4 / 16
4 執事くん視点
しおりを挟む──魔王城。カフェテラス。昼下がりのひととき。
「……はぁ」
漏れるのはため息ばかりとは。情けないのは私のほうではないか……。
強引にくっ付けることも考えてはみたが、魔王様も勇者のやつもツンデレっぽいところがある。
万が一、ツンとツンがぶつかりあったらと考えると恐ろしくて行動には移れない。
特に魔王様の拗ねた時のツンと言ったらもう、手に負えるものではない。そのツンは地図から大陸がひとつ消えるほどだ。
とは言え、勇者には立場がある。
しがらみなど気にせずアタックできる魔王様から寄り添うことこそが安全策と言えるのに。
頬にキスをされれば鈍感っぽい勇者でも、さすがに気付くでしょう。そうしたら若い二人、燃え上がるのは一瞬。
だと言うのに……。
「はぁ……」
ため息を漏らし、祈ることしかできないとは……なんという無力。魔王様も今頃、昼食を取っているのだろうか……。
「おっ、どうしたよルシファー。ため息なんかついてよ」
「ベヒモスか。お前は呑気そうで羨ましいな」
長靴履いてクワを持ってる。何やってんだか。
「いやぁ、こうも平和が続いちまうとなぁ。なんとなく始めた畑だったが、これが意外と楽しい!芽が出たときにあれだけ感動したってのに、収穫の時はそれを超えた。涙が出ちまうほどよ」
「あ。そう」
「なんだぁ?ツレねぇな。一緒に畑やろうぜ!」
何言ってんだこいつ。畑……だと?
「やらないよ。一人でやってろ」
「へ。今、ひとりっつったか? お前は業務に追われるあまり、内情を全く把握してないようだな」
「どういう意味だ? クーデターでも起こるのか?」
「まぁ、革命と言えば、そうかもしれねえな」
「おのれ、貴様! 見損なったぞ!」
「待て待て。そうじゃない。畑倶楽部だ。会員数は百を超えた」
「はたけくらぶ?」
「そうだ。今この魔王城はな、空前の畑ブームが到来しているんだ! どうだルシファー。お前は怒りっぽいところがあるからな。ひと耕し行こうぜ、畑へ!」
「遠慮する。勝手にやってろ」
「ツレねえなぁ。今のお前に必要なものは畑だ。俺にはわかるんだよ。疲れた体には畑だ!」
これは深刻だな。平和ボケがやばい。
人界は恐らく戦争の準備に躍起になってるというのに。
なんとしても、魔王様には成し遂げてもらわねば。この魔界、滅んでしまうやもしれん。
「ほら、一本取っとけ」
「いや、いらないよ」
「遠慮すんなよ。俺らの仲だろ。お前が頑張ってるのは知ってるんだ。これくらいさせてくれ」
大根一本渡して何を言ってるんだこいつ。
「そのまま味噌付けて食っても美味いが、塩漬けにしても美味いぞ~。それにな、今、たくあんにも挑戦してるんだ。出来上がったらご馳走してやるよ。まだまだ先になりそうだがな」
この話、断ると長引きそうだな……。
さっきから何度も断ってるのに聞きゃしない。
「あ、あぁ。楽しみにしているよ。ありがとう」
「ははっ。じゃあお前も今日から畑倶楽部の会員だ! よろしくさん!」
なんだと?
もはや会話にすらならないのか?
……あぁ、もう確信したよ。
魔王様が失敗したら、魔界は確実に滅びる。
魔界は不慣れな平和でトリップしてしまってるんだ。
「あっ、浅漬けってのもいいぞ! とりあえずうち来いや! 野菜談義しようぜルシファーよお! なぁ、聞いてるのか? おーーい!」
これはもう、勇者とコンタクトを取るしか……。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
もう彼女でいいじゃないですか
キムラましゅろう
恋愛
ある日わたしは婚約者に婚約解消を申し出た。
常にわたし以外の女を腕に絡ませている事に耐えられなくなったからだ。
幼い頃からわたしを溺愛する婚約者は婚約解消を絶対に認めないが、わたしの心は限界だった。
だからわたしは行動する。
わたしから婚約者を自由にするために。
わたしが自由を手にするために。
残酷な表現はありませんが、
性的なワードが幾つが出てきます。
苦手な方は回れ右をお願いします。
小説家になろうさんの方では
ifストーリーを投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる