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第8章

8-01脱出

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 「ぶへっ!」
 最悪だった。
 どの位意識を失っていたのか?
 目を開けると…真っ暗だった。
 スクリーンのおかげで、顔面には空間があるから息苦しくない。
 けれど真っ暗なので何も見えない。
 腕を動かそうとするが、何かにガッチリ抑えられて身動きひとつできない。
 「あれ?」
 いずみは動けない理由に思い当たった。
 「ゆ、湧?」
 「う…、…ぁ…、いずみ?」
 いずみは湧に抱きしめられていたのだった。
 「ここどこ? 何も見えないんだけど…」
 「俺たちは吹き飛ばされて、ビルに叩きつけられたんだ」
 「叩きつけられた? 誰に?」
 「あのガマガエルだよ。いきなり爆発しただろ?」
 「あ! そうかっ!」
 いずみもやっと思い出した。そうあの巨大なガマガエルと戦闘中だったのだ。
 そして、ルイーナが何かを叫んだような気がしたが、その時にはガマガエルの爆風に飛ばされていた。
 記憶の最後に残ってるのは、湧が飛んできて抱きしめられたような感触だった。
 「ビルに叩きつけられると覚悟したけど、ちょうど窓だったのでそのままガラスを突き破って室内に…。でもそのあとビルごと倒れてしまい、窓からは大量の土砂が入ってきて埋められたんだよ」
 「…ずっと、湧が守ってくれたんだね。ありがとう」
 そう言っていずみは微笑んだが、見えるはずはなかった。
 「でもこれじゃあなぁ、どうやって外に出られるかな」
 「それより、このままじゃ二人とも死んじゃうわよ。早く出ないと…」
 いずみは生き埋め状態を思い出して、急に焦りだした。
 「お、落ち着けいずみ。今だってちゃんと呼吸できてるだろ?」
 「あ、ほんとだ。苦しくない…」
 「このウェアは酸素供給までしてくれるらしい。ま、仕組みは俺にも解んないけどね」
 湧の言う通り、吐いた息はどういう風に処理されるのか分からないが、二酸化炭素などは分解されているようだ。
 (これもNASAの技術? 本当にそうならNASAって一体…)
 口には出さないが、ルイーナの正体についての疑問がますます蓄積されていく。
 「よし、上に掘り進んで行こう。この土砂の柔らかさなら、掻いた土を固めながら行けば掘れると思う」
 「わかった…あ、ていうことは私が背中側の土を左右に掻けばいいのね」
 湧は、いずみを守るために背中側からビルに飛び込んだため、現在はいずみの真下に位置していた。
 「それはいくら何でも無理だろう。たとえ腕が背中に回っても、掻いた先から土が落ちでくるぞ」
 「あ、そか」
 「俺がいずみの背中の土を左右に掻くから、いずみは腕の力を使って自分の身体を押し上げてくれ」
 「? いいけど…そうしたらそれ以上掘れなくない?」
 「身体を立てられれば、もっと掘りやすくなるだろ?」
 「あ、そういうことか。じゃあ少しずつ身体を起こすようにすればいいのね」
 「そういうこと」
 そう言って、湧は早速いずみの背中側の土を掘って、両サイドに押し固め始めた。
 上から何かしらの力が加わっていないようなので、意外と簡単に掘り進めて行けた。
 そうして身体を起こしつつ、上へ掘り進んでゆく。
 ウェアで顔面や手が保護されていなければ、絶対に不可能な行為だ。
 それから10分ほどで唐突に土の外に出た。
 「ありゃ、開けた空間に出たけどやっぱり真っ暗なのね」
 「ビルの中だからね。窓がふさがっていたら外の光は入ってこないだろう?」
 湧はスクリーン両サイドのLEDライトを点灯させた。
 「おお。明るい! こんな機能もついてたのかぁ」
 「感心してないで、いずみも点灯させろよ」
 「あはは」
 空間は高さが1.5m、幅は3mほどだが、窓から流れ込んできた土砂のため斜面ができていて、とても窓からは出られそうにない。
 「でもこのくらいの空間があれば、亜空間ゲートが使えるな。すぐに基地に戻ろう」
 「うん」
 湧がゲートを開き、二人は順番に潜り込んだ。
 亜空間ゲートは基本的にどこでも開くことができる。
 ただし、さっきのような土砂の中では次々と亜空間ゲートに土砂が流れ込み、出口から吐き出される。
 つまり、出口を設定しているフラッパーズ基地が大量の土砂に埋もれてしまうことになる。
 そしてそれはいずみたちが処理しなければならないのだ。
 誰だって、無用な大掃除は避けたい。

 フラッパーズ基地の修練場に転移した二人は、とりあえずバトルウェアの損傷を確認した。
 多少の泥が付着していたものの、軽く払っただけで泥だけでなく水分も綺麗に落ちた。
 「すごい。防水だけじゃなくて、撥水性もすごいわ」
 「スクリーンも泥汚れ一つないな…」
 損傷どころか、まるで新品のようなウェアをお互いに眺め、呆然とした。
 「あのさ湧、今回のこともそうだけど…、今までにルイーナが用意してくれたアイテムって…」
 「明らかに現代科学のレベルじゃないよね」
 いずみの言葉を、湧は確信に満ちた目つきで引き継いだ。
 「信じてないわけじゃないの。ルイーナは私たちの命を何度も救ってくれたから…」
 「わかってる。でもこうも毎回都合よく…だとね」
 「まだまだ何か隠してるよね。そして大ちゃんも…」
 「もちろん知ってる。というより協力関係にあるんだと思う」
 「何で私たちに話してくれないのかな? 私たちが信用できないから?」
 「いや、そんな単純な理由じゃないと思う。とにかくもう少し様子を見て、ルイーナを問い詰めた方がいいのかもね」
 いずみの疑念は湧も感じていたと分かり、少しホッとした。
 が、

 「そこまで気づいているのなら、そろそろお話ができそうですね」
 不意に修練場の入り口に現れた影が二人に話しかけた。
 「ぎゃっ!」
 いずみは背後からかけられた声に小さな悲鳴を上げて、湧に抱きついた。
 そこに立っていたのはもちろんルイーナなのだが、今まで二人が行動を共にしてきたルイーナとは雰囲気が異なっていた。
    <続く>
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