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二章

三十九話

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「これ、これ……ほ、ほ、ほ、ほんとにコーヒーの匂いした?!」

 手にはニーハイ、壁ドン。せいぜい半畳の狭過ぎる脱衣所。

 ドンッ。追撃と言わんばかりに放たれたのは〝股ドン〟

 ──逃げ場はなし。


 真剣な眼差しのヒメナちゃん。

 コーヒー街道を突き進むしかないっ‼︎


「とっても香ばしくて……わたしはいい匂いだと思ったけど? そ、それがどうかしたの?」

 クッ。少し噛んだっ。

 

「嘘ッ。絶対嘘。慰めてるつもり? そういうの一番傷付くんだよ? 許さない。馬鹿にして」

 そんな泣きそうな顔して……。
 お姫様だもんな。機会が無かったのだろう。

 ブーツを履いてれば誰にだって起こりうる事。何もヒメナちゃんが特別って訳じゃない。

 ──この気持ち、届けッ‼︎


 俺は取り上げた。ヒメナちゃんからニーハイを。

 そして……自分の顔に……
 ぐしゃ!! ぐしゃぐしゃ!! 押し付けた‼︎


 ──ゼロ距離‼︎ バースト‼︎



 うおぉぉぉぉ!!! クンカクンカ!!!


 すぅぅぅぅ。意識が……遠のく……。
 目の前には下着姿のヒメナちゃん。


 力を貸してわんわん。

 〝はぁぁっ!!〟


〝わんわんモード発動‼︎〟


 ──さぁ、わんわんの時間だ。


 ワオォォォーーーーン‼︎
 


 クンクンクンクンクンクンクンクンクンクン。

 壁ドン股ドンされる中、目の前で俺は……〝それ〟をクンクンして見せた。そして、満面の笑み。


「あ、アヤノちゃん。本当なの? 信じていいの?」

 笑顔で大きく10回頷いた。

 わんわんくんくんくんわんわん‼︎

「あ、アヤノちゃんっ。アヤノちゃん‼︎ 疑ってごめん。許して……っ」

 目を閉じるのと同時にニーハイを鼻から離す。

 わんわんモードOFF。

「ううん。しょうがないよ。これはわかる人にしかわからないから。わたしは単に違いがわかるだけ。この香ばしさは、きたて、焙煎ばいせんだよ。癖になるやつ‼︎」

「嬉しいっ。あ、あ、あたしも‼︎」

 ちょっ?! ヒメナちゃんは勢いよく、ぐしゃ!! っとニーハイを鼻に付けた。


「あたしも……違いがわかる女になる‼︎ うっ」

 泣いてるのか? 

「ぐすっ。うぅ。ごめん。ごめんねアヤノちゃん」


 待ってくれよ。こんな結末は望んでいない。
 これじゃあ、まるで……。


 ダメだっ。コーヒー街道を突き進むんだ‼︎


「なぁんだ。ヒメナちゃんにはまだわからないんだね! いつか……違いがわかるようになれればいいねっ!! クンクン」

 再度、嗅いでみせる。そして、本気の目で、笑顔で見つめる‼︎


「違うの。あたし嘘ついてたの……。許してほしいの。ごめん。ごめんねアヤノちゃん」


 なんだ? どういう事だ? 謝られる言われは無いぞ? むしろ今まで、違う世界だけど助けられてばっかりだった。

「ヒメナちゃんが良い子だって事は知ってるよ。お礼をしてもしきれないくらい。ありがとうだよ」
 

「違うの。あたし……アヤノちゃんの事を殺そうとしてたの……。もう嘘はつけないよ。あたしが守るから。絶対に守るからっ」


 ──タタタタタタタッ。ガチャンッ。


「おい、ヒメナ。今のはなに? アヤノちゃんを殺す?」

 エリリン?! それはもう狂気的な表情で〝ドアドン〟をしてのご登場だった。


 1kのお部屋。そりゃそうだ。聞こえるよね。


「ぐすっ。違うのっ。ぐす」
「全部丸聞こえなんだよ。言えよ?! 信用してたのに……騙してたのかよ?!」

「ぐすっ」


「泣いてれば済むと思ってんの? まさか……魔力切れの今の状態もわざと?!」

 そうだ。勝ち目はない。口では強がっているけど、今ガチでぶつかり合えばエリリンに勝ち目はない。

 ──今のエリリンはチワワなんだ。


「ごめん。エリリンと殺し合いはしたくなかったから。でも、自分の目で見極めたかった。エリリンが守るに値する子なのか否か」

「値って。物じゃねーんだよ?!」

「それが、あたしたちの仕事でしょっ」

「…………」



 エリリンは黙ってしまった。
 そうだ、他の世界なら誰よりも任務に忠実だったのだから。当然の反応だ。


 ◇◆◇

 この話の流れ、まるで……わざと脚をバタバタさせてたみたいじゃないか。エリリンの魔力切れを狙っただと?

 策士。……いや、主演女優賞もんだ。

 薄々勘付いてはいたけど、この子は馬鹿じゃない。

 しかし、コーヒーの下りが全てを否定する。

 ──馬鹿なの? 計算なの? ねぇ、どっち?!
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