。
そうだよ、その手があるじゃないか。狭い部屋の中で今迄散々やってきた。宝くじに当たったり、異世界転生したり……アニメの中にはいったりムカつく上司を踏みつぶしたり。
この娘がチョコを食べたと想像するんだ。強くイメージするんだ。そしてそのイメージをトリガーにしてスキルを発動させる。
トリガー無しでライズ化が出来ないのなら、そのトリガーを偽装すればいい。
“妄想力”なら誰にも負けない。今度はウチが、ウチ自身を騙すんだ。
「よし!」
……妄想。
……もうそう……
……もう……もう……
「もう……駄目だ……」
〔どうしたのですか? 八白亜紀〕
「なんか集中が出来なくて、それで……」
目の前に瀕死の娘がいる。気持ちばかり焦ってしまって集中できない。
〔得意な事なのでしょう?〕
「わかってる。でも……」
嫌な事を考えるとどんどん負の妄想が連鎖してしまってイメージするどころの話じゃない。
「ウチの限界……なのかな……」
〔なにを言っているのですか八白亜紀〕
「でも、経験上わかっちゃうんだ、限界が」
ブラック企業で学んだ唯一のこと。自分の限界点。
〔そんなものは役に立ちませんよ。ヒトは日々成長するものです。限界点だってその分あがりますよ〕
もっともなことを言っているように感じるけど、実際そんな簡単な話じゃない。一流アスリートだって、自身の限界を超える為に毎日努力してやっと到達する様な次元の話なんだから。限界点がそんな簡単に伸びる訳ないっての。そんなのは小学生でもわかる話だぞ。
……でも、今はやるしかない。ウチにしか出来ないんだ。だから、女神さんの発破にのってやる。
もう一度だ。焦っちゃダメだ。ウチは、カバンから取り出したチョコを口いっぱいに放り込み、目を瞑った。
頭の中からひとつひとつ余計な物事を消す。不安なこと、解らないこと、過去の自分や異世界のこと。
風に乗って、草花の緑の香りが運ばれて来た。ちょろちょろと小川のせせらぎが聞こえてくる。大自然の中ってこんなに心地良いんだ。考えてみれば子供の頃ってこういう場所で走り回っていたよな。草に寝転がったり四葉のクローバーを探したり。
いつの日からだろう、部屋に籠ってゲームすることが日常の全てになったのは。
いつの日からだろう、他人を見なくなったのは。
いつの日からだろう、自分の将来を考えない様になったのは。
でもまあ、そんな令和時代の過去はどうでもいいや。今はもう関係ないんだし。仲間と楽しくやれている今が最高じゃないか。——うん、これは心底そう思うな。今はこの娘達といるのが楽しいというか心地よいというか。むしろ白亜紀に来れて良かったって思うわ。……なんてことは絶対女神さんには言えないけど。
……なんか色々とスッキリしてきたぞ。
あれ、口の中が甘い。そうだチョコ食べていたんだっけ。
濃厚なミルクチョコが口の中で溶けていく。トロッとした、香ばしく甘い粒が少しずつ喉の奥に流れていく。
〈……さあ飲み込むんだ。そして恐竜は段々と小さくなっていき、小さく可愛らしい女の子に変身する。〉
少しずつ、鳩尾のあたりになにか熱いものが産まれてくるのを感じる。それは段々と身体全体に広がり、やがて、両手に集まって来た。
「うわっ……なんだこれ⁉」
両手に熱を感じ目を開けてみると、掌から薄い青色の光が出ていた。その光を目の前の恐竜に当てる様に掌を返し、そっと触れてみる。すると、恐竜は少しずつ小さくなり、やがて人の形を形成していった。
〔……それが真のライズ化なんだからね!〕
「この岩の……先。デス」
ガイアが指さした大岩の先に巨大な恐竜の脚やしっぽが見える。これはあの娘なのか?
〔どうやら種族はタルボサウルスの様です〕
間違いなさそうだ。ぐったりしたまま頭が半分川に浸かり、半開きの目は虚空を見ていた。
〔まだ息があります。急げば助けられそうですね〕
ウチは慌ててカバンからチョコを取り出して食べさせようとした。だけど、すでにものを飲み込むことが出来ないらしい。
「ベルノ、お願い。痛いの飛ばしてあげて」
「はいニャ!!」
ベルノが瀕死の恐竜を撫でる。いつもみたいに痛いを取って飛ばそうとするが、何故かまったく効果がない。何度も何度も撫でているが……でも、全然効果がなかった。もしかして恐竜には効果ないのか? それとも、手遅れなのか?
