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二章

三十二話

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 ハッ!!

 ふかふかベッドの感触。無駄に広い静かな部屋。

 懐かしいこの感じ……。戻って来たんだな。


 すぅぅぅぅ。僅かに感じるチロルちゃんの残り香。
 長い時間抱いていたからか、匂いが体に染み込んでいる。

 その匂いが覚悟を引き立てる。
 大丈夫。今回は上手くやるっ! 

 ◇
 
 パンパンッ。

「セバス~セバスはいるかしら~」

 とりあえず爺さんを呼ぶ。大量に買い込んだ魔道具の整理から始めよう。


 ササッ、スッ。ふかふかベッドの前に跪く。

「お呼びでしょうか。アヤノさ──。な、なんと?! なんと?!」

 目を見開きしどろもどろ。

 なんだよ爺さん。まぁ、久しぶりのこの雰囲気。悪くはない。ドジっ子メイドも慣れてしまえば癒し系。


「落ち着きなさい。乙女に対して、いいえ。主に対して失礼ではありませんか?」

「も、も、申し訳ございません。あまりの美しさに目が……目がぁぁぁ」

 なるほど。嬉しいな。頑張って可愛くなった甲斐があったよ。


「う、麗しの乙女。いや、おしとやかにして漂う幼さ。それに反してその巨乳!! 幼さと大人を掛け合わせたハイブリッド。このセバス、感激の極みにございます。ゴクアーク家に仕えて半世紀。まさかこのような奇跡が。目の保養にございます。うぅ」チラッ。

 チラッ。

 言葉のチョイスおかしいだろうが!!
 卑猥な目で二度見された気もするし……。ドジっ子メイドからロリコンにジョブチェンジしたいのか?

 でも、あやのちゃんはそれほどまでにって事だ。

 本来、ロリコンとは程遠い位置に居たはずのセバスをも魅了した。


 チラッ。チラッ。チラッ。


 じーーーーーーっ。

 チラ見は仕方ない。けど、ガン見はダメだぞ?
 片付けしようにも手がつかないだろうし、しつけるか。

「セバス。それが主に対する視線ですか?」
「も、も、も、申し訳ございません」

「わかればよろしい。以後、気を付けるように。ゴクアーク家に仕える身として、しいては執事としての品を忘れぬように」
「ははー」

 険しい顔つきに変わり目力が入った。バカ真面目、言われた事には忠実。
 使えるかどうかはさておき、良い執事だよ。
 片付けが終わったら今回も逃がしてやるからな。ちゃんと生きろよ。



 可愛くなると気苦労も増えるんだな。こればかりは万物共通。永遠のテーマにして悩みか。

 ◇


 ──片付けも終わりセバスを逃した。
 

 さてと! んーっと!
 ナチュラルにさりげなく透明グロスを塗る。
 チロルちゃん直伝。唇に塗るだけ。
 あら簡単、まぁ不思議!! 

 食べちゃいたくなるような唇に大変身‼︎


 ◇


 精神統一。深呼吸。

 すぅぅぅー。すぅぅぅ。すぅぅぅぅぅぅ。
 うっ、……はぁはぁ。

 ──漲る女子力。滾る女子力!!

 乙女の匂いに酔いしれる。

 鏡に映るは絶世の清楚系ロリ美少女。


 あぁ。準備は出来てる!
 あとは勇者レオを虜にするだけっ!



 ──さぁ、フィナーレの時間だ!
 四股クズ勇者に鉄槌を!!!!!
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