上 下
87 / 106

87話

しおりを挟む

 昼休みにトイレの個室で用を足している時だった。


「そう言えば四天王最後の一人、決まったらしいぜ」
「あー、それな。一年の子だっけか」

 噂話をトイレの個室で聞く趣味などはない。しかも四天王とか、まったくもって興味のない話。
 だが、最後の一人。という言葉にピクッと耳が反応してしまった。

 この声は、北村か。もう一人は茶裸崎ちゃらざきかな。
 相変わらず頭の中は女でいっぱいかよ。

 でも、そうか。最側も元気そうにやってて良かったよ。四天王になったんだな。

 あの日、七夕の日を境に飲みに行くことはなくなり、俺と最側は疎遠になった。
 バイトは七月いっぱいで辞めた。

 ちほとの楽しい夏休みを経て、順風満帆な甘々シュガーデイズを送っている。元の鞘に戻ったんだ。

 来月の冬休みには温泉旅行も計画している。

 お金はあまりないけど、一緒に居れるだけでいい。
 俺は大切なことを誤解していた。


 さて、用は足し終えたが北村と鉢合わせるのは避けたいところ。個室から出たともなれば、チャラっとおちょくられるのはわかりきっている。

 トイレは溜まり場じゃないぞ。早く教室に戻れ北村!


「そうそう。七海ちゃん。実はまだ連絡先交換してないんだよ~、四天王ともなるとお高くなるのは時間の問題。今から聞きに行こうぜっ! 今日がラストチャンスかもしれないんだぜ!」
「いかねーよ。聞いたところでノーチャンスだろ。四天王だぜ? 無理無理。身の程を弁えようぜ」


 七海って、誰だ? 最側の下の名前ってななみだっけ? いや、違う。

「まっ、それもそーだな。飯行くべ! 飯!」


 バタンッ。

 「「っっ?!」」

 殆ど無意識だった。俺は勢いよく個室から飛び出し、北村の手を掴んでいた。

「ちょっ、やのちゃんじゃぁーん!! って、あっれ~? あっれれ~?」

「お、おう。四天王ってさ、最側じゃないのか?」
「さいかわ……?」

 北村は首を傾げ、険しい表情をしだした。
 個室から出てきた俺をおちょくる事も忘れ、何かを思い出すような。そんな雰囲気。

 いつだって女の事しか考えてなさそうな北村が、最側の事を知らないなんてありえるのか。こいつの美少女レーダーは学内No1のはずだ。

「最側彩乃だよ。一年に居るだろ?」

「ごめん、やのちゃん。そんな子居たっけ?」

 嘘……だろ? 女のために生きてるような北村の目に止まらなかったのか? あの最側が? 北村の高性能美少女レーダーに反応しなかっただと?


「お前が好きそうな美少女だぞ? 本当に知らないのか?」


 三度の飯より女好きのチャラ崎が北村の肩をポンっと叩いた。若干のドヤ顔風。

「俺は知ってるぜ! レアキャラだったからなぁー。確かに矢野くんの言う通り学校にさえ来てれば最側が四天王だったと思うわ。さすがは二見さんの彼氏。素晴らしい美少女レーダーをお持ちだ!」


 チャラ崎おまえ、今なんて言った?

 学校に来てれば? 

「まぁ、とりあえずやのちゃん。手を洗おうぜ。お互い用を足してそのままだ」


「どういう事だよ、チャラ崎?!」

 俺はチャラ崎の肩をゆっさゆっさ揺らし問い詰めた。
 だってそれはまるで、最側が学校に来ていない。そんな言い方だったからだ。


「わ、わかったから。矢野くん、とりあえず手を洗おうぜ。話はそれからだ」

 なに呑気なこと言ってんだよチャラ崎。

「やのちゃん、その手で触っちゃダメだって! 手を洗おう、水道はすぐそこだ」

 北村、今はそれどころじゃないだろ。


 ──手を洗う時間すら惜しい。俺はゆっさゆっさ揺らし問い続けた。

 最側、おまえ……おまえ……は、いったい?

 最側と過ごした時間が走馬灯のように脳裏を駆け巡り、他のことを考えられなくなってしまったんだ。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!

ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、 1年以内に妊娠そして出産。 跡継ぎを産んで女主人以上の 役割を果たしていたし、 円満だと思っていた。 夫の本音を聞くまでは。 そして息子が他人に思えた。 いてもいなくてもいい存在?萎んだ花? 分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

妻と夫と元妻と

キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では? わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。 数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。 しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。 そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。 まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。 なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。 そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて……… 相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。 不治の誤字脱字病患者の作品です。 作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。 性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。 小説家になろうさんでも投稿します。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

【完結】「父に毒殺され母の葬儀までタイムリープしたので、親戚の集まる前で父にやり返してやった」

まほりろ
恋愛
十八歳の私は異母妹に婚約者を奪われ、父と継母に毒殺された。 気がついたら十歳まで時間が巻き戻っていて、母の葬儀の最中だった。 私に毒を飲ませた父と継母が、虫の息の私の耳元で得意げに母を毒殺した経緯を話していたことを思い出した。 母の葬儀が終われば私は屋敷に幽閉され、外部との連絡手段を失ってしまう。 父を断罪できるチャンスは今しかない。 「お父様は悪くないの!  お父様は愛する人と一緒になりたかっただけなの!  だからお父様はお母様に毒をもったの!  お願いお父様を捕まえないで!」 私は声の限りに叫んでいた。 心の奥にほんの少し芽生えた父への殺意とともに。 ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 ※「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※タイトル変更しました。 旧タイトル「父に殺されタイムリープしたので『お父様は悪くないの!お父様は愛する人と一緒になりたくてお母様の食事に毒をもっただけなの!』と叫んでみた」

処理中です...