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13話

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 冷静になれ俺。調子を取り戻せ。
 深呼吸だ。すぅーはぁーすぅーはぁー。
 なんだよ。この甘ったるい匂いは。
 ……近過ぎるだろ。
 
 振り払うことは簡単だ。でもそれが出来ない。

 当たり前のように俺の上に乗ってきたんだ。なんの躊躇もなく。俺は完全に、圧倒されてしまった。

 それに、妖精さんがフェイドアウトした今、最適解もプランもへったくれもない。

 しかし、二見と付き合う。明確な目的はある。

 落ち着け俺。これはチャンスだ……よしっ。

「ねぇ、りっくん? 聞いてる?」
 えっ、なんか言った?
 そんな甘い顔でこっちをみるな……。

「続きってなんだよ」
「え……昨日……付き合──、って。その先聞いてないから。ぐすっ」
 待て待て、泣くな。勘弁してくれ……。

 ……つまりは、〝耳つぶ〟をご所望って事だな。それなら話は早い。

「俺と付き合ってくれ」
「はい!!!!」
 即答! 元気があってよろしい!! っておい……。

 ペースに呑まれるな。目的を見失うな。
 秋月さん……。秋月さん……。


「ぎゅーーーー!!」
 なんだよこれ……。ぎゅーって声に出して言っちゃう感じか?! しかも、色々当たってるんだが。

 やばいだろ。ここ教室。ホームルーム前。導き出される答えは……。
 俺は周りを見渡した。

 言わずもがな。女子は手で目を隠しつつもみてる。
 男共はポカーンと……。そして杉山は、口が大きく開いている。
 信じられないよな。俺もだよ。なぁ、杉山。後で相談に乗ってくれよな……。


「二見さん、ここ教室だしさ、降りようか」
「きんし!! やだぁ!!」
「は?」
 きんし? 待て待て。もう本当に待ってくれ。
 いや、これはもうダメだ。予測不能過ぎる。

「にーみさんはきんし!!」
「あ、あぁ」
 にーみさんはきんし。名前を呼ぶなって事かな。

「ちほって呼んでくれなきゃ……やぁ」
 なるほど。なるほど。そういうことか。

「ちほ降りようか。先生も来ちゃうしさ」
「やだ!!!!」
 おーーーーい!! 満面の笑みで何言っちゃってるの?! もうほんとに、ほんとに無理!! 意味がわからない!!


 降りる事無く、ついに先生が来てしまった。


「おい、龍王寺どうした? ホームルーム始めるぞ早く教室入れ」
「あっ、はい」

 龍王寺。そこに居たのか……。らしくないだろ。


「ん? 二見どうした? 教室戻らなくていいのか?」
 一瞬先生の方を向くもシカト。

「ご、ごほん。じゃ出席取るぞー」
 なんなんだ。これは現実か? 先生どうした?
 この異様な光景をスルーするのか? ダメだ理解が追いつかない……。

「二見」
「はい」

 え? 今、出席取ったの?! 
 はぁ?! 先生?! この子、クラス違うけど? 嘘だろうが……。


 ……しっかりしろ俺。空気に呑まれるな。


「あ! スマホ出して! ID交換しよっ」
 おいおい……。先生まだ出席取ってるぞ。自由過ぎやしないか。

「ちほ、教室に戻れ」
「な、なんで……?」
 いや、だから……泣きそうな顔は反則だろ。調子狂うな……。負けるな俺。

「ちほは七組だろ? この時間に三組に居ちゃいけないんだよ」
「IDは……?」
「それは休み時間にな」
「わかった……」
 ちほはゆっくりと俺から降りた。

「休み時間にまた来るね! ちゅっ」
 不意打ちキス。
 ファーストほっぺキスを意図も簡単に奪われた。

「あ、あぁ」
 クソッ。どうなっちまってるんだよ。妖精さん。これは確実にやり直しだ。早く正気に戻ってくれ。


 ちほが教室から去ると、先生が拍手を始めた。
 次第にクラスメイトも。三組は謎の拍手に包まれた。

 「「「パチパチパチパチパチパチ」」」



 なんなのこれ。なんなんだよ……。
 もう意味わかんねーよ……。



 ──俺は二見ちほにいみちほの事を何も知らなかったんだ。
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