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第八話 恋するおパンツは夢を見るか
しおりを挟むピピピッピピピッ。ピーピーピー。
シャキーンッ! 目覚まし時計にワンタッチ。とっても清々しい朝だった。
遮光抜群のカーテンからは日差しが漏れることもなく、部屋は未だにお眠りさんを演出している。
でもっ、僕の心は晴れていた。
夏真っ盛りの八月。普段なら寝汗が気になる重暗い朝。
しかし今日は違う。
起きてすぐに思い出す。つい先ほどの出来事のように。
「夢じゃないよな……?」
棚に閉まった宝物を確認し手を合わせる。
「夢じゃなかった‼︎」
顔がニヤけてしまう。あれは現実。棚にあるコレが確たる証拠。
栄養ドリンクの空箱と空瓶だ。
海乃から初めてもらったプレゼント。
僕はもう決めてるんだ。帰りに雑貨屋でディスプレイ用のアクリルケースを買うことを。勉強机に祀るんだ!!
僕はルンルン気分でステップを踏みながらリビングへ向かった。
夏の朝と言えばキンキンに冷えたスポドリをガブ飲みが僕のルーティーンなのだ。その後、シャワーを浴びてコーンフレークでサクッと朝食を済まして歯磨きコース。
いつもと変わらない朝だと思っていた。リビングのドアを開けると衝撃が走った。
「あー、お兄起きたんだ。おはよー」
海乃がエプロン姿で台所に立っていたんだ。
しかも僕に話しかけてきた。
昨晩が……続いてる?!
「お、お、おはよう!」
「うん。体調はどう? 治った?」
そう。僕は病人だった。せっかく海乃が気遣ってくれてるんだ。お兄ちゃんとして汲み取らなければ‼︎
「あっうん! 海乃のくれた栄養ドリンクのおかげでこの通り超元気だよっ!!」
僕はぴょんぴょん跳ねて、シュートポーズを取ってみた。ナイッシュー! ガッツポーズのおまけ付きだ!
病人の振りをするのは気が引けるけど、元気になった振りならこの通り。
海乃の為ならこれくらい余裕さ‼︎
だってお兄ちゃんなのだからッ‼︎
「そっか。なら良かった。ベーコンエッグとサラダでいいかな? パンは一枚? 二枚?」
僕の脳みそがキャパオーバーを起こした瞬間だった。
海乃が僕に朝食を……作る?!
あー、これは夢だ。
僕は夢の中で夢を見ていたんだ。
昨日のプレゼントも夢。
なぁーんだ。全部夢か!
納得しちゃったよ~。ですよね~!!
「ねー、聞いてるんだけど? 何枚?」
「あっ、イチマイデオネガイシマス!!」
夢じゃ……ない‼︎?
「わかった。それと洗濯機の上にバスタオルと着替え置いといたから」
「ア、アアアアアリガトウ! ジャアオニイチャンシャワーアビテクルネ!」
いったい何が起こっているのか、まったくわからなかった。でも、海乃が僕のために……そう思うと嬉しさが勝る。
洗濯機の上にはタオルにバスパン、トレーニングウェアが置いてあった。
それは部活に行く時用のセットで完璧だった。
海乃はなんでも卒なくこなす。出来た子だ。
容姿端麗成績優秀。スポーツ万能。一言でいうなら才色兼備。
でも…………、
洗濯機の中を確認すると僕のパンツが一番上にある。
もっと下に埋もれてるはずなんだ。
パンツに至っては詰めが甘い。
海乃が優しくしてくれてすごい嬉しいけど……やっぱり気になっちゃうよ。
なんとなくだけど、パンツが絡んでるような気がする……。
パンツが絡む時、海乃が変わる?!
そんな、ロクでもないことを考えながらも「フンフンフーン♪ フンフンフーン♪」
「フフフノフーン♪ フンフンフーン♪」
シャワーを浴びてる間、嬉しくて嬉しくて鼻歌が止まらなかった。
◆
リビングに戻るとダイニングテーブルには朝食が並べられていた。
ベーコンエッグにソーセージ、プチトマトにサラダ。そしてパン、牛乳。
それは、いつ振りかわからない彩り豊かな温かい朝食だった。
「どうしたの? 冷めないうちに食べなよ。お兄はコーンフレークばっかりだから体調崩すんだよ。しっかり食べて」
「……うんっ。ありがとう海乃……本当にありがとう。お兄ちゃんすっごい嬉しいよ‼︎」
涙が込み上げてきそうだ。でも泣かない。お兄ちゃんなんだから。
食べてしまうのが惜しいと思うくらい美味しかった。
いつも飲んでいる牛乳さえも海乃の味がした。
こんなことなら、僕は毎日風邪引きたいな。毎日体調不良になりたい!!
体調崩してよかった! 本当に!!
…………あれ、僕体調崩してたっけ? 細かいことはいいか。だっていま、こんなにも幸せだもの‼︎
◆
忘れ物をすることなく玄関へ。水筒も持った。
なのに、海乃が見送ってくれたんだ。
「病み上がりなんだからあまり無理はしないこと。いってらっしゃい」
「うんっ! お兄ちゃん無理しないよ! やくそく! 行ってきますっ!!」
なにがなんだかわからない。でもきっとこれは、おパンツが引き起こした奇跡!!
──ありがとう。おパンツ!
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