「ネネ~! 痛いがダメニャ! 取れないニャ……」
自分の両手を見ながら半泣きのベルノ。すまん、ウチが不甲斐ないばかりに、こんな小さい娘にまで辛い思いをさせてしまった。
「くっ……こんな時でも無力なんか、ウチは」
――いや、まてよ。
女神さんは『チョコを食べさせることが、能力発動のトリガーとなっている様です』と言っていた。つまり、発動スイッチが入ればなんでもいいって話だよな。ってことはもしかして……。
そうだよ、その手があるじゃないか。狭い部屋の中で今迄散々やってきた。宝くじに当たったり、異世界転生したり……アニメの中にはいったりムカつく上司を踏みつぶしたり。
この娘がチョコを食べたと想像するんだ。強くイメージするんだ。そしてそのイメージをトリガーにしてスキルを発動させる。
トリガー無しでライズ化が出来ないのなら、そのトリガーを偽装すればいい。
“妄想力”なら誰にも負けない。今度はウチが、ウチ自身を騙すんだ。
「よし!」
……妄想。
……もうそう……
……もう……もう……
「もう……駄目だ……」
〔どうしたのですか? 八白亜紀〕
「なんか集中が出来なくて、それで……」
目の前に瀕死の娘がいる。気持ちばかり焦ってしまって集中できない。
〔得意な事なのでしょう?〕
「わかってる。でも……」
嫌な事を考えるとどんどん負の妄想が連鎖してしまってイメージするどころの話じゃない。
「ウチの限界……なのかな……」
〔なにを言っているのですか八白亜紀〕
「でも、経験上わかっちゃうんだ、限界が」
ブラック企業で学んだ唯一のこと。自分の限界点。
〔そんなものは役に立ちませんよ。ヒトは日々成長するものです。限界点だってその分あがりますよ〕
もっともなことを言っているように感じるけど、実際そんな簡単な話じゃない。一流アスリートだって、自身の限界を超える為に毎日努力してやっと到達する様な次元の話なんだから。限界点がそんな簡単に伸びる訳ないっての。そんなのは小学生でもわかる話だぞ。
……でも、今はやるしかない。ウチにしか出来ないんだ。だから、女神さんの発破にのってやる。
もう一度だ。焦っちゃダメだ。ウチは、カバンから取り出したチョコを口いっぱいに放り込み、目を瞑った。
頭の中からひとつひとつ余計な物事を消す。不安なこと、解らないこと、過去の自分や異世界のこと。
風に乗って、草花の緑の香りが運ばれて来た。ちょろちょろと小川のせせらぎが聞こえてくる。大自然の中ってこんなに心地良いんだ。考えてみれば子供の頃ってこういう場所で走り回っていたよな。草に寝転がったり四葉のクローバーを探したり。
いつの日からだろう、部屋に籠ってゲームすることが日常の全てになったのは。
いつの日からだろう、他人を見なくなったのは。
いつの日からだろう、自分の将来を考えない様になったのは。
でもまあ、そんな令和時代の過去はどうでもいいや。今はもう関係ないんだし。仲間と楽しくやれている今が最高じゃないか。——うん、これは心底そう思うな。今はこの娘達といるのが楽しいというか心地よいというか。むしろ白亜紀に来れて良かったって思うわ。……なんてことは絶対女神さんには言えないけど。
……なんか色々とスッキリしてきたぞ。
あれ、口の中が甘い。そうだチョコ食べていたんだっけ。
濃厚なミルクチョコが口の中で溶けていく。トロッとした、香ばしく甘い粒が少しずつ喉の奥に流れていく。
〈……さあ飲み込むんだ。そして恐竜は段々と小さくなっていき、小さく可愛らしい女の子に変身する。〉
少しずつ、鳩尾のあたりになにか熱いものが産まれてくるのを感じる。それは段々と身体全体に広がり、やがて、両手に集まって来た。
「うわっ……なんだこれ⁉」
両手に熱を感じ目を開けてみると、掌から薄い青色の光が出ていた。その光を目の前の恐竜に当てる様に掌を返し、そっと触れてみる。すると、恐竜は少しずつ小さくなり、やがて人の形を形成していった。
〔……それが真のライズ化なんだからね!〕
20
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]
ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。
「さようなら、私が産まれた国。
私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」
リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる──
◇婚約破棄の“後”の話です。
◇転生チート。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^
◇なので感想欄閉じます(笑)
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話
菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。
そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。
超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。
極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。
生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!?
これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。
素材採取家の異世界旅行記
木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。
可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。
個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。
このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。
この度アルファポリスより書籍化致しました。
書籍化部分はレンタルしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる