27 / 196
world:02 この娘が味方であの娘が敵で。
第24話・Raise your flag
しおりを挟む
隙間なくびっしりと生えている樹木。太陽の光が全く差し込まず、薄暗くジメジメしたこの場所で遭遇した猫耳転移者。濃紫のジャケットにピンクのロングヘア。……そして真っ黒の腹の中。
彼女は仲間として白亜紀に来たのではなく、魔王軍討伐のライバルとして降り立った。ウチと決定的に違うのは、来る場所も目的も最初からわかっていたということ。そして口にしていた『クリア報酬』という言葉。魔王軍を倒せば報酬が出るというのは想像出来るけど、こんな場所に来てまで欲しい物って何だろうか……?
♢
「こらこらこらこら、だから全裸やめって!」
突然、特攻服を脱ぎ始めたルカ。
「上着だけっスよ、姐さん。今から戦うのに全裸になる訳ないじゃないっスか」
「え~。隙あらば脱ぐスタイルなのかと思ってたよ。……なんだろう、この敗北感は」
脱いだ上着を丁寧にたたみ『頼みます』とウチに手渡すルカ。
以前観たアメリカの動画でものすごく印象に残っている物がある。風にあおられて地面に落ちていた星条旗、それを見つけた退役軍人がとった行動だ。拾い上げて丁寧にたたみ、その家の軒下にある宅配BOXの上にそっと置いた。地面に直接触れない様にと言う配慮が伝わってくる。そして彼は最後に、星条旗に敬礼をして去って行く。
その人は自分の国に誇りを持ち、国旗にまで敬意を表していた。ルカの行動を見ていたら、何かそれに通じるものを感じたんだ。このティラノとおそろいの特攻服は本当に大事な物、ルカにとっての“掲げるべき旗”なのだろう。
「よっしゃ、準備完了! タルボ、悪いけど本気で行かせてもらうっスよ」
トントンッと軽くステップを踏み、右脚を引いて構えながら拳を握り込むルカ。この辺りが薄暗いせいもあるのだろう、右拳に巻かれている鎖からは、ビリビリと放出する雷の光がハッキリと見えた。
対するタルボが持つのは、身長と同じくらいの長さのあるバトルハンマー。破壊力はかなりありそうだ。しかし彼女は武器を構えようとする気配すらなかった。闘争心というか、戦おうって気配が全くしない。
「姐さん、どうしましょうか?」
ウチがそう感じるくらいだから、ルカはもっと違和感を覚えてたのだろう。彼女は視線をタルボから外さずに指示を求めて来た。
「とりあえず、あの子は出来るだけ傷つけずに、敵のボスだけを狙って無力化しよう」
「了解っス!」
あの覇気のなさはむしろ異常だよ。怪我している訳でもないし、どういうことなのだろう? そんな彼女に指示を出す腹黒の猫耳転移者……こいつは猫耳ブラックとでも呼ぼうか。
「タルボ、さっさとやっちまいな!」
言われるがまま突っ込んでくるタルボ。なんと、得物のバトルハンマーをその場に置き、非武装の状態だ。
これに一番意表を突かれたのはルカだったと思う。多分頭の中では、振り降ろされるハンマーを紙一重で避け攻撃に転じるとかシミュレーションしていたのかもしれない。
それでも小柄なタルボのタックルはそれほど突進力がある訳でもなく、ルカは労せずして受け止めていた。意味の無い一手に思え、一瞬『なにをしたいんだ?』と考えたことに誤算があった。
……タルボはそのまま腰に腕を回すと、ガッチリとルカにしがみ付き放さない。
「くっ、重いっス」
タルボに下半身を押さえつけられているルカ。『重い』と表現されたその力は、単に捕まえているだけでなく、しっかりと押さえつけていると言うことだ。その小柄な身体からはとても想像が出来ない力で、ルカは機動力を封じられてしまった。
「侮っていたわけじゃないっスけど……」
……予想以上だった、と。
「アクロ、スピノ、行け!」
猫耳ブラックの命令で左右から飛び出してきた二人の恐竜人。
「え、まだいたのか……」
タルボに戦闘意思を感じなかったのは、そもそも戦うつもりがなく、ルカを動けなくするための役割だったのか。
ル左側から杖の様な物で殴りかかってきた猫耳ブラックの恐竜人。その攻撃を両手でガッチリと受け止めるルカ。彼女のフィジカルがジュラシック最恐のティラノと同等だとしても、三対一ともなると流石に対応しきれなくなる。両手がふさがっているルカに、攻撃を仕掛ける三人目の猫耳ブラック恐竜人。
――これはヤバイ! と感じたその瞬間、ウチの身体は勝手に動いていた。恐竜人の力に猫人が対抗できるわけがないのに。
好きだったゲームの中で言っていたんだ。『誰かを助けるのに理由がいるのかい?』リアルで一度言ってみたい言葉No.1に選ばれた伝説的セリフ。今のウチはまさしくこんな感じだった。
正直、結構ヤケでやったと思う。猫人の瞬発力を活かして一気に加速し、ジャンプと同時に足を手で抱え込み前方回転! 丸まった猫人が弾となって右から来ている恐竜人に一直線だ。流石にこれは想定していなかったのだろう、防御が間に合わず猫玉アタックがクリーンヒットした。三人目の猫耳ブラック恐竜人は、二~三歩後ずさった所で木の根に足を取られて転倒してしまう。
「姐さん、やるっスね!」
「おうよ、まかせろ!」
うわ……良かった……死ぬかと思った……冷や汗すげー。滅茶苦茶ドキがむねむねしてるわ。……ヤバイ、マジヤバイ。震える手でサムズアップしてひきつった笑顔で答えてみたけど……バレたかな?
そもそもウチは戦闘民族じゃないし、体動かすこともなかったからな。我ながら奇跡的な攻撃だよ。
「特攻服に勇気をもらったよ」
「姐さん……」
絶対に汚しちゃいけないと思って、抱え込んだまま猫玉になっていたんだけど、それが気持ちの上でプラスに働いた感じだ。なんか上手く説明出来ないけどさ、仲間がいるって心強いって思えたんだ。
なんてちょっといい気分に浸っていたら、妖精の形をしたイセカサギノメガサウルスがひと言。
〔八白亜紀、こういう時にジュラたまを使えば良かったのでは?〕
……あ、忘れてた。
彼女は仲間として白亜紀に来たのではなく、魔王軍討伐のライバルとして降り立った。ウチと決定的に違うのは、来る場所も目的も最初からわかっていたということ。そして口にしていた『クリア報酬』という言葉。魔王軍を倒せば報酬が出るというのは想像出来るけど、こんな場所に来てまで欲しい物って何だろうか……?
♢
「こらこらこらこら、だから全裸やめって!」
突然、特攻服を脱ぎ始めたルカ。
「上着だけっスよ、姐さん。今から戦うのに全裸になる訳ないじゃないっスか」
「え~。隙あらば脱ぐスタイルなのかと思ってたよ。……なんだろう、この敗北感は」
脱いだ上着を丁寧にたたみ『頼みます』とウチに手渡すルカ。
以前観たアメリカの動画でものすごく印象に残っている物がある。風にあおられて地面に落ちていた星条旗、それを見つけた退役軍人がとった行動だ。拾い上げて丁寧にたたみ、その家の軒下にある宅配BOXの上にそっと置いた。地面に直接触れない様にと言う配慮が伝わってくる。そして彼は最後に、星条旗に敬礼をして去って行く。
その人は自分の国に誇りを持ち、国旗にまで敬意を表していた。ルカの行動を見ていたら、何かそれに通じるものを感じたんだ。このティラノとおそろいの特攻服は本当に大事な物、ルカにとっての“掲げるべき旗”なのだろう。
「よっしゃ、準備完了! タルボ、悪いけど本気で行かせてもらうっスよ」
トントンッと軽くステップを踏み、右脚を引いて構えながら拳を握り込むルカ。この辺りが薄暗いせいもあるのだろう、右拳に巻かれている鎖からは、ビリビリと放出する雷の光がハッキリと見えた。
対するタルボが持つのは、身長と同じくらいの長さのあるバトルハンマー。破壊力はかなりありそうだ。しかし彼女は武器を構えようとする気配すらなかった。闘争心というか、戦おうって気配が全くしない。
「姐さん、どうしましょうか?」
ウチがそう感じるくらいだから、ルカはもっと違和感を覚えてたのだろう。彼女は視線をタルボから外さずに指示を求めて来た。
「とりあえず、あの子は出来るだけ傷つけずに、敵のボスだけを狙って無力化しよう」
「了解っス!」
あの覇気のなさはむしろ異常だよ。怪我している訳でもないし、どういうことなのだろう? そんな彼女に指示を出す腹黒の猫耳転移者……こいつは猫耳ブラックとでも呼ぼうか。
「タルボ、さっさとやっちまいな!」
言われるがまま突っ込んでくるタルボ。なんと、得物のバトルハンマーをその場に置き、非武装の状態だ。
これに一番意表を突かれたのはルカだったと思う。多分頭の中では、振り降ろされるハンマーを紙一重で避け攻撃に転じるとかシミュレーションしていたのかもしれない。
それでも小柄なタルボのタックルはそれほど突進力がある訳でもなく、ルカは労せずして受け止めていた。意味の無い一手に思え、一瞬『なにをしたいんだ?』と考えたことに誤算があった。
……タルボはそのまま腰に腕を回すと、ガッチリとルカにしがみ付き放さない。
「くっ、重いっス」
タルボに下半身を押さえつけられているルカ。『重い』と表現されたその力は、単に捕まえているだけでなく、しっかりと押さえつけていると言うことだ。その小柄な身体からはとても想像が出来ない力で、ルカは機動力を封じられてしまった。
「侮っていたわけじゃないっスけど……」
……予想以上だった、と。
「アクロ、スピノ、行け!」
