上 下
16 / 28

しおりを挟む
「ああーー! っと!! レオン君! それ間違いだから!! 間違いッ!」

  リゼさんは何故か突然焦りだすように俺からくま退治の依頼書を取り上げた。

「ちょーっと仕事の疲れが溜まってるのかなぁ~、レオン君! あとで肩揉みしてくれるかなぁ~?」

「い、いいですけど……リゼさんの頼みならいくらでも……」

 どうしたのリゼさん……?

「じゃあ、もみもみしてね? たぁーくさん!」

 言い方が……如何わしい……。

 ど、どうしたのリゼさん本当に!


 「焼いちゃいますねぇ、これは!」
 「いやはや、我らの兄貴さんですからな!」

 グリードの子分たちが茶化してくる。

 先程の「えっ?」って雰囲気が一掃されたような……。なんかそんな感じだった。

「よしっじゃあちょっと待っててね! 今グリズリーの魔物の依頼書持ってくるから!」

「は、はい……?」

 ん……?
 グリズリー?

 確か、くまの魔物だったかな。

 魔獣ほど凶暴ではないけれど、グリズリーって言ったら……。

 察しの悪いを俺をみかねたのか、リゼさんにグイッと手を引っ張られコソコソと耳打ちされた。

 (「レオン君、わかってないみたいだから言うけどね、Bランク冒険者のそれもグリードと一緒に仕事するのにただのくまはないよ?」)

 ……はっ!
 ここにきてようやく、事の次第を悟った。

 危ない危ない。俺は強者を演じなければいけないんだった……!

 とはいえコソコソ話はコソコソ話だ。
 グリードの子分たちはニヤニヤしながら俺のことをみていた。

 「兄貴さん! ひょっとしてデートのお誘いでもされちまいましたか?」
 「羨ましいですな~!」
 「さすがは俺たちの兄貴さんっす!」

 子分たちがあいも変わらず茶化してきた。
 
 うまく誤魔化せたようだ。

 リゼさんに助けられた……。なんとお礼を言ったらいいか。
 
 
 そんなこんなでリゼさんが新たな依頼書片手に戻ってきた。

「おっ待たせ~!」

 花のような笑顔に場が和む。


「くまたん可愛いんだけどね~、レオン君に渡そうと思ってた依頼書は少し凶暴なほうのくまたんなのでしたー!」

 ひらひらと依頼書を靡かせながら、ニコッと受付の机に置いた。

 「くまたん……!」
 「くまたん……!」
 「くまたん……!」

 何故かグリードの子分たちは「くまたん」と小さな声で復唱しだした。


 ……うんわかるよ。ちょっと今のは可愛いかった。花のような笑顔で場はフローラルの香りにさえ包まれていた。

 リゼさんマジ感謝です……!

 そんな中、一人だけ腑に落ちない表情をしている者がいた。

 グリードだ。

「兄貴。グリズリーの討伐ですかい」
「ああ、不満でもあるのか?」

 とは聞き返して見たものの、その顔は不満そのものだった。

「……せっかく兄貴と一緒に仕事ができるのであれば、普段通りの兄貴がやっているようなAランクの任務でも構いやせんよ? 俺たちはなんというか、覚悟は出来てますんで。お気遣いは無用です」

 いやいや、俺は覚悟できてないから!
 一ミリたりとも気遣ったりなんてしてないよ?!

 レイラさんやリリィなしでそんな任務に就いたら死んじゃうから!

 死んじゃうから!!

 死んじゃうから!!

 ……とは言えるわけもなく……。

 のらりくらりと誤魔化す。

「バカヤロウ! 命を粗末にするんじゃねえ!」

「あ、兄貴! 俺らの身を案じてくれるんすね……! なんと慈悲深いお方だ……!」

 
 うん。ちょっとコツを掴んで来たぞ。

 これにて一件落着!
 さあくまたん退治に出掛けよー!

 と、リゼさんさながらな雰囲気で思ったのだが……。

「でもそこにあるじゃないっスか。魔獣の討伐依頼書……」

 しつこいな! またかよお前!

 でもこれは……。どうやって誤魔化そう。

 まるで今日の予定は魔獣討伐でしたと言わんばかりに、その依頼書は置かれている。

 そういうことかよ、グリード。
 この場を乗り切る言葉を模索していると、リゼさんがまたしても助け舟を出してくれた。

「気付いちゃったかぁ~。これはね、私とレオン君が二人でやっちゃおうかな~って思ってた依頼書なのだよ!」

「姉御と二人で?!」

 あ、姉御ってなんだよその呼び方。

「そうだよー。レオン君と中央広場で私の手作りお弁当でランチしてー、手繋ぎながら魔獣の巣食う場所までお出掛けする予定だったの!」

「な、な、な、な、なんと!!」

 リゼさん言い方!!
 グリードもおったまげちゃってるよ!

