上 下
33 / 41

エラーエラー、パンチラエラー!

しおりを挟む

 ──翌朝。

 ゴクリと息を呑み、夏恋が自転車に跨るのを見つめる。

 一挙手一投足を見逃さないように、目を凝らして全集中。


 ──現在、ツーストライク。

 二度に渡って、あまつさえ連続でパンツを拝めなかった記憶が蘇る。
 不安を煽るように、俺の心をくすぐる。

 登校直前の玄関先というマウンドに立つ俺は、さながら九回裏二死満塁の場面でバッターボックスに立つ最後の男!

 一打逆転。さよならの場面。

 風は穏やかながらに吹いている。
 まるでスカートがめくれるようにと後押ししているようだ。

 走り出しは必ず立ち漕ぎになる。その瞬間、閉ざされた乙女の扉は開かれる!

 幾度となく見てきたからわかる。

 今日は100%めくれる日!

 99.9%じゃない。100%だ!
 過去一度もめくれなかった日はない絶好のパンチラ日和!

 さぁ、夏恋!

 その秘めたるスカートの内側を! ご尊顔を今こそ拝ませてもらうぞ!


 …………べつに。パンツが見たいわけじゃないんだ。……違うんだ。

 ここ最近、夏恋の様子が少しおかしい。

 まるで、二度のパンチラエラーがこの未来を予見していたかのような、負の前兆に思えて仕方がない。

 だから三度目は是が非でも避けたい。

 いや。三度目なんてあってはならない。

 祈るような気持ちで見つめる──。
 そのスカートの端がめくれ、可愛らしいパンツが“こんにちは!”する未来を信じて──。



「じゃあ先輩。そういうことで! 少し遅れるかもしれないので、そのときは放課後デートはなしで!」

 ハッ。いかんいかん。
 スカートの端に集中し過ぎてまったく聞いてなかった。
 でもこの内容なら、俺の取る選択肢は決まっている。来るまで待つ!

 昨日に続き、今日もスーパーの特売に行く約束してたからな。そのことだろう。

「おう! わかった! 気をつけて行ってこいよ!」
「はいはーい! 先輩もねー」

 そうして走り出す──。
 力強くペダルを踏んで颯爽と……。さ、さっそう……と……? 立ち……漕が……ない?!

 立ち漕がないだと?!

 いや、待て……。な、なんだこれは?!
 目の前に広がる、未だかつて見たことのない光景に絶句する。

 スカートがお尻とサドルの間にジャストフィット。挟まれ状態のサンドイッチ──。

 う、嘘……だろ?

 それはまごうことなき、三度目のパンチラエラーが確定した瞬間でもあった。
 

 ……あぁ、終わった。


 ストラァァ~イク!
 バッターアウトー! 
 ゲームセェェット! ……ゲームセーッ……ゲーセーッ…………──。


 脳内に試合終了の合図が鳴り響く──。


 ……100%めくれるはずだった。過去のデータはそう示していた。

「なんだよ……これ……。八百長かよ……」

 偶然や奇跡と呼ぶにはあまりにも出来過ぎていた。

 まるでスカートが意思を持ち、サドルとお尻の間に挟まりに行ったようにも見えた。

 スカートに精霊でも宿っているのだろうか。

 ──違う。

 スカートの操縦者ならばある程度は自由に動かせるはずだ。そうでなければ世の中はもっと、不可避なパンチラであふれかえっている。

 なにより朝の行ってきますの際に、夏恋が立ち漕がずにサドルに座る姿なんて初めてみた。

 いつだって颯爽と駆け抜ける姿に、毎朝元気をもらっていたんだ……。

「それがどうして、突然……」

 思えば、過去二回のパンチラチャンスも出来レースだったような気がする。

 もしこれが偶然や奇跡ではなく夏恋の意思なのだとしたら、パンチラエラーとの因果関係は明白だ。

 だったらどうする……?

 このまま諦めていいのか……?

 


 今ならまだ──。

 そう思った時には既に走り出していて、夏恋を追いかけていた。

 呼び止めてどうするのか。
 パンツ見せてと言うのだろうか。
 ちょっとその自転車の乗り方は違うんじゃない? と、物言いをつけてしまうのだろうか。

 わからない。わからないけど、動き出したこの足は、もう止まれない。

 ここでゲームセットなんて、認めない!
 

「かっ────」

 まさに、夏恋の名前を叫ぼうとした時──。

 幸か不幸か、ポケットの中のスマホがブブーッと震えた。

 その振動にハッとし我にかえる。

「俺はいったい……なにを……」

 パンツを見たいが為に追いかけ引き止めようとしていた……のか。

 あまつさえ物言いまでつけようとして、パンチラエラーの判定を覆そうとした……のか。

 他でもない妹である夏恋に……。
 こんなの……。兄として失格じゃないか。いや、それ以前に一人の男としても失格だ。

 目の前のパンツに固執するばかりに、いつの間にか目的と手段が入れ替わっていた。

 今更パンツを見たからといって、問題の解決とはならない。

 何故、スカートを巧みに操縦してパンチラエラーを引き起こしているのか。そういう話だ。

 危うく、取り返しのつかない過ちを犯してしまうところだった……。危ない危ない……。
 
 

 ふぅ。



 落ち着きを取り戻したところで──。

 ファインプレーとも言えるスマホを取り出すと、柊木さんからメッセージが一件。
 
 『おはよ~! ちょうど家出たところかな~? 間違って学校とは逆方向に走ったりしたらだめだぞ~? それから、ちゃんとデネブDLしてくれたんだね! えらーいぞ☆』

 鳥肌が立った。同時に救いの女神に思えた。

 冗談交じりのメッセージはダイレクトに今の状況を寸分違わず現していて、それはまるで神のお告げのようだった。

 柊木さんの株価が連日ストップ高で上がっているからなのか、大きな見落としをしていたことに気がつく。

 夏恋と葉月は不仲だけど、柊木さんの場合は違う。夏恋が一方的に嫌悪感を抱いているだけだ。

 話を聞く限り、柊木さんは妹のように慕っていると言うじゃないか!

 なんで今まで気が付かなかったんだよ!

 緩々の天然系女子である葉月が冷気を纏い冷酷に「その話、いらない」と言うのとはわけが違うだろって!

 つまり、夏恋と葉月は犬猿の仲で話題に出すことさえもタブーだけど、柊木さんには夏恋との事を相談できるんだ!

 二人が仲良くなればパンチラエラーだって止まるかもしれない!

 そうと決まれば! 柊木さんに返信だ!


 『駆け出すのなら、いっそ凛々のもとへと飛んで行きたい。なんて! 学校行く前にメッセージをもらえただけで最高の一日の始まりですよ!
 こうして朝から電波越しに繋がれるなんて、俺は世界一幸せな男かもしれません!
 でもやっぱり声が聞きたいな。顔を見ながらゆっくりお話したいです。来週シフト被ってる日のバイト上がりに、お時間作っていただけると嬉しいです!』


 よしっ!
 さり気なく愛を語り、彼氏のフリのお役目を果たす! それでいて目的である要件を伝えることも忘れない!


 要領さえ掴めば簡単だな!

 
 送信ッ──!



 ☆

 ──そうして、事態は取り返しのつかないことになる。

 この時、夏恋を追いかけて「パンツ見せて!」と、声を大にして叫ぶことが正解だったと知るのはずっと先──。

 俺はもっと考えるべきだったんだ。

 何故、パンチラエラーが起こったのかではなく、どうして今までパンツが見えていたのかを──。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

3年振りに帰ってきた地元で幼馴染が女の子とエッチしていた

ねんごろ
恋愛
3年ぶりに帰ってきた地元は、何かが違っていた。 俺が変わったのか…… 地元が変わったのか…… 主人公は倒錯した日常を過ごすことになる。 ※他Web小説サイトで連載していた作品です

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

処理中です...