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第11章

11-11ロックオン

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 湧似の泉の話だと(ほとんどが坂戸の解説だったが…)クリーチャーはソウルコンバーターから現れたらしい。だが、そのソウルコンバーターは全て富裕層が奪取し魔改造した個体だということが判明している。
 EDO CITYで購入されたものからは、クリーチャーなどの化け物が現れることがなかったから、クリーチャーの出現情報を得るまでに相当の時間がかかってしまった。
 それが事態を最悪な状況にまで追い込んだ最大の原因だった。
 EDO CITYの住人が、富裕層の支配していた中央街区の異常に気付いた時は既に壊滅状態だったらしい。
 最初は天罰だとか、これで悪政が終わるなどと喜んでいたEDO CITYの住人も、中央街区から溢れ出したクリーチャーの被害が拡大するに従い、防衛対策をせざるを得なくなる。

 「なるほどねぇ。対岸の火事だと思って油断してたら、火の粉が降りかかってきた…と?」
 いずみは半分呆れ顔で呟いた。
 「な、なんだとっ!」
 「お恥ずかしい。リーダー、反論の余地はありませんよ。確かに我々は自分たちの生活を維持することに気を取られて、状況確認を怠ってましたから」
 顔を真っ赤にしていずみに喰ってかかりかけた、湧似の泉を押さえつけながら坂戸は言う。
 「でも、変ね。なんで富裕層ばかりの中央街区ってところが狙われたのかな?」
 「だからそれは裏ルートで購入したソウルコンバーターだからじゃ…?…あ、確かに変だ」
 坂戸がいずみの意見に賛同を示した。
 「?どういうこと…、あっ! そういうことかっ!」
 一拍遅れて、湧似の泉も思い至ったらしい。
 「リーダー、我々は大きな勘違いをしていたのでは?」
 「そうだな。これで全て辻褄が合う」
 いずみを放置して二人で納得しあう。
 「ちょっとちょっと、何なのよ。勝手に納得して」
 「ああ、説明しましょう。我々の世界ではソウルコンバーターによって、終末的危機は阻止されましたが、中央街区で発見されたものは全くの別物でした」
 「でもソウルコンバーターだったんでしょう? 別物ってどういうこと?」
 「破壊されたシステムには確かに『ソウルコンバーター』と表示があったんですが、我々が所有していたものと大きさも形もかなり違ってました」
 坂戸は中央街区の調査隊として、潜入調査に参加していたらしい。
 その時、クリーチャーなる怪物がどこから現れたのか調べてみると、ソウルコンバーター(らしきもの)の出力コンテナというケースから出てきた形跡を見つけた。
 EDO CITYのソウルコンバーターは電力しか出力しないので、そんなケースは無い。せいぜい蓄電ユニットぐらいだ。
 そもそもソウルコンバーターは個人的な創作物で、企業製品では無いのだ。
 「EDO CITYは政府からも見放された、いわゆる放置地区であり、そこではまともな機械製品ができるはずもなかった。それだけにソウルコンバーターのような画期的な装置は、まさに奇跡としか言いようがなかったのです」
 「奇跡ねぇ。生産設備が無いのにどうやって作ったんだろうねぇ?」
 いずみは何気なく核心を突いた発言をした。
 「そこなんです。なぜ我々はソウルコンバーターに疑問を持たなかったのか? 今になって気づくなんて…、あまりにもおかしすぎる」
 「まるで集団催眠にでもかかっていたような気分だ」
 湧似の泉が他人事のように呟いた。
 「う~ん。誰かが中央街区を壊滅させるために企んだ? とか?」
 「「!」」
 湧似の泉と坂戸は凍りつく。
 「ま、さ、か。『如月 優』では?」
 「俺も今、そう思った。そうならソウルコンバーターの波及に懸命だったのもうなづける」
 「? どういうこと? さっきは敵のような言い方だったのに…」
 「つまり富裕層の中央街区がある限り、EDO CITYに未来はないのです。そこで確実に中央街区の住人が関心を得るもの、それは電力です」
 「え? でも中央街区には電力網が完備されてるんでしょ? それなのに?」
 いずみは坂戸の説明に疑問を感じた。
 「それです。中央街区の住人は電力なしには生活できません。いわゆるオール電化システムであり、そのためには高い電力使用料金を支払う義務が生じます」
 「ああ、そういうこと! なら自家発電に近いソウルコンバーターは大助かりね」
 「その通りです。政府も核融合発電システムを実用化できていればこんな問題は起こらなかったでしょう」
 「しかし、陰陽師が認めなかった。生活が便利になれば、自分たちの存在意義に疑問を持たれる可能性があったからだ」
 湧似の泉は吐き捨てるように呟いた。
 「エエッー? そんな利己的な」
 「奴らは昔から利己的だぞ」
 つまらなそうに吐き捨てた。
 「…そうなると、ソウルコンバーターは最初から計算されて普及されたってこと? でもどこで製造してるのよ?」
 「そこが全く分からなかったんだよ」
 「だってトラック約4台分で1システムなんでしょ? そんなの大きさのもの極秘で製造できるわけないじゃい」
 「トラック? ああ、輸送用車輛のことか。俺たちの世界のソウルコンバーターはそんなに大きくないってさっき言ったろ?」
 「あ、そうか。実際はどのくらいの大きさなの?」
 いずみは小首を傾げて聞き返した。
 「まぁ、この部屋の3分の1くらいでしょう。中身はもっと小さな部品で構成されています」
 「え? 坂戸さんは中身も見たことがあるの?」
 「ああ、俺たちのエリアの管理者だったからな」
 湧似の泉がドヤ顏で返す。
 「なるほど。その程度なら気付かれずに設置も可能ね」
 湧似の泉は相手にせず、いずみは坂戸に話し返す。
 「気付かれずに? …! まさかっ! リーダーあの噂!」
 「あの噂? あ! そういえば!」
 二人は驚きの表情で顔を見合わせる。
 「いきなり何なのよ? その噂って何?」
 話が見えないいずみは少し苛立った。
 「実は『如月 優』に不信感持っていたんですが、その原因が“異世界から来た姫”なんていう肩書きだったからです」
 「は? “異世界から来た姫”ぇ~~~~? 受けるんですがぁ」
 「まあ、大抵はそうだよな」
 珍しく湧似の泉が間髪入れずに同意した。
 「と、最初はキャッチコピーだと思っていたものの、あまりにもソウルコンバーターの販売が好調で、それだけの数量をどこから入手しているのか疑問を持ち始めました」
 「坂戸さんが管理していた装置って、整備とかはどうしていたの?」
 「メンテナンスフリーということで、私たちは装置自体の整備は一切してません」
 「え? じゃあ何を管理していたのよ?」
 「装置周辺の警備や不法な利用者を摘発するなど、正常な運転ができるようにです」
 「なるほど。ということはソウルコンバーター自体の知識はないということね?」
 いずみは何事か思い出しながら、二人に説明すべきか考えていた。
 「これから話すことは、私の世界のことだからどこまで通用するかわからないけど、ソウルコンバーター絡みでこの時代にやってきたのなら関係あると思うの」
 いずみはこの時代にやってきた経緯を二人に詳しく説明した。
 そこまでこの二人に気を許せるようになっていたのだった。
 「そもそも私がこの時代に来たのもさっき話したように、あなたたちと同じくソウルコンバーターを悪用した導尊の討伐なの」
 「なるほど。ただ分からないのは、私たちが使っていたソウルコンバーター自体は全く問題なく電力を供給していました。と、なるとあなた方の世界のソウルコンバーターは、中央街区で使われていたものと同じタイプということになります」
 「あ、そうか。そういえばクリーチャーが出現する前に、ソウルコンバーターの周りには怪異が頻発してたの」
 「怪異? 幽霊とか人外とか妖怪みたいなものか?」
 「そうそう、それであまりにも集中的に現れるから原因を調査したら、そのほとんどがソウルコンバーターの周囲なの」
 「人外というのは一種の思念エネルギーだと思われるので、ソウルコンバーターの原料になります。ならば引き寄せられたと考えたほうがいいでしょう」
 「そして取り込まれる? と?」
 「その通りです。ただしEDO CITYで使われていたソウルコンバーターは、出力が小さいせいか原料はダークマターと呼ばれていたものの一種で、アクシオンと呼ばれている次元を超える素粒子です」
 「次元を超える? そんなものがあるの? というか、どうやってその情報を得たの?」
 「きっかけは単純です。壊滅状態だった中央街区の潜入調査の際、何かしらの研究所で文献を得ました」
 「え? データ化されてなかったの?」
 「電力供給に未来はなかったので、昔と同じように紙などの媒体に記録されていました。幸いソウルコンバーターの情報は最近のものばかりで、データ化しておくのはかえって危険だと考えたのでしょう」
 「なるほどね。私たちの世界ではソウルコンバーターのエネルギー源はアクシオンじゃないか? ってところまでしか解明できてなかったのよ」
 「しかし、中央街区に設置されていた大型のソウルコンバーターは、アクシオンではなく異次元の思念体を原料にしていたようです。つまり別世界の生命体そのものをです」
 「え? それって、6次元とか?」
 「6次元かどうかは分かりません。ただその異次元の思念体を原料に使うよう指示していたのが『導尊』だったようです」
 「! …は、ははは。繋がったわ。やっぱりそいつが元凶だったのね」
 「?どうした? 何が繋がったんだ?」
 「私がここにきた目的がはっきりしたの。導尊によって仲間を失った6次元から来た友人の敵を取ってやる」
 湧似の泉と坂戸は顔つきも雰囲気も直前とは全く異なるいずみの表情を見て困惑した。
    <続く>
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