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第7章
7-10対抗策
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「でもさ、私たちの血をどういう風に使うの?」
いずみは基本的な疑問を投げかけた。
単に血を使うと言っても、まさか戦闘中に自分の腕などを傷付けて血を得るわけにはいかない。
戦闘後に血みどろになった自分の姿を想像して、いずみは少し震えた。
「あ、それは問題ありません。あらかじめ血を精製・凝集して賢者の石にしますから、召喚する時は術式をぶつけるだけです」
ルイーナは事も無げにぶっちゃけた。
さっきから随分とお気楽な言い方をしてるところを見ると、“リッチ”召喚の方法に関してはかなり煮詰まっているらしい。
「術式をぶつける?」
眉間にしわを寄せていずみは反復した。
「そもそも銀座でいずみが意識を失った時、YOUがいずみに凝固した血のタブレットを飲ませていたのをヒントに研究してみました」
「へ? 血のタブレットぉ? な、なんてもの飲ませるのよっ!」
叫ぶと同時に右手で湧の胸ぐらを締め上げた。
「仕方ないだろ! 意識どころか呼吸も止まってたんだから。気付けになると思って飲ませたんだよ」
呼吸も止まってる状況でどうやって飲ませることができたのか? いずみは瞬間的に理解して顔が真っ赤になった。
「ば、バカバカバカっ!」
<ボグッ!>
いずみは湧の顔面に左ストレートを叩き込んだ。
ドサッ!
「あ…」
「いずみぃ? やりすぎですっ!」
ルイーナは極めて冷めた口調で窘めた。
「うう~」
湧も当然怪我はないものの、恥ずかしさでいずみの顔を直視できない。
「ジャレ合うのは後にしてもらえませんかぁ?」
「「ルイーナっ!」」
二人は同時に叫ぶ。
「とにかく、新たな対抗策を実施するにあたって、こういうものを作りました」
そう言って、ルイーナは透明感のある深い赤色の直径6mmの玉を二人に見せた。
「これって? 賢者の石なの?」
「石と言うより、“賢者のBB弾”と言う感じです」
ルイーナは胸を張って、得意げに言い切った。
「BB弾? あのエアガン持ってサバゲーするやつ?」
「俺は弓かボウガンの方が良かったなぁ」
期待した反応が得られず、ルイーナは口を尖らせる。
「これでも運用の方法や効果を最大限に発揮できるように、研究の末にたどり着いたんですよぉ。もっと感心や絶賛してください!」
「研究の成果? 絶賛ン? …無理」
いずみは一言で切って捨てた。
「だいたい何で私と湧の血でなきゃだめなの? 大ちゃんや坂戸さんでもいいんじゃない?」
「もちろん最初は私と大介さんの血で試しました。私の血では全くダメで、大介さんの血でも召喚できたのは猫ぐらいの黒い靄みたいな塊に過ぎませんでした」
意気消沈してルイーナはアイディアの総ざらいを繰り返した。
「黒い靄? ああ、あの小憎らしいMOBね」
以前、お務めで散々振り回されたことを思い出して、いずみは嫌そうに舌を出した。
何しろその時は、水無月家に代々引き継がれた“御神刀”をポッキリ折ってしまい、宗主にひどく怒られたのだった。
「それで保存してあったYOUの血を少し試してみたんですが…」
「ん? が?」
「いきなりリッチが数十体現れました」
「数十体? しかもリッチぃ?」
「召喚は大介さんが行ったのですが、強い思念を持ったエネルギー体として、大介さんはリッチを想像したようです」
ルイーナは大介の口からさくらのことを聞いたことがなかった。
