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world:01 猫耳転生とJ世代
第7話・根性?
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勢いで川に入ったものの思った以上に深く、数歩進んだだけでヒザくらいまでの深さになった。水圧も凄いしおまけに足元がすべる。
「ベルノ、待ってて……」
流されるのを計算して上流から泳いだほうが良いのだろうか? それともこのまま進んだ方が良いのか? こんな状況は初めてでなにもわからないし……誰も頼れないし。
〔八白亜紀、危険です。戻ってください〕
「うるさい、騒ぐだけなら黙っててくれ」
「お~い、手を貸すってば……」
「いらないって言ってんだろ」
女神もティラノもうるさい。しつこい。こんな先の見えない世界で見つけた本当の家族なんだ。黙って見てるなんて出来るわけないだろ。あの子はウチが守らないといけないんだ。
……しかし助けたいという願いとは裏腹に、一歩も動くことのできない状況が続いた。身動きが取れずに立ち往生している間も、『み~み~』と泣いているベルノ。
その時水面に、川の流れとは違うおかしな波が見えた。どうやら水中に何かいるみたいだ。ときおり水面が盛り上がり、ワニの背中の様なものが見える。これなのか……怯え、震えている理由はこれだったのか。
「こんな時代にもワニがいるのかよ……」
かなりでかい。体長は5~6メートルくらいか。
とりあえず中州に上がってはいないけど、急いだほうが良さそうだ。ベルノの体力がどのくらい持つかわからない。水をかぶって凍えている様にも見える。なにより水中のワニがいつ上がって来てもおかしくないのだから。
〔八白亜紀、川上を見なさい!〕
「マスターさん、戻ってください!」
岸から見ている彼女達には、ワニの動きが見えていたのだろう。『なにか手はないか?』と必死になっていたウチには捕食者の挙動が見えていなかった。
普通に考えれば当たり前の話だ。ワニにしてみれば、自分の領域に大きな獲物が入ってきているのに、それをいただかないなんて考えられない。ましてや、それが滅多に無い食事の機会ならなおさらのこと。
わざわざ水の中に入ってきた獲物。
身動きが出来ずに立ち往生している大きな獲物。
……それが今のウチって事だ。
そして自らエサになっていたと気付いたときには、すでにヤツの鋭い歯が目の前にあった。
――避けられない! その瞬間、あまりの恐怖に目をつむり、身体を強張らせてしまった。
「……」
「お~い、大丈夫か~?」
次にウチが目を開けたのは、このひと言が聞こえたときだ。
目に飛び込んできたのは『帝羅乃』という金色の刺繍文字。そして、細身だけど力強い背中。ティラノが助けに入ってくれたのだと理解するのと同時に、ウチは、大きな安心感を感じていた。
「え……どうして?」
「どうしてって言われてもなぁ。理由がなきゃダメなのか?」
ウチは、『話にならん』と彼女との対話を拒否した。
ウチは、『家族に触れるな!』と彼女の助けを否定した。
……なのにティラノは迷いなく飛び込んで来てくれた。
「ティラノさん、それ……」
噛みつこうとするワニの巨大な口を、ティラノは両手で受け止めていた。その鋭い牙が手のひらに刺さっているのだろう、彼女の手からいく筋もの血が流れている。
「こんなのいつものことだぜ。それよりも、踏ん張っておけよ!」
「踏ん張るってどうやって」
「そりゃオメー……根性?」
直後、ティラノは猛獣のごとき咆哮と共に、ワニを持ち上げて下流にぶん投げた!
「っておい、マジかよ……」
昔ニュースで見た記憶がある。【6メートルの巨大ワニが発見される。その重量、なんと1トン!!】という内容だ。そんなものを投げたのか、この少女が……。
ティラノは、両足以外にも恐竜の尻尾を使って三点で体を支え、滑りやすい足場をしっかりととらえていた。だからこそ流れに負けることもなく、超重量のワニを投げ飛ばせたのだと思う。
だけどウチには身体を支える強靭な尻尾はなかった。フワフワ愛らしい猫の尻尾だ。バランスを取ることは出来ても、滑る足場で身体を固定する能力はない。つまりそれがどういうことかと言うと……
ティラノがワニを投げるときのパワーに気圧されて、ウチは足をすべらせ……そのまま流れに飲まれてしまったんだ。
「ベルノ、待ってて……」
流されるのを計算して上流から泳いだほうが良いのだろうか? それともこのまま進んだ方が良いのか? こんな状況は初めてでなにもわからないし……誰も頼れないし。
〔八白亜紀、危険です。戻ってください〕
「うるさい、騒ぐだけなら黙っててくれ」
「お~い、手を貸すってば……」
「いらないって言ってんだろ」
女神もティラノもうるさい。しつこい。こんな先の見えない世界で見つけた本当の家族なんだ。黙って見てるなんて出来るわけないだろ。あの子はウチが守らないといけないんだ。
……しかし助けたいという願いとは裏腹に、一歩も動くことのできない状況が続いた。身動きが取れずに立ち往生している間も、『み~み~』と泣いているベルノ。
その時水面に、川の流れとは違うおかしな波が見えた。どうやら水中に何かいるみたいだ。ときおり水面が盛り上がり、ワニの背中の様なものが見える。これなのか……怯え、震えている理由はこれだったのか。
「こんな時代にもワニがいるのかよ……」
かなりでかい。体長は5~6メートルくらいか。
とりあえず中州に上がってはいないけど、急いだほうが良さそうだ。ベルノの体力がどのくらい持つかわからない。水をかぶって凍えている様にも見える。なにより水中のワニがいつ上がって来てもおかしくないのだから。
〔八白亜紀、川上を見なさい!〕
「マスターさん、戻ってください!」
岸から見ている彼女達には、ワニの動きが見えていたのだろう。『なにか手はないか?』と必死になっていたウチには捕食者の挙動が見えていなかった。
普通に考えれば当たり前の話だ。ワニにしてみれば、自分の領域に大きな獲物が入ってきているのに、それをいただかないなんて考えられない。ましてや、それが滅多に無い食事の機会ならなおさらのこと。
わざわざ水の中に入ってきた獲物。
身動きが出来ずに立ち往生している大きな獲物。
……それが今のウチって事だ。
そして自らエサになっていたと気付いたときには、すでにヤツの鋭い歯が目の前にあった。
――避けられない! その瞬間、あまりの恐怖に目をつむり、身体を強張らせてしまった。
「……」
「お~い、大丈夫か~?」
次にウチが目を開けたのは、このひと言が聞こえたときだ。
目に飛び込んできたのは『帝羅乃』という金色の刺繍文字。そして、細身だけど力強い背中。ティラノが助けに入ってくれたのだと理解するのと同時に、ウチは、大きな安心感を感じていた。
「え……どうして?」
「どうしてって言われてもなぁ。理由がなきゃダメなのか?」
ウチは、『話にならん』と彼女との対話を拒否した。
ウチは、『家族に触れるな!』と彼女の助けを否定した。
……なのにティラノは迷いなく飛び込んで来てくれた。
「ティラノさん、それ……」
噛みつこうとするワニの巨大な口を、ティラノは両手で受け止めていた。その鋭い牙が手のひらに刺さっているのだろう、彼女の手からいく筋もの血が流れている。
「こんなのいつものことだぜ。それよりも、踏ん張っておけよ!」
「踏ん張るってどうやって」
「そりゃオメー……根性?」
直後、ティラノは猛獣のごとき咆哮と共に、ワニを持ち上げて下流にぶん投げた!
「っておい、マジかよ……」
昔ニュースで見た記憶がある。【6メートルの巨大ワニが発見される。その重量、なんと1トン!!】という内容だ。そんなものを投げたのか、この少女が……。
ティラノは、両足以外にも恐竜の尻尾を使って三点で体を支え、滑りやすい足場をしっかりととらえていた。だからこそ流れに負けることもなく、超重量のワニを投げ飛ばせたのだと思う。
だけどウチには身体を支える強靭な尻尾はなかった。フワフワ愛らしい猫の尻尾だ。バランスを取ることは出来ても、滑る足場で身体を固定する能力はない。つまりそれがどういうことかと言うと……
ティラノがワニを投げるときのパワーに気圧されて、ウチは足をすべらせ……そのまま流れに飲まれてしまったんだ。
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