 でも確かに、魔獣の討伐に赴くのならリゼさんの手は絶対に離せない。

 むしろ陸の型「空から舞い降りるおパンツ」でリゼさんを抱きかかえながらの戦闘になるだろう。と、いうかそうじゃないと危険だ。

 きっと、たくさんスケベすることになる……。


「で・も、君たちがレオン君と仕事に行くって言うなら諦める。こういうのはさ、冒険者同士で行ったほうがいいから……。で・も! でもだよ? 君たちは今日初めてパーティーを組む。だからグリズリーを討伐してくること! 初顔合わせのパーティーなんだから無理はしないこと! いいかな?」

 「「「はい!!」」」

 グリードファミリーの元気な返事が響いた。


「すいやせん兄貴。せっかくのデートを邪魔する形になってしまいやして……」

「気にすんな。仕事優先。それにお前らとも一度パーティーを組んでみたいなって思っちまったんだ」

「あ、兄貴!!」

 うん。完全にコツ掴んだわ。
 こういうノリでいけば暫くはどうにかなりそうだ。

 そうして俺たちはグリズリーの討伐へと赴くことになった。


 ◇ ◇

 出発間際、リゼさんからお弁当を渡された。

「いただけないですよ。だってこれリゼさんの!」
「そう! そうなの! まさか今日来るとは思ってなかったからね~。でも明日はレオン君用のお弁当作ってきちゃうぞ~!」
 
「そ、そんな! 悪いですって!」

「……いいの。これはほら……。ねっ? だからさ、明日もここに来てね!」

 その言葉を聞いて、どれだけリゼさんに心配をかけたのかを悟った。

「……はい!」

 俺がリゼさんに返せる唯一のこと。
 それはたぶん、此処に元気な姿を見せにくること。

 だから俺は、元気な声で返事をした。

 リゼさんはよしよしと俺の頭を撫でると、少し心配そうに話した。

「あいつら、レオン君にかなり入れこんでるみたいで、忠誠心?的なの凄そうだから大丈夫だとは思うんだけど、元山賊って噂だからね。あまり信用はしないこと!」

 さんぞく?
 なんだ山賊って……?

 聞いたことあるようなないような。

 でも、あいつらの過去がロクなもんじゃないことくらいわかってるつもりだ。

 昨晩、なんの躊躇もなく俺を殺そうとしたくらいだ。そういうことが当たり前にできる奴ら。

 敵に回せば怖いが、味方のうちは頼もしい。

 利用すると決めた以上、腹は括ってる。


「わかりました。肝に命じておきます。リゼさん。何から何までありがとうございます。俺、頑張ってきます!」

「うん。いい子だね。頑張ってきなさい!」

 そう言うとポンッと背中を叩かれた。

「困ったことがあったらいつでもお姉さんを頼ること! レオン君は一人じゃないんだからね!」

 そう言うとリゼさんはスカートを摘んだ。

 きっとこれは、どうしょうもなく孤独に黄昏れた、あの酒場での俺を見ているからだ。

 リゼさんが感じる責任ってやつを少しでも取り除きたい。でもそれは、いきなりは難しい。

 だから俺はもう一度、明るく元気な声で返事をする。


「……はい!!」




 
 そんな日が来ないことを……切に願って。



 ◇
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】魅了が解けたあと。

恋愛
国を魔物から救った英雄。 元平民だった彼は、聖女の王女とその仲間と共に国を、民を守った。 その後、苦楽を共にした英雄と聖女は共に惹かれあい真実の愛を紡ぐ。 あれから何十年___。 仲睦まじくおしどり夫婦と言われていたが、 とうとう聖女が病で倒れてしまう。 そんな彼女をいつまも隣で支え最後まで手を握り続けた英雄。 彼女が永遠の眠りへとついた時、彼は叫声と共に表情を無くした。 それは彼女を亡くした虚しさからだったのか、それとも・・・・・ ※すべての物語が都合よく魅了が暴かれるとは限らない。そんなお話。 ______________________ 少し回りくどいかも。 でも私には必要な回りくどさなので最後までお付き合い頂けると嬉しいです。

貴方もヒロインのところに行くのね? [完]

風龍佳乃
恋愛
元気で活発だったマデリーンは アカデミーに入学すると生活が一変し てしまった 友人となったサブリナはマデリーンと 仲良くなった男性を次々と奪っていき そしてマデリーンに愛を告白した バーレンまでもがサブリナと一緒に居た マデリーンは過去に決別して 隣国へと旅立ち新しい生活を送る。 そして帰国したマデリーンは 目を引く美しい蝶になっていた

【完結】公女が死んだ、その後のこと

杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】 「お母様……」 冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。 古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。 「言いつけを、守ります」 最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。 こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。 そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。 「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」 「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」 「くっ……、な、ならば蘇生させ」 「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」 「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」 「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」 「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」 「まっ、待て!話を」 「嫌ぁ〜!」 「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」 「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」 「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」 「くっ……!」 「なっ、譲位せよだと!?」 「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」 「おのれ、謀りおったか!」 「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」 ◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。 ◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。 ◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった? ◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。 ◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。 ◆この作品は小説家になろうでも公開します。 ◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!

晩餐会の会場に、ぱぁん、と乾いた音が響きました。どうやら友人でもある女性が婚約破棄されてしまったようです。

四季
恋愛
晩餐会の会場に、ぱぁん、と乾いた音が響きました。 どうやら友人でもある女性が婚約破棄されてしまったようです。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

両親と妹から搾取されていたので、爆弾を投下して逃げました

下菊みこと
恋愛
搾取子が両親と愛玩子に反逆するお話。ざまぁ有り。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

浮気の代償~失った絆は戻らない~

矢野りと
恋愛
結婚十年目の愛妻家トーマスはほんの軽い気持ちで浮気をしてしまった。そして浮気が妻イザベラに知られてしまった時にトーマスはなんとか誤魔化そうとして謝る事もせず、逆に家族を味方に付け妻を悪者にしてしまった。何の落ち度もない妻に悪い事をしたとは思っていたが、これで浮気の事はあやふやになり、愛する家族との日常が戻ってくると信じていた。だがそうはならなかった…。 ※設定はゆるいです。

処理中です...