猫耳ブラックの命令で左右から飛び出してきた二人の恐竜人。
「え、まだいたのか……」
タルボに戦闘意思を感じなかったのは、そもそも戦うつもりがなく、ルカを動けなくするための役割だったのか。
ル左側から杖の様な物で殴りかかってきた猫耳ブラックの恐竜人。その攻撃を両手でガッチリと受け止めるルカ。彼女のフィジカルがジュラシック最恐のティラノと同等だとしても、三対一ともなると流石に対応しきれなくなる。両手がふさがっているルカに、攻撃を仕掛ける三人目の猫耳ブラック恐竜人。
――これはヤバイ! と感じたその瞬間、ウチの身体は勝手に動いていた。恐竜人の力に猫人が対抗できるわけがないのに。
好きだったゲームの中で言っていたんだ。『誰かを助けるのに理由がいるのかい?』リアルで一度言ってみたい言葉No.1に選ばれた伝説的セリフ。今のウチはまさしくこんな感じだった。
正直、結構ヤケでやったと思う。猫人の瞬発力を活かして一気に加速し、ジャンプと同時に足を手で抱え込み前方回転! 丸まった猫人が弾となって右から来ている恐竜人に一直線だ。流石にこれは想定していなかったのだろう、防御が間に合わず猫玉アタックがクリーンヒットした。三人目の猫耳ブラック恐竜人は、二~三歩後ずさった所で木の根に足を取られて転倒してしまう。
「姐さん、やるっスね!」
「おうよ、まかせろ!」
うわ……良かった……死ぬかと思った……冷や汗すげー。滅茶苦茶ドキがむねむねしてるわ。……ヤバイ、マジヤバイ。震える手でサムズアップしてひきつった笑顔で答えてみたけど……バレたかな?
そもそもウチは戦闘民族じゃないし、体動かすこともなかったからな。我ながら奇跡的な攻撃だよ。
「特攻服に勇気をもらったよ」
「姐さん……」
絶対に汚しちゃいけないと思って、抱え込んだまま猫玉になっていたんだけど、それが気持ちの上でプラスに働いた感じだ。なんか上手く説明出来ないけどさ、仲間がいるって心強いって思えたんだ。
なんてちょっといい気分に浸っていたら、妖精の形をしたイセカサギノメガサウルスがひと言。
〔八白亜紀、こういう時にジュラたまを使えば良かったのでは?〕
……あ、忘れてた。
20
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
何故、わたくしだけが貴方の事を特別視していると思われるのですか?
ラララキヲ
ファンタジー
王家主催の夜会で婚約者以外の令嬢をエスコートした侯爵令息は、突然自分の婚約者である伯爵令嬢に婚約破棄を宣言した。
それを受けて婚約者の伯爵令嬢は自分の婚約者に聞き返す。
「返事……ですか?わたくしは何を言えばいいのでしょうか?」
侯爵令息の胸に抱かれる子爵令嬢も一緒になって婚約破棄を告げられた令嬢を責め立てる。しかし伯爵令嬢は首を傾げて問返す。
「何故わたくしが嫉妬すると思われるのですか?」
※この世界の貴族は『完全なピラミッド型』だと思って下さい……
◇テンプレ婚約破棄モノ。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話
菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。
そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。
超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。
極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。
生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!?
これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる