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第4章
4-13賢者の石
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「そもそもソウルコンバーターとは、次元を超えて存在するダークマターの一種をエネルギー源として、この世界に電力として変換する装置なのです」
ルイーナの解説で、やっとソウルコンバーターの原料が理解できた。
もっとも、ただ“ダークマターの一種”と言われてもどういうものなのかは想像もできないことに変わりはない。
「じゃあ“エーテル”っていうのは、“ダークマターの一種”だったのかぁ…。でもなんで人を原料にしたんだ?」
大介は、人体を塩化ナトリウムしか残らないほど、徹底したエネルギー抽出が行われたことに疑念を抱いた。
「大介さん。“ソウルコンバーター”が抽出する原料の“ダークマターの一種”とは、いわゆる精神エネルギーなのです」
「精神エネル… あ! そういうことかっ!」
大介がやっとソウルコンバーターの正体に気付いた。
それはまさに“魂の変換器”そのものなのだ。
「人体という物質は、高次元から見れば極めて高密度なエネルギーの塊なのです。しかも時間や重力に縛られていて、扱いやすいし、原子一つが持つエネルギーは莫大です」
しかし、ルイーナの説明によると、時間と重力に縛られているこの3次元では、逆に物質の持つエネルギーを抽出するためには、極めて高度な、そして巨大な装置が必要になるのだという。
ソウルコンバーターは、あくまで高次元からの“ダークマターの一種”でエネルギーの変換を行う。
築地川高校のソウルコンバーター周辺に山積していた塩は、ソウルコンバーターそのものが抽出した人体からのエネルギーの変換ではない。
「YOUたちの話を聞いていて、疑問に感じたのは築地川高校のソウルコンバーターが“十字に”設置されていたというところです。汎用型もしくはスタンダードタイプのソウルコンバーターは、長方形のコンテナを4つ並列にもしくは2つずつを並列に並べます。それはエネルギー抽出の流れをスムースにするためなのです」
「と、いうことは? 築地川高校にあったソウルコンバーターは…」
「エネルギー化する時点で、それぞれのユニットに何度も原料を入れ替えて、抽出精度を高めているのではないかと思われます」
「でも、抽出途中の原料はどんな形状をしてるんだ?」
「げっ!」
「ぎゃっ」
湧のつぶやきに全員が、さくらや有紀までもが悲鳴をあげた。
<湧なんてこと言うのよ。想像しちゃったじゃない!>
有紀が湧をどついた。
「ご、ごめんごめん」
後頭部をぽりぽり掻きながら湧は苦笑いした。
「ま、まぁそれは置いといて…、YOUの自宅にある“オリジナルタイプ”のソウルコンバーターですが、私の予測では築地川高校のものとは比べようもなく強力でしょう」
「だろうね。俺も自宅に入った途端に力が吸い取られるような脱力感を感じたよ」
湧はその時の違和感を口にしたが、実際にはそんなものでは済まなかったのだ。
「YOU、それどころではないのです。さくらさんから聞いたところだと建物に入ってからわずか30秒で全滅したとか…」
「え? そうなの?」
「YOUはそのことを知らなかったんですか?」
ルイーナは驚くというより、ほとんど呆れた声音で叫んだ。
「でも…、そんなに短時間じゃなかったような…」
「だからっ! そこが問題なんですよっ!」
ルイーナの剣幕に押され、湧は瞬きをして惚けた。
「時間が歪められていたのに気づいてなかったんですか?」
「時間が? う~ん。確かに10分くらい激闘したと思うけど…」
「それが外では30秒ほどだったのよっ!」
「はあ…」
いまいちピンとこない湧にルイーナは苛立ち始めた。
「まあまあ、二人とも少し落ち着いて…」
堪らず大介が仲裁に入った。
「如月君の自宅の捜索に関しては、一度全滅してるから下準備を万全にしなければならないことは理解してるよね?」
「はい」
「ならば、今すべきことを片付けてから、全力で挑もう」
「今すべきこと? ですか?」
「ああ、いずみの事もだが、まずは前校長と小菅豊の事案について、収束させなければならないんだ」
大介が困り果てた様子で、湧とルイーナに告げた。
「それはどういうことですか?」
「我々の活動の全ては、宮内庁の管理下にある。市井の怪異事件をはじめ、超常現象に関する調査・対応・事後処理までの全てを報告しなくてはならないんだ」
「なるほど」
「しかし、今回はあまりに広範囲に及んだ上、犠牲者も少なくない。それなのに事件の概要がほとんど分かっていない…。このままじゃ報告書すら作成できないんだ」
と、言ってルイーナに視線を向けた。
「? …はい?」
「る、ルイーナ。お願いがあるんだが…」
「な、なんでしょうか?」
「恥を忍んでお願いする。一連の事案の概要だけでいい。教えてもらえないだろうか?」
大介は頭を下げた。
「へ? そ、そんなことですか? もちろんです。だから頭を上げてください」
「ありがとう。では早速…」
大介はそう言って、小菅豊と前校長の関係から聴き始めた。
「どこでどういう風につながったのかが全く不明なんだ」
大介でも小菅の奇行は知っていた。
校内のいたるところに盗聴器や盗撮カメラを仕掛けているとか、コンプレックスが異常な程強く、逆恨みすることが多いことも噂では聞いていた。
しかし、前校長と手を組んで、もしくは脅迫していたのかもしれないが、それで一連の事件を起こせるほど度胸があるようには思えなかったのだ。
「あぁ、それなら判明しています。小菅豊は前校長がソウルコンバーターを使って、大量のコクーンを作り出していることを探り出したようです。それが何か理解できたとは思えませんが、特別な力を宿していることを確信したらしく、強引に奪っていたようですね」
「なるほど、協力関係というよりは脅迫していたと考えたほうが自然だな…」
「その中で気になるのは、どうやって地下室の存在を知ったか? …なのです」
「そうか。盗聴するにしても仕掛けるためには侵入しなければならないからね」
「そこで警察に先行して、小菅豊の自宅を捜索してみました。そして…」
ルイーナは自分のスマホに画像を表示させた。
「このようなものが見つかりました」
「これは?」
「電力測定器です。コンセントに仕掛けなくても、電力の変動が磁場から計測できます」
「電力測定器? なんでこんなものを?」
「どうやら小菅は校内に仕掛けた盗撮カメラなどが誤作動することで、不信感を持ったようですね」
「あ、そうか。校内の電力は全てソウルコンバーターによって賄われている。安定器を通していても、急激な電圧の低下はカバーできない。そうなるとカメラや盗聴器の動作が停止することもある…そこに気づいて…」
短時間ならば内蔵バッテリーを使うが、長時間しかも音声や画像を送信する場合は電灯線から電力を得る。
小菅は校内に多数の機器を設置していたから、バッテリー交換時の手間や発見を恐れていたから、当然電灯線から電力を得ていたのだ。
「そして、地下室を見つけた…ということか…」
「ですね。その後は想像でしかありませんが…これを前校長の持ち物の中から見つけました」
ルイーナは今度は飴玉のようなものを見せた。
「ルイーナ! これはっ!」
湧が横から覗き込んで思わず叫んだ。
「YOUの推察通り、アルファブラッドを固めたものです」
コクーンほど黒くなく、赤味が混じる不気味な色合いだ。
「じゃあ、やはり前校長はソウルコンバーターを使ってアルファブラッドを精製していたのか?」
大介が嫌そうな顔でソレを睨みつけた。
「精製をしたものの、それはただ単にアルファブラッドを固形にしただけです」
「しただけ? じゃあ、賢者の石とは違うのか?」
「全く違います。賢者の石はこのアルファブラッドをベースに、高次元にのみ存在するダークマターの一種でエリクシーズというエネルギー体と融合して精製します。それを数回繰り返して純度を高めるのです」
「エリクシーズ? それでエリクサーとかエリクシールとか呼ばれるのか?」
大介は何かを納得したように呟いた。
「それはあくまでこの世界でのことで、液体がエリクサー、固形が賢者の石と呼ばれているようです」
「なるほど」
「ところで、小菅はこの塊を万能薬だと思い込み服用していた形跡があります」
「… … え?」
「これを飲んでいたぁ??」
大介と湧は吐き気をもよおした。
「…みたいです…よ?」
ルイーナも嫌そうに答えた。
「… だい じょうぶ…なのか? 直に飲んでも…」
大介が遠慮がちに問う。
「だ…いじょうぶ…じゃなかった…ですよね?」
ルイーナも小菅の姿を思い出すように、無表情で答えた。
「あ、そうだった。最後はもはや人間ですらなかったもんね」
湧も無表情で続ける。
「アルファブラッドの所有者は、能力によってその潜在的エネルギーを自在に使えますが、一般人がアルファブラッドに触れると少なからず悪影響が出ます」
「俺たちの血が門外不出の最大の理由だね。間違っても動物実験などに用いられることがあってはならない」
大介が湧に理解できるように言葉を選んだ。
「モンスター化する危険性が極めて高いのです」
ルイーナが補足した。
「そうなのか…。俺はこの血がどういうものか詳しくは知らなかった。ここに来て初めて、俺以外にも同じような血を持つ人がいることを知ったんだ」
「YOUは仕方ないです。アルフが融合した後に生まれたのですから、当然第一世代保有者なので、誰も教えてはくれないでしょう」
小菅は単に筋肉強化剤ぐらいに思っていたらしく、大量のアルファブラッドを服用したらしい。
最初のうちは効果が切れると、元の身体に戻っていたようだ。
しかし、服用を続けるうちに体内に成分が残留し、やがてガン化していった。
「それであんな姿に…あ、でもガンってことは…」
「そうです。いずれは自滅していたでしょう。というより最近は自意識も欠如していたのでしょう。本能だけで行動していた形跡があります」
「もしかすると護岸公園でいずみを投げ捨てたのは…」
「多分YOUの方がエネルギーが高いから、ターゲットを変えたのではないでしょうか?」
ルイーナの身も蓋もない言い方に、湧は苛立った。
「それじゃあ、いずみを痛めつけるだけ痛めつけておいて、飽きた…と?」
「酷い言い方ですが、多分その通りだと思います」
「くっそう! そんなことならもっと痛めつけてやりたかったぁ!」
「YOUに瞬殺、というより、爆発させられたように見えましたが…」
ルイーナも頭を打って朦朧としていたから、はっきりと見たわけではない。
でも湧が小菅と衝突したように見えたのだ。
「どちらにしても小菅に関してはこれ以上の捜索は不要だ。あとは警察が処理をすることになってる」
大介は締めくくるように言った。
「前校長については、警察の捜索に任せよう。これ以上はソウルコンバーターと関わることはできないだろうからね」
「そうですね。私も賛成です」
ルイーナが即座に賛成を示した。
その様子に湧は少しだけ違和感を覚えた。
♩ GO!GO!GO!GO!GO! キッアイジャァ~~~Fight! ♪
いきなりルイーナのスマホからメロディが流れた。
「あ! いずみに変化があったようです!」
「…って、そのメロディ…」
大介が呆れながら呟いた。
「だって、私といずみのベストソングですよっ! こういう時に使わなくてどうしますかっ!」
ルイーナは嬉々として言い放った。
「そうだよね。これならどんな時だって気付けるよね」
湧も賛同した。
「お前たちは…本当に…」
大介は降参のように手のひらを広げた。
「それじゃあ様子を見に行こう」
3人はいずみの元へ向かった。
<続く>
ルイーナの解説で、やっとソウルコンバーターの原料が理解できた。
もっとも、ただ“ダークマターの一種”と言われてもどういうものなのかは想像もできないことに変わりはない。
「じゃあ“エーテル”っていうのは、“ダークマターの一種”だったのかぁ…。でもなんで人を原料にしたんだ?」
大介は、人体を塩化ナトリウムしか残らないほど、徹底したエネルギー抽出が行われたことに疑念を抱いた。
「大介さん。“ソウルコンバーター”が抽出する原料の“ダークマターの一種”とは、いわゆる精神エネルギーなのです」
「精神エネル… あ! そういうことかっ!」
大介がやっとソウルコンバーターの正体に気付いた。
それはまさに“魂の変換器”そのものなのだ。
「人体という物質は、高次元から見れば極めて高密度なエネルギーの塊なのです。しかも時間や重力に縛られていて、扱いやすいし、原子一つが持つエネルギーは莫大です」
しかし、ルイーナの説明によると、時間と重力に縛られているこの3次元では、逆に物質の持つエネルギーを抽出するためには、極めて高度な、そして巨大な装置が必要になるのだという。
ソウルコンバーターは、あくまで高次元からの“ダークマターの一種”でエネルギーの変換を行う。
築地川高校のソウルコンバーター周辺に山積していた塩は、ソウルコンバーターそのものが抽出した人体からのエネルギーの変換ではない。
「YOUたちの話を聞いていて、疑問に感じたのは築地川高校のソウルコンバーターが“十字に”設置されていたというところです。汎用型もしくはスタンダードタイプのソウルコンバーターは、長方形のコンテナを4つ並列にもしくは2つずつを並列に並べます。それはエネルギー抽出の流れをスムースにするためなのです」
「と、いうことは? 築地川高校にあったソウルコンバーターは…」
「エネルギー化する時点で、それぞれのユニットに何度も原料を入れ替えて、抽出精度を高めているのではないかと思われます」
「でも、抽出途中の原料はどんな形状をしてるんだ?」
「げっ!」
「ぎゃっ」
湧のつぶやきに全員が、さくらや有紀までもが悲鳴をあげた。
<湧なんてこと言うのよ。想像しちゃったじゃない!>
有紀が湧をどついた。
「ご、ごめんごめん」
後頭部をぽりぽり掻きながら湧は苦笑いした。
「ま、まぁそれは置いといて…、YOUの自宅にある“オリジナルタイプ”のソウルコンバーターですが、私の予測では築地川高校のものとは比べようもなく強力でしょう」
「だろうね。俺も自宅に入った途端に力が吸い取られるような脱力感を感じたよ」
湧はその時の違和感を口にしたが、実際にはそんなものでは済まなかったのだ。
「YOU、それどころではないのです。さくらさんから聞いたところだと建物に入ってからわずか30秒で全滅したとか…」
「え? そうなの?」
「YOUはそのことを知らなかったんですか?」
ルイーナは驚くというより、ほとんど呆れた声音で叫んだ。
「でも…、そんなに短時間じゃなかったような…」
「だからっ! そこが問題なんですよっ!」
ルイーナの剣幕に押され、湧は瞬きをして惚けた。
「時間が歪められていたのに気づいてなかったんですか?」
「時間が? う~ん。確かに10分くらい激闘したと思うけど…」
「それが外では30秒ほどだったのよっ!」
「はあ…」
いまいちピンとこない湧にルイーナは苛立ち始めた。
「まあまあ、二人とも少し落ち着いて…」
堪らず大介が仲裁に入った。
「如月君の自宅の捜索に関しては、一度全滅してるから下準備を万全にしなければならないことは理解してるよね?」
「はい」
「ならば、今すべきことを片付けてから、全力で挑もう」
「今すべきこと? ですか?」
「ああ、いずみの事もだが、まずは前校長と小菅豊の事案について、収束させなければならないんだ」
大介が困り果てた様子で、湧とルイーナに告げた。
「それはどういうことですか?」
「我々の活動の全ては、宮内庁の管理下にある。市井の怪異事件をはじめ、超常現象に関する調査・対応・事後処理までの全てを報告しなくてはならないんだ」
「なるほど」
「しかし、今回はあまりに広範囲に及んだ上、犠牲者も少なくない。それなのに事件の概要がほとんど分かっていない…。このままじゃ報告書すら作成できないんだ」
と、言ってルイーナに視線を向けた。
「? …はい?」
「る、ルイーナ。お願いがあるんだが…」
「な、なんでしょうか?」
「恥を忍んでお願いする。一連の事案の概要だけでいい。教えてもらえないだろうか?」
大介は頭を下げた。
「へ? そ、そんなことですか? もちろんです。だから頭を上げてください」
「ありがとう。では早速…」
大介はそう言って、小菅豊と前校長の関係から聴き始めた。
「どこでどういう風につながったのかが全く不明なんだ」
大介でも小菅の奇行は知っていた。
校内のいたるところに盗聴器や盗撮カメラを仕掛けているとか、コンプレックスが異常な程強く、逆恨みすることが多いことも噂では聞いていた。
しかし、前校長と手を組んで、もしくは脅迫していたのかもしれないが、それで一連の事件を起こせるほど度胸があるようには思えなかったのだ。
「あぁ、それなら判明しています。小菅豊は前校長がソウルコンバーターを使って、大量のコクーンを作り出していることを探り出したようです。それが何か理解できたとは思えませんが、特別な力を宿していることを確信したらしく、強引に奪っていたようですね」
「なるほど、協力関係というよりは脅迫していたと考えたほうが自然だな…」
「その中で気になるのは、どうやって地下室の存在を知ったか? …なのです」
「そうか。盗聴するにしても仕掛けるためには侵入しなければならないからね」
「そこで警察に先行して、小菅豊の自宅を捜索してみました。そして…」
ルイーナは自分のスマホに画像を表示させた。
「このようなものが見つかりました」
「これは?」
「電力測定器です。コンセントに仕掛けなくても、電力の変動が磁場から計測できます」
「電力測定器? なんでこんなものを?」
「どうやら小菅は校内に仕掛けた盗撮カメラなどが誤作動することで、不信感を持ったようですね」
「あ、そうか。校内の電力は全てソウルコンバーターによって賄われている。安定器を通していても、急激な電圧の低下はカバーできない。そうなるとカメラや盗聴器の動作が停止することもある…そこに気づいて…」
短時間ならば内蔵バッテリーを使うが、長時間しかも音声や画像を送信する場合は電灯線から電力を得る。
小菅は校内に多数の機器を設置していたから、バッテリー交換時の手間や発見を恐れていたから、当然電灯線から電力を得ていたのだ。
「そして、地下室を見つけた…ということか…」
「ですね。その後は想像でしかありませんが…これを前校長の持ち物の中から見つけました」
ルイーナは今度は飴玉のようなものを見せた。
「ルイーナ! これはっ!」
湧が横から覗き込んで思わず叫んだ。
「YOUの推察通り、アルファブラッドを固めたものです」
コクーンほど黒くなく、赤味が混じる不気味な色合いだ。
「じゃあ、やはり前校長はソウルコンバーターを使ってアルファブラッドを精製していたのか?」
大介が嫌そうな顔でソレを睨みつけた。
「精製をしたものの、それはただ単にアルファブラッドを固形にしただけです」
「しただけ? じゃあ、賢者の石とは違うのか?」
「全く違います。賢者の石はこのアルファブラッドをベースに、高次元にのみ存在するダークマターの一種でエリクシーズというエネルギー体と融合して精製します。それを数回繰り返して純度を高めるのです」
「エリクシーズ? それでエリクサーとかエリクシールとか呼ばれるのか?」
大介は何かを納得したように呟いた。
「それはあくまでこの世界でのことで、液体がエリクサー、固形が賢者の石と呼ばれているようです」
「なるほど」
「ところで、小菅はこの塊を万能薬だと思い込み服用していた形跡があります」
「… … え?」
「これを飲んでいたぁ??」
大介と湧は吐き気をもよおした。
「…みたいです…よ?」
ルイーナも嫌そうに答えた。
「… だい じょうぶ…なのか? 直に飲んでも…」
大介が遠慮がちに問う。
「だ…いじょうぶ…じゃなかった…ですよね?」
ルイーナも小菅の姿を思い出すように、無表情で答えた。
「あ、そうだった。最後はもはや人間ですらなかったもんね」
湧も無表情で続ける。
「アルファブラッドの所有者は、能力によってその潜在的エネルギーを自在に使えますが、一般人がアルファブラッドに触れると少なからず悪影響が出ます」
「俺たちの血が門外不出の最大の理由だね。間違っても動物実験などに用いられることがあってはならない」
大介が湧に理解できるように言葉を選んだ。
「モンスター化する危険性が極めて高いのです」
ルイーナが補足した。
「そうなのか…。俺はこの血がどういうものか詳しくは知らなかった。ここに来て初めて、俺以外にも同じような血を持つ人がいることを知ったんだ」
「YOUは仕方ないです。アルフが融合した後に生まれたのですから、当然第一世代保有者なので、誰も教えてはくれないでしょう」
小菅は単に筋肉強化剤ぐらいに思っていたらしく、大量のアルファブラッドを服用したらしい。
最初のうちは効果が切れると、元の身体に戻っていたようだ。
しかし、服用を続けるうちに体内に成分が残留し、やがてガン化していった。
「それであんな姿に…あ、でもガンってことは…」
「そうです。いずれは自滅していたでしょう。というより最近は自意識も欠如していたのでしょう。本能だけで行動していた形跡があります」
「もしかすると護岸公園でいずみを投げ捨てたのは…」
「多分YOUの方がエネルギーが高いから、ターゲットを変えたのではないでしょうか?」
ルイーナの身も蓋もない言い方に、湧は苛立った。
「それじゃあ、いずみを痛めつけるだけ痛めつけておいて、飽きた…と?」
「酷い言い方ですが、多分その通りだと思います」
「くっそう! そんなことならもっと痛めつけてやりたかったぁ!」
「YOUに瞬殺、というより、爆発させられたように見えましたが…」
ルイーナも頭を打って朦朧としていたから、はっきりと見たわけではない。
でも湧が小菅と衝突したように見えたのだ。
「どちらにしても小菅に関してはこれ以上の捜索は不要だ。あとは警察が処理をすることになってる」
大介は締めくくるように言った。
「前校長については、警察の捜索に任せよう。これ以上はソウルコンバーターと関わることはできないだろうからね」
「そうですね。私も賛成です」
ルイーナが即座に賛成を示した。
その様子に湧は少しだけ違和感を覚えた。
♩ GO!GO!GO!GO!GO! キッアイジャァ~~~Fight! ♪
いきなりルイーナのスマホからメロディが流れた。
「あ! いずみに変化があったようです!」
「…って、そのメロディ…」
大介が呆れながら呟いた。
「だって、私といずみのベストソングですよっ! こういう時に使わなくてどうしますかっ!」
ルイーナは嬉々として言い放った。
「そうだよね。これならどんな時だって気付けるよね」
湧も賛同した。
「お前たちは…本当に…」
大介は降参のように手のひらを広げた。
「それじゃあ様子を見に行こう」
3人はいずみの元へ向かった。
<続く>
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