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1 アイ・ラブ・キンキン
しおりを挟むキンキンッ。キンキンキンッ!
ズサササーーッ!
「やるな魔王!」
「フッ、勇者、うぬもな!」
キンキンキンキンキンキンッ!
ササササッ!
ここは空中闘技場。決闘者以外、如何なる者も立ち入りを禁じた決闘のためだけに用意された場所。
魔王ソフィと勇者レオンは一年にも渡り決闘を続けていた。
人界vs魔界。
決して相容れぬ人族と魔族の終わりなき戦争は代表同士の”決闘”という形で決着をつけることとなった。それが一年前。勝敗は未だに決していない。
一年という長い期間。
種族は違えど若い男女が二人きり。仲良くなってしまうには十分過ぎる時間だった。
キンッキンッ。キキキキーンッ。
「なぁ、魔王。そろそろお昼にしないか?」
「うむ。もうそんな時間か」
キンキンッ。キーーーーンッ。
とてつもない剣劇を繰り広げながら悠長な会話を始める二人。
「聞いて驚けっ! 今日は魔王の大好きなフルーツサンドだ!」
「な、なにぃーーーー?!」
魔王は勢いよく”邪剣クロスソード”を投げ捨てると、闘技場の隅にあるベンチへと走り出した。
続くように勇者も”聖剣Xカリバー”を投げ捨て、魔王の後を追った。
「ご飯ッ♪ ご飯ッ♪ ご飯ッ♪」
魔王はノリノリだ。
「ちゃんと手洗ってからじゃないとあげないからなー」
「うむ。もちのろんだ!」
魔王はウサ耳のついた可愛らしいリュックサックを取り出すと、お手拭きを二つ用意した。
仲良くお手手を拭き終わると、勇者はテーブルの上にバスケットをドンッと置き蓋を開けた。その顔はドヤ顔風だ。
「おおおお! じゅるり!!」
現れたのはハチミツソースたっぷりのフルーツサンド。魔王はゴクリと生唾を飲み込むと目をキラキラさせた。
そうして、二人は声を揃えて、
「「いただきます」」をする。
「うむ。うむぅっ! 美味しいぞー!! 勇者はきっと良い嫁さんになるな!」
「男は嫁さんにはなれないって何度も言ってるだろ」
「そんなことはどーでもいいのだ!」
むしゃもぐむしゃもぐむしゃもぐ。
「あー、魔王。口にソースついてる。まったく、だらしないんだから」
そう言うと勇者は人差し指で魔王の口元についたソースを手に取りぺろり。
「もー、勇者! そういうのはきんしと言うておろう! まったくもー!」
「だらしない魔王がいけないんだよー。あっ、こっちにも」ペロッ。
「あああー、ぺろぺろしおってからに! ほんとけしらかんやつめ!」
頬を赤く照らす魔王。
ペロッたソースのそれは間接キッス。勇者もまた、頬を赤く照らしていた。
晴天の青空の下、ピクニックというには少々殺風景な闘技場。花や緑は無いけれど、互いに映るは一輪の花。
二人の笑顔が物語る。きっとどんな景色よりも美しいのだろう。
──二人の心は100万回のキンキンを経て通じ合っていた。しかし、それを言葉にすることはない。だって魔王と勇者なのだから。人族と魔族なのだから。
◇
「満腹満腹ぅ~。いつもありがとうな勇者」
「一人分作るのも二人分作るのも変わらないって言ってるだろ~。遠慮はいらないっての!」
「「ごちそうさまでした」」
お手手を合わせ満面の笑みでごちそうさまをする二人。
「なぁ、勇者。枕頼むぅ。午後一まで頼むぅ」
「ほんと、魔王はしょうがないんだから。ほら、おいで」
「うむっ!!」
ころんと勇者の太ももを枕にすると魔王はお昼寝をした。そんな魔王の頭を勇者は撫でる。
温かい時間が流れる。
午後も頑張る為の短い昼休憩。その時間は儚く短い。
午後一時になると魔王は起き上がった。
「よぉーし、じゅーでん完了! 三時のおやつまでキンキンするぞー!」
「望むところだ。魔王!」
そう言うと魔王はランチ前に投げ捨てた邪剣クロスソードを勇者は聖剣Xカリバーを怠そうに拾った。
「じゃあ、やろうか」
「うむ」
ため息も程々に剣を構えると互いにスイッチが入る。手加減は無用。己が極めし剣の道。
しかし、いつからだろう。その剣から殺意が消えてしまったのは。殺意無き剣では仕留めることはできない。
この決闘は必ず引き分けに終わる。今日も明日も明後日も。
キンキンキンキンキーンッ。
それでも二人は戦わなければならない。それが、勇者と魔王。“決闘”の定めなのだから。
その後、三時のおやつ休憩を挟み午後五時に決闘は終了。365回目の引き分けとなった。
◇
「えーっと、本日のキンキンカウンターは2368回っと。勝敗は激闘の末、惜しくも引き分け。詳細は~」
隅のベンチに座ると勇者は王国に提出するための日報を書き始めた。
長期に渡る引き分け。つかぬ勝敗。
決闘中止を称える声も少なくない。その為、日報の作成には手を抜けない。
一日でも長く決闘を続けるために──。
そんな勇者の姿を魔王はどこか切なげに眺めていた。
日を重ねる毎に日報に書かれる内容が終わりに近づいているからだ。
この日報は”一つのストーリー”を元に作成されている。さも勇者が優勢のような、時間の問題で勝利が訪れるような。そんな内容を毎日少しずつ書き記してきた。
──日報には“あと一歩”と記されていた。
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