上 下
80 / 106

80話

しおりを挟む

 うつ伏せで枕にうずくまりチラッ、チラッ。

 最側から視線を感じる。少しぷっくりしていて不機嫌を纏っている。

 食わないのかと言っているようだ。

 このまま食べなければ、食べかけだから汚いと誤解される。
 かと言って食べれば間接キス。

 そのことを言えば意識してると思われる。

 選択肢はあってないようなもの。ルートは一つ。
 導かれるように一つしかない。

 妖精さんの言うことが正しい。


 ──もうどうにでもなれ!

 パクッ。もぐもぐ。
 味なんかわからない。わかるわけがない……最側の、味?

 ば、バカヤロウ!! 意識するな。落ち着くんだ。


 もぐもぐもぐもぐもぐもぐ。

 じーーーー。
 最側から視線を感じる。あっ、目があった。
 ニコッと笑いシュタッ! ベッドから起き上がった。

 そして、スッとティーカップを寄せてきた。なにこれ?

「アップルティーも少し残ってますよー!」
「ぶはっっ」

 やばい噎せた。「がはっごほっ」

「わーわー!! どうしたんですか先輩?!」

 どうしたんですかじゃないだろ!! おまえの飲みかけの紅茶を飲めと? これ以上追い詰めないでくれ!!

 もう限界だ。プランは破棄。なるようになれ!!


「なぁ、最側。これもそれもお前の食べかけで飲みかけなんだよ。わかってるのか?」
「あーー! やっぱり汚いって事ですかー?!」

「んなわけねーだろ。だってほら、間接……キスだろこれ」

 数秒キョトンとしたかと思えば次第に頬が赤くなり……あれ、最側?

「あー、あ……やっぱりわたしが食べます返してくださいっ」
「いや、それはもう俺の食べかけだからな」
「あっ、じゃあやっぱり先輩が!」

 俺が食べたら振り出しだろうが……最側、落ち着け!

「いや、元はおまえの食べかけだから……」
「あっ、なら、わたし……あああーもう!」

 まずいな……収拾がつかない。
 やってしまった……。感情を抑えられなかった。

 アップルティーの甘い罠に……うんそうだ。これはアップルティーが悪い。全部アップルティーのせいだ!!

 …………。

『妖精さん、戻ろう』
『結果オーライじゃ! むしろ良い方向にことが進んだ。続行じゃ!!』

 妖精さんはノリノリだ。

 今のこの状況は良いのか。まったくわからない。
 


「うーー! わかってて食べちゃうとか……せんぱいは卑猥です!」

 プイッとそっぽ向いちゃったけど、怒ってるわけではなさそう。

「仕方なくだ。仕方なく食べたんだよ。お前の食べかけを汚いと思ってるとか……誤解されたままは嫌だからな。バイト仲間だし」

「やっぱり先輩はズルいです。バイト仲間って言って誤魔化すなんて」


 おいおいおいおいおい!!!!
 それをお前が言うのかよ!!!

 ──バイト仲間ってなんなんですか?! ほんとに!!

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

どうやら婚約者が私と婚約したくなかったようなので婚約解消させて頂きます。後、うちを金蔓にしようとした事はゆるしません

しげむろ ゆうき
恋愛
 ある日、婚約者アルバン様が私の事を悪く言ってる場面に遭遇してしまい、ショックで落ち込んでしまう。  しかもアルバン様が悪口を言っている時に側にいたのは、美しき銀狼、又は冷酷な牙とあだ名が付けられ恐れられている、この国の第三王子ランドール・ウルフイット様だったのだ。  だから、問い詰めようにもきっと関わってくるであろう第三王子が怖くて、私は誰にも相談できずにいたのだがなぜか第三王子が……。 ○○sideあり 全20話

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

何もできない王妃と言うのなら、出て行くことにします

天宮有
恋愛
国王ドスラは、王妃の私エルノアの魔法により国が守られていると信じていなかった。 側妃の発言を聞き「何もできない王妃」と言い出すようになり、私は城の人達から蔑まれてしまう。 それなら国から出て行くことにして――その後ドスラは、後悔するようになっていた。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

処理中です...