その時初めて、大介にとって、そしていずみにとって“リッチ”がある意味特別なMOBであると知ったのだ。
「ならなおさらリッチはないでしょぉ~」
「それも大介さんの希望です。自分に対する戒めの意味もあるのだそうです」
「大ちゃん…」
いずみにとっては無二の親友で、現在は大切なフレンズであるさくらは、大介にとっても大切な妹の一人だったのだ。
そのさくらが目の前で惨殺されたことは、大介にとってもトラウマになっているのだと、いずみは今になって知らされたのだ。
「わ、わかったわ。私にできることなら何でもやるから…、ルイーナお願いね」
「ありがとう。じゃあ、二人ともこの採血ベッドに横になってください。あ、心拍モニターをつけるので検査着に着替えてくださいね」
「え? 湧あっち向いてて」
いずみは三白眼で湧を睨んだ。
「あ~わかった」
湧が後ろを向いたのを確認して、いずみはTシャツとGパンを脱ぐ。
ブラを指差してルイーナに目で確認する。
ルイーナは手で小さく×を出した。
諦めてブラを外して、素早く検査着を着込んだ。
湧が後ろ向きのまま検査着に着替えるのをいずみは横目で見ていた。
「いずみぃ~、YOUに見るなと言っておいてぇ~」
「え? あ、そうじゃないそうじゃない」
いずみは慌てて採血ベッドに横になった。
「じゃあ、いいですか? 始めます」
「「はい」」
その返事と共に二人のベッド下部から拘束具のような覆いが回転して現れた。
「え?」
いずみが驚いて尋ねようとしたら、その内側がエアバッグのように膨らみ、瞬間的に抑え付けられた。
「ルイーナっ! 何よこれ!」
「暴れると危険なので、シートベルトのようなものだと思ってください」
ルイーナは採血の準備をしながら背中で答えた。
「暴れないわよ。協力するって言ったじゃない! 苦しいから外してよぉ」
「我慢我慢、すぐに終わりますから…」
笑顔で近づきながら、いずみの耳元でそっと囁く。
途端にいずみの意識は闇に包まれてしまう。
「え? ルイーナぁ! いずみに何をし…」
全部言い終わる前に湧に近づいてきたルイーナは、そっと湧の顔に息を吹きかけると、湧も一瞬にして意識を失ってしまった。
後には採血バッグを手に悪そうな笑みを浮かべて、二人を交互に見つめるルイーナがいた。
<続く>
いずみは基本的な疑問を投げかけた。
単に血を使うと言っても、まさか戦闘中に自分の腕などを傷付けて血を得るわけにはいかない。
戦闘後に血みどろになった自分の姿を想像して、いずみは少し震えた。
「あ、それは問題ありません。あらかじめ血を精製・凝集して賢者の石にしますから、召喚する時は術式をぶつけるだけです」
ルイーナは事も無げにぶっちゃけた。
さっきから随分とお気楽な言い方をしてるところを見ると、“リッチ”召喚の方法に関してはかなり煮詰まっているらしい。
「術式をぶつける?」
眉間にしわを寄せていずみは反復した。
「そもそも銀座でいずみが意識を失った時、YOUがいずみに凝固した血のタブレットを飲ませていたのをヒントに研究してみました」
「へ? 血のタブレットぉ? な、なんてもの飲ませるのよっ!」
叫ぶと同時に右手で湧の胸ぐらを締め上げた。
「仕方ないだろ! 意識どころか呼吸も止まってたんだから。気付けになると思って飲ませたんだよ」
呼吸も止まってる状況でどうやって飲ませることができたのか? いずみは瞬間的に理解して顔が真っ赤になった。
「ば、バカバカバカっ!」
<ボグッ!>
いずみは湧の顔面に左ストレートを叩き込んだ。
ドサッ!
