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『ダメじゃーー!』
 ノン壁ドンチャンスは深刻化を極めた。

『もうええ。廊下を歩く二見ちゃんの手を引っ張り強引に壁ドンするのじゃ! 人が居ても関係ない!!』
『俺は別にいいけど、勝算はあるの?』
『ほんの少し。やはり白石ちゃんが邪魔じゃのう』
 白石。やはりお前が阻むと言うのか。クソ野郎が。



 …………。妖精さんはハッとする。

 『ええーい! 何を慎重になっとるんじゃ! やり直しゃええんじゃ! やり直しゃ!!』
 ごもっとも。予想の斜め上をいく女の子。二見。
 〝机ドン〟失敗の影響か、俺たちは慎重になっていた。

 この攻略はイチコロ。その余裕が崩れ去ったのが大きな原因だろう。

 慎重になるなど、本来のあるべき姿ではない。
 幾度となく時を繰り返し、最適解を導き出す。基本スタイルから大きくズレてしまっていた。

 その事に、俺も妖精さんも今の今まで気付いていなかったのだ。

 予想の斜め上……二見さん恐るべし。


『だな! らしくないぜ! やり直せばいい。答えは至って簡単。シンプルさ! 下手な鉄砲も数打ちゃ当たる!』 

 俺たちは拳を合わせた。

 〝空手ポーズ〟


 『『さぁ、攻略を始めようか!』』



 ──俺たちは繰り返した。そしてテイク83。ついに壁ドンが決まる。廊下で歩きながら白石と話す二見の腕を強引に引っ張り無理やり〝壁ドンッ〟した。
 タイミングが難しく何度も失敗した。しかし、今回は成功だ!!

 すかさず〝股ドン〟

 逃さない!


「おまえの事が好きだ」
 きゅんっと、ときめいたような顔。よし、もう一押し。
 耳元に近付き囁く。〝耳つぶ〟発動!
「なぁ、俺と付き合っ──」

「ちょっと! なにしてるの?! 離れなさいよ!!」
 白石……こいつ……空気読めよ。クソがッ。

 あ、二見が逃げていく……。またやり直しか。はぁ。

『いや、リク。これは成功じゃ!! とりあえず、白石ちゃん二見ちゃんに謝るのじゃ!』
『了解』

 成功……なのか?
 謝る……のか。はぁ。


「ごめん」
「はい? ごめんって自分が何したかわかってるの?」
 言い分はわかる。今回はおまえが正しい。しかしな、白石てめーこの野郎……クソッ。俺は唇を噛み締め耐えた。

「ごめん。気持ちを抑えられなくて」
「あのね、君? 時と場所──、ん?」
 言いかけた白石が後ろを振り返る。二見が服を引っ張ったようだ。

「ん、ちほどしたの?」
「大丈夫だから行こ」
「大丈夫って?」
「い、いいのぉ!!」
 その姿はどこか恥じらいに包まれていた。よくわからないが、俺は壁ドンの成功を確信した。


 白石はさげすんだ目で俺を見つめ、二見とその場を去って行った。

 俺の中の白石に対する憎悪が増したのは言うまでもない。

 ──世界が変わっても、お前にされた屈辱は昨日のことのように思い出す。いつか、必ず……ボロボロにして捨ててやる。
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