上 下
11 / 18

11

しおりを挟む

 食後のデザートタイム。
 今日はカリンの大好きなカップアイスにした。

 ニコニコしながら食べている。

 言うなら今。いましか……ない。

 生唾を飲み込み意を決する。ゴクリ……!

「じ、実は今日な、学校帰りにカリンの友達とバッタリ会ってな。少し話してきたんだ」

「へえ。そうなんだ」

 それはあまりにも気の抜けた返答だった。

 パクッとして、にぱぁ!
 変わらずにカップアイスを頬張っている。

 意を決して話したはずが、以前と以後でなにも変わらない。

 あれれ……。んんん?

「お、おお。陽菜ちゃんと雫ちゃんな。よく話してたろ?」

「……ああ! 懐かしい名前だね。知ってる知ってる」

 そう言うとまたしてもパクッとして、にぱぁ!

 まるでありふれた日常会話をしているような、そんな雰囲気。

 カップアイスに夢中でわかっていないのか。なんにしてもこれは好機。言うなら早いほうがいい。

 “勝手なことして。お兄ちゃんのバカ!”

 これくらいの覚悟はしている。
 さぁ、カリン。俺のことを叱ってくれ。

 お兄ちゃんな、勝手に出過ぎた真似をしちゃったんだ。

 少し早いが最終フェーズ。手紙を渡すとしようか。
 さすがにこれを見れば事の次第に気付くはず……!


「それでな、手紙を預かって来てるんだ」

 カリンに手紙を渡すと、アイスを食べる手を一旦置いた。
 ダイニングテーブルの上に手紙を広げると、カップアイスを頬張りながら眺めた。

「へえ~。こういうの懐かしいかも。小学生って感じがすごい伝わってくる……! 可愛いなあ」

 スプーンを咥えながら笑みを浮かべた。

 うんうん。と俺も微笑みたいところだが、言っていることが若干おかしい。

 ……若干? いやいや、明らかにおかしい。

 しかもこれでは会話が終わってしまう。……少しだけ、踏み込むか。

「手紙、なんて書いてあるんだ?」

 書いてある内容は知っている。
 早く学校来てね。とか、一緒に遊びたいよ。とかそういう類のことだ。それに絵がいっぱい書いてある。

 言ってしまえば絵ハガキみたいなものだ。

「うーん。学校来いって書いてあるね」

 そう言うとシュンとした。
 
 その顔を見てハッとするも、カリンの視線は手紙からカップアイスへと移り変わっていた。

 どうやら食べ終わってしまったようだ。

 いやいや。まさかな。そんな、まさかな?

 そのシュンはカップアイスの喪失が原因だとでも言うのか……。そんなまさか!

「良かったらお兄ちゃんのも食べるか?」

 一瞬、笑顔が戻った。……あぁ。察し。

「いい。それはお兄ちゃんのだから」

「今日はもう食べれそうになくてな。カリンが食べてくれないとなると、このアイスは……」

「……なら、食べる!」

 笑顔が完全に舞い戻った。

 先ほどまでの話は何処へと。
 パクッとして、にぱぁ! カリンの笑顔がただただ可愛い、食後のひととき。

 それを眺めて俺もホッコリする。

 ……いや。いやいや。

 なにかがおかしい。
 なにかが……違う。

 その“なにか”はひとつやふたつじゃない。

 会話も反応も、全体的におかしなことばかりだった。

 どうしちゃったんだよ……カリン……。

 もう、学校に通っていたことは遠い過去の記憶だとでも言うのかよ……。


 ──……カリンだけがスマホを持っていない。そのことが、脳裏を駆け巡った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貴方を捨てるのにこれ以上の理由が必要ですか?

蓮実 アラタ
恋愛
「リズが俺の子を身ごもった」 ある日、夫であるレンヴォルトにそう告げられたリディス。 リズは彼女の一番の親友で、その親友と夫が関係を持っていたことも十分ショックだったが、レンヴォルトはさらに衝撃的な言葉を放つ。 「できれば子どもを産ませて、引き取りたい」 結婚して五年、二人の間に子どもは生まれておらず、伯爵家当主であるレンヴォルトにはいずれ後継者が必要だった。 愛していた相手から裏切り同然の仕打ちを受けたリディスはこの瞬間からレンヴォルトとの離縁を決意。 これからは自分の幸せのために生きると決意した。 そんなリディスの元に隣国からの使者が訪れる。 「迎えに来たよ、リディス」 交わされた幼い日の約束を果たしに来たという幼馴染のユルドは隣国で騎士になっていた。 裏切られ傷ついたリディスが幼馴染の騎士に溺愛されていくまでのお話。 ※完結まで書いた短編集消化のための投稿。 小説家になろう様にも掲載しています。アルファポリス先行。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...