上 下
3 / 28

3 綺麗なお姉さん、脱退

しおりを挟む

「馬鹿な子ね。ほんと、不器用なんだから」

 隅の椅子に座り爪の手入れをしていたレイラさんが、静かに口を開いた。

 レイラさんは綺麗なお姉さんでとても品のある女性だ。凛として美しく、麗しの乙女などと言われたりもしている。
 サポート系の魔法を得意とし、その道においてはスペシャリストと言っても過言ではない。

 魔術学校時代の二つ上の先輩で、元、王都騎士団所属のエリート。

 爺ちゃんが俺を魔術学校に入学させる際に使ったコネが、レイラさんのお父さんだったりもする。

 そんなこんなでラッキースケベ流に関しては多大な理解をもっている。

 かと言って、状況は最悪だ。
 きっとレイラさんだって不安に違いない。

「レイラさん……。すみません。これからは二人で大変ですが。俺、頑張りますから‼︎ レイラさんに負担が掛からないよう、たくさん頑張りますから‼︎」

「あー、ごめんなさいね。ヘンタイちゃんのことは好きよ。でもね、二人きりってのはちょっと無理かな~」

「あの……無理とは?」

 俺は目をパチクリして聞いた。

 レイラさんは普段から俺をからかってくるのだが、普段と少し声のトーンが違ったからだ。

 無理って言葉の意味を考えると、聞き返さずにはいられなかった。

「年頃の男女が二人きり。あなただって子供じゃないんだからわかるでしょ?」

「わ、わかりません。お、俺、まだ子供ですから‼︎」

 あ……れ。
 レイラさんはラッキースケベ流に多大な理解がある……はず。

 でも、この展開は……。

「もう二十歳になったでしょ。お酒だって飲める。こういう時だけ子供振るのはダメよ」

「……レイラさん、まさか……スケべが嫌になったんですか?」

 結局また、このパターンなのか……。

「そうじゃないのよ。わたしの言いたいこと、わからないかしら?」

 困り顔のレイラさん。
 嫌じゃないとは言ってくれてるけど、これは……。

「俺は……レイラさんと一緒に居たいです」

「ダメよ。そのお願いは聞けないわ。男はみんなそう言って、恋に落ちてしまうのだから。……もうね、ヘンタイちゃんとはパーティーではいられないのよ。お願いだからわかってちょうだい」

 そう言うと、銀プレートの首飾りを外した。

「レイラ…………さん」

 ただ、名前を呼ぶことしかできなかった。
 もう、何を言ってもお別れだと悟ってしまったから。

「ごめんなさいね。でも、寂しくなったら、いつでもうちにいらっしゃい。ご馳走するわ。だから、パーティー活動はここでおしまい」

 終わったんだ。
 俺のパーティーは、いま、この場をもって。

 いや、まだだ。俺はパーティーリーダー。まだ、リーダーなんだ。

「……はい。それで、退職金ですが……いま持ち合わせがないので、一度家に帰って取ってくるので」

「馬鹿ね。そんなものいらないわ。自分のために使いなさい」

「で、でも」

「でもじゃないの。あなたは立派なパーティーリーダーだったわよ。わたしが太鼓判を押してあげる。楽しい時間をありがとうね」

「レイラさん……レイラさん……」

 あぁ、ダメだ。涙を……抑えられない。……でも、俺はパーティーリーダー。涙は……見せられない。

 そんな、必死に涙を我慢する様子に気付いたのか、レイラさんは気遣うように別れの言葉を言った。

「さよなら。ヘンタイちゃん。お互い、笑顔のうちに……ね」

 そして、静かにパーティーの証である首飾りをテーブルの上に置くと、アジトから出て行った。

 テーブルの上には、全部で三つの銀プレートの首飾り。

 それは、事実上のパーティー解散を意味した。

 アジトに一人、取り残される俺は、
 溢れ出す涙を止めることができなかった。

 ◇
 俺の日常は、こうしてあっけなく……終わりを告げた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

処理中です...