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26話

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『なぁ、妖精さん。俺の壁ドンってもしかして不思議な力でも宿ってるのか?』
『は? アホな事言っとらんで行くぞ! 攻撃的なキスをするのじゃ!!』
『アホな事ってなんだよ。壁ドンしただけでこんなにも好かれるなんて妙だろ』

 行くぞ行くぞと俺の周りを飛び周っていた妖精さんが、ピタッと止まる。

『それな……』
急にうつむく妖精さん。えっ、なに? まずい事でも言っちゃったか?

『ふりがなの振ってない教科書を片手に八ノ瀬やのせと言ってたからのう』
『どう言うこと?』
『はちのせって間違えられる事がよくあるじゃろ』
 半信半疑の妖精さん。確証は無い。だからあまり言いたくは無かった。そんな様子が見て取れる。

『噂話で俺の名前を聞いたりしたんじゃないの?』
『うーむ。なぁんか、嘘くさいんじゃよなぁ。教科書片手にじゃぞ? それにあの男嫌いの二見ちゃんじゃぞ』


 ん? 男嫌い……?


『しかも、ぎゅーってしてちゅうじゃろ? たかだか壁ドンであんなんならんて。あの二見ちゃんが……ありえんわ』
 うん。俺の壁ドンには何も宿ってないみたいだ。それより男嫌いってなんだよ。あの二見ちゃんがってなんなんだよ!!


『待ってくれ! 俺、彼女の事を殆ど知らないんだ。知ってる事があるなら教えてよ』
『ふむ! しょうがないのう!』
 教えを乞うと妖精さんはニヤリとし、人差し指を上に突き立て、ドヤ顔をし出した。……ちょっとムカつく!


『結論から話すとな、椅子と机までもが無くなり学校に来なくなり……そして! って事じゃな』
 ドヤ顔で話す妖精さん。これはわざとやってるな。最初から意味がわからないし〝そして〟で止めやがった。しかし、乗る!!

『ど、どう言うこと?! もっと詳しく教えてよ妖精さん!! お願いだよ!』
『フッフッフッ、しょうがないのう! しょうがなーー』

〝ピコンッ〟


 妖精さんがノリノリで二度目のしょうがないのうを言いかけた時、スマホが鳴った。

 俺と妖精さんは一緒にスマホを覗く。未読スルーしてたはずだ。


 ゴクリ。


 ──ちぃちゃん♡からメッセージ。

《もうりっくんなんて知らない!! 大嫌い!!》
 ……クマが怒ってる。


 目が合う俺と妖精さん。俺は無表情でメッセージを開き返信した。

《悪い。宿題やってた》
 妖精さんが肘で突いてくる。上手いじゃん! っと言っている様だった。


 ──ピコン。ちぃちゃん♡からメッセージ。

《ばかばかぁ!! わたしと宿題どっちが大切なの?!》
 ……クマが落ち込んでる。


 目が合う俺と妖精さん。もはや口が開いてしまっている。


《ちほに決まってるだろ》
 妖精さんはまたもや肘で突いてくる。やりおるのう! と言っている様だった。


 送信した瞬間につく既読。

 ゴクリ。


 ──ピコン。ちぃちゃん♡からメッセージ。

《じゃあ……今から会ってくれる? 少しだけで良いから。りっくんが足らないのぉ。充電しないと……》
 ……クマがちゅっちゅしてる。



『戯けが!! な、なんなんじゃこの女!!』
 ついに妖精さんが叫びだす。気持ちはわかる。が、別に嫌では無いから不思議だ。

『会って来るよ。多分、会わないと納まらない』
『そうじゃな。一泡吹かせてやるのじゃ!! 舐められとる!!』



《じゃあ1時間後に駅待ち合わせな》



『よし。これで1時間稼げた。妖精さん。さっきの話の続きを。ちほについて教えてくれ』

 何故か妖精さんは首を横に振っていた。

『駅に行くなら、バーガーが食べたい! 今すぐに!!』

 あっ。そういう感じ……。どうやら妖精さんはまだ本調子では──、いや、この世界では休憩すると言ってたじゃないか。……休憩中なのに付き合わせてしまってたのか。


 うん。もぐもぐ男爵。美味しそうにバーガー食ってたもんな。

 『よし、行こうか。バーガー屋さんへ!!』
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