「あ…」
「いずみぃ? やりすぎですっ!」
ルイーナは極めて冷めた口調で窘めた。
「うう~」
湧も当然怪我はないものの、恥ずかしさでいずみの顔を直視できない。
「ジャレ合うのは後にしてもらえませんかぁ?」
「「ルイーナっ!」」
二人は同時に叫ぶ。
「とにかく、新たな対抗策を実施するにあたって、こういうものを作りました」
そう言って、ルイーナは透明感のある深い赤色の直径6mmの玉を二人に見せた。
「これって? 賢者の石なの?」
「石と言うより、“賢者のBB弾”と言う感じです」
ルイーナは胸を張って、得意げに言い切った。
「BB弾? あのエアガン持ってサバゲーするやつ?」
「俺は弓かボウガンの方が良かったなぁ」
期待した反応が得られず、ルイーナは口を尖らせる。
「これでも運用の方法や効果を最大限に発揮できるように、研究の末にたどり着いたんですよぉ。もっと感心や絶賛してください!」
「研究の成果? 絶賛ン? …無理」
いずみは一言で切って捨てた。
「だいたい何で私と湧の血でなきゃだめなの? 大ちゃんや坂戸さんでもいいんじゃない?」
「もちろん最初は私と大介さんの血で試しました。私の血では全くダメで、大介さんの血でも召喚できたのは猫ぐらいの黒い靄みたいな塊に過ぎませんでした」
意気消沈してルイーナはアイディアの総ざらいを繰り返した。
「黒い靄? ああ、あの小憎らしいMOBね」
以前、お務めで散々振り回されたことを思い出して、いずみは嫌そうに舌を出した。
何しろその時は、水無月家に代々引き継がれた“御神刀”をポッキリ折ってしまい、宗主にひどく怒られたのだった。
「それで保存してあったYOUの血を少し試してみたんですが…」
「ん? が?」
「いきなりリッチが数十体現れました」
「数十体? しかもリッチぃ?」
「召喚は大介さんが行ったのですが、強い思念を持ったエネルギー体として、大介さんはリッチを想像したようです」
ルイーナは大介の口からさくらのことを聞いたことがなかった。
その時初めて、大介にとって、そしていずみにとって“リッチ”がある意味特別なMOBであると知ったのだ。
「ならなおさらリッチはないでしょぉ~」
「それも大介さんの希望です。自分に対する戒めの意味もあるのだそうです」
「大ちゃん…」
いずみにとっては無二の親友で、現在は大切なフレンズであるさくらは、大介にとっても大切な妹の一人だったのだ。
そのさくらが目の前で惨殺されたことは、大介にとってもトラウマになっているのだと、いずみは今になって知らされたのだ。
「わ、わかったわ。私にできることなら何でもやるから…、ルイーナお願いね」
「ありがとう。じゃあ、二人ともこの採血ベッドに横になってください。あ、心拍モニターをつけるので検査着に着替えてくださいね」
「え? 湧あっち向いてて」
いずみは三白眼で湧を睨んだ。
「あ~わかった」
湧が後ろを向いたのを確認して、いずみはTシャツとGパンを脱ぐ。
ブラを指差してルイーナに目で確認する。
ルイーナは手で小さく×を出した。
諦めてブラを外して、素早く検査着を着込んだ。
湧が後ろ向きのまま検査着に着替えるのをいずみは横目で見ていた。
「いずみぃ~、YOUに見るなと言っておいてぇ~」
「え? あ、そうじゃないそうじゃない」
いずみは慌てて採血ベッドに横になった。
「じゃあ、いいですか? 始めます」
「「はい」」
その返事と共に二人のベッド下部から拘束具のような覆いが回転して現れた。
「え?」
いずみが驚いて尋ねようとしたら、その内側がエアバッグのように膨らみ、瞬間的に抑え付けられた。
「ルイーナっ! 何よこれ!」
「暴れると危険なので、シートベルトのようなものだと思ってください」
ルイーナは採血の準備をしながら背中で答えた。
「暴れないわよ。協力するって言ったじゃない! 苦しいから外してよぉ」
「我慢我慢、すぐに終わりますから…」
笑顔で近づきながら、いずみの耳元でそっと囁く。
途端にいずみの意識は闇に包まれてしまう。
「え? ルイーナぁ! いずみに何をし…」
全部言い終わる前に湧に近づいてきたルイーナは、そっと湧の顔に息を吹きかけると、湧も一瞬にして意識を失ってしまった。
後には採血バッグを手に悪そうな笑みを浮かべて、二人を交互に見つめるルイーナがいた。
<続く>
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