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7話

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『クソがッ!!』
 俺は部屋の壁を蹴った。殴った。暴れた。そして、妖精さんにストップを掛けられた。


『馬鹿たれ! グーパンしようとしたじゃろ!』
 俺がイラつく横で、妖精さんは激おこだった。

『やるならパーじゃ! 引っ叩くんじゃ! 女の子をグーで殴る男はな、終わっとる』
 両手を俺に突き出し何度かグーパーしパーで止めた。
 小馬鹿にされているような身振りだが、不思議と落ち着きを取り戻した。

 しかし、グーはダメでパーならOK。感慨深いな。

『わかったよ妖精さん。思いっきり引っ叩けばいいんだな』
『はぁ。もう好きにしろ。グーパンじゃなきゃええ。クソ女って事に関しては同意じゃからな』

 呆れ口調かと思えば熱い口調になり、続けた。

『じゃが、理由がなきゃダメじゃ! 引っ叩いてスッキリしてタイムリープ! こういう使い方はあかん!! 絶対にあかん!!』
 何度も言われている事だ。タイムリープの悪用は厳禁。何故ダメなのかは教えてくれない。禁忌にでも違反するのだろうか。

 結局俺は、白石を殴り損ねて昨晩に来てしまった。この気持ちはチャージと考えよう。
 攻略したらズタボロに、そうだ。ボロ雑巾のように捨ててやろう。覚悟しとけよ白石。


『リク! リク!!』
 妖精さんが痛々しい目で見てくる。どうやら怪しい笑みが溢れていたようだ。いけない。いけない。


『おーけーだよ。それで、情報はどう?』
『クソ女って事はわかったがのう。まだまだ足りんのう』
 妖精さんは人差し指を上に突き出し、分析結果を話してくれた。

『収穫があったとすれば、白石ちゃんの隣に居た子じゃな。四天王の1人、二見ちほにいみちほじゃ』

『ははっ。四天王ねぇ……』
『笑うでない! まったく、秋月ちゃん以外には興味ないんじゃから……』

 呆れつつも妖精さんは続けた。

『白石ちゃんに近づく為に二見ちゃんと付き合うのじゃ。あの様子、ひょっとしたらイチコロかもしれん』

『近づくためだけに付き合うのか? 別にいいけど……すごい遠回りをしている気が……』

『なにを言うか! 最短ルートじゃ! 二見ちゃんと付き合う事でリクの評価も上がる。一石二鳥じゃ!』


 興味無さそうな俺を見て、妖精さんが頭をコツンと叩いてくる。 な、なんだ?!
『あほー!! 四天王の二見ちゃんをイチコロじゃぞ? こんな奇跡無いんじゃからな!』
 いや、本当に興味ないんだよ……。誰だよ二見って。
 とは言える訳も無く。俺は静かにうなずいた。


『リクが白石ちゃんにドンッしてる時にときめいておったからのう。ドンッの1つや2つくれてやればいけるじゃろ! あれは……ときめき系ドン女子じゃ!』

『はいはい。オーケイ。ドンッやりますよ』

 随分と遠回りをしている気がする。俺と秋月さんとの間に計り知れない距離がある事を、嫌でも実感してしまう。



 ──イマイチ納得は出来ないが、二見ちほにいみちほとかいう女の攻略を始めることにした